琥珀色の戯言

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【読書感想】美術館へ行こう: ときどきおやつ ☆☆☆

美術館へ行こう: ときどきおやつ

美術館へ行こう: ときどきおやつ

内容(「BOOK」データベースより)
日々のあいまに、旅の途中で、思い立ったら、ぶらり。北海道から鹿児島まで街になじんだ、居心地のよい、24の小さな美術館へ。鑑賞後のお楽しみも忘れずに!


 日本という国には、美術館や記念館がたくさんありますよね。
 馴染みのない土地で車を運転していると、「○○美術館」という案内板を見かけて、「こんなところに美術館があるのか……でも、聞いたことがない名前だよなあ。誰か観にくる人がいるのかなあ……」なんて思うのです。
 この本を読んで、「ああ、この著者の伊藤まさこさんみたいな人が、こういう美術館を支えているのか」と。
 「美術館や記念館をつくってはみたものの、お客さんが来なくて困っている」と嘆いている開設者は少なくないようです。
 それで、行政や地元のメディアに「もっと宣伝してくれ」とお願いをしにくるのだけれど、すべての要望に応えるわけにもいかなくて大変なのだとか。
 

 この本では、著者が日本各地にあるお気に入りの「24の小さな美術館」と、その美術館内、あるいはその近くにある「おやつ」が紹介されています。
 訪問する側にとっても、大きな公立の美術館は、チケットを入って作品を観賞するイメージがわきやすいのですが、前述したような「小さな美術館」は、けっこう敷居が高いですよね。初めて訪れた町の商店街の、お客さんの姿が見えない店に入るようなプレッシャーがあるのです。
 読んでいると、美術館めぐりの達人である著者は、それぞれの施設の人の心にスッと入っていって、言葉を交わしながら何時間もお気に入りの作品を眺めている、ということもあるようです。
 うーむ、それは僕にはちょっと難しいよなあ。どういう状況に居心地のよさを感じるか、というのは人それぞれで、親密さやコミュニケーションがあったほうがいい人と、なるべく自分の存在を消して、透明人間のような存在として作品を観賞したい、という人がいると思うのです(もちろん、その中間の人もいるでしょう)。
 著者は前者で、僕は後者なので、「ここに紹介されている美術館の作品や建築にはすごく興味があるのだけれど、事前に連絡して、『おもてなし』をされるのはきついというか、めんどくさいな」という気持ちが先に立ってしまいます。
 自意識過剰ってやつで、実際は、そんなに構ってもくれなかったり、けっこう大勢の人が訪れていたりするのかもしれませんが。
 

 読んでいると、本当に、日本中には「行ってみたら面白い小さな美術館」がたくさんあるのだな、と感心するんですよ。そして、実際に行く機会はなかなかなくても、掲載されている写真を見ているだけでも楽しい。
 そして、「日本中」とはいえ、東北地方、中国地方の美術館は採りあげられておらず、四国と九州はひとつずつと、九州在住の僕としては、「こういうのが『文化的な格差』ってやつなのかな……」とか、ちょっと思いました。


 岐阜県高山市のフィン・ユール邸は、写真でみると、黄色い屋根に青い窓枠、赤と白の壁など、「レゴブロックみたい!」って言いたくなるシャープな建物です。
 この建物のオリジナルは、デンマークの家具デザイナー、フィン・ユールさんが1941年、29歳のときに自ら設計した家だそうです。
 それをデンマークで観た家具メーカー「キタニ」の会長さんが、そのフィン・ユール邸を飛騨高山に再現したのです。

 とはいえ現実には様々な困難があったそうです。「まず、再現するのは現存するコペンハーゲン郊外の家ではなく、1941年段階でフィン・ユールが設計したオリジナルとすることに。フィン・ユールの遺産を管理する財団の顧問建築家の指導のもと、できるだけ忠実に再現することを目指しました。とはいえ同じ素材が見つからなかったり、レンガ積みの工法が日本の建築基準法には適合しないなど、問題は次から次へと出て来ましたが、そのたびにオリジナルを損なわないためにどのようにすればいいのを考え、ひとつひとつクリアしていきました。
 高山の光と相談しながら調整したという壁の色や、「きれいすぎないように」と左官職人さんに指示しながら塗ってもらったという暖炉(なんと最後は素手で仕上げたとか)、端の部分がさりげなく丸みを帯びた棚の扉など、フィン・ユールの細かなこだわりを見て欲しい、と田中さん。「でもね、ここでコーヒーを飲んだりのんびりしてもらって、この家を身近に感じてもらえたら、私たちはそれだけでうれしいんですよ」


finn-juhl-house-takayama.org


 ほとんど趣味の世界で、これで儲かるわけでもなさそうなのに、ここまで徹底的にやっているのか……と驚かされます。これは「インスタ映え」しそうだよなあ。


 東京駅前に『インターメディアテク』という東京大学の研究資料や学術標本が展示されている施設があるというのもはじめて知りました。このロケーションに入場無料のこんな施設があるなんて、贅沢ですよね。僕も今度東京駅に行ったときには、寄ってみるつもりです。
 こういうのって、東京の人にとっては、「そんなことも知らないの?」って感じなのだろうけど。


INTERMEDIATHEQUE
 ここって、眞子さまが客員研究員として勤めていた施設だったんですね。


 メジャーどころ(?)では、東京都港区の『岡本太郎記念館』も紹介されています。

 ここ、岡本太郎記念館は、岡本太郎(1911〜96)が84歳で亡くなるまで暮らした住居とアトリエ。没後、記念館となり今に至ります。
 ブロックを積んだ壁の上に凸レンズ型の屋根が乗った一風変わった建物を建築したのは先生の友人の坂倉準三氏。建築当時はそのユニークさが話題を呼んだといいますが、70年近い時を経て青山の地にすっかり溶け込んでいます。ここで先生はデッサンや彫刻、さらには万国博覧会の《太陽の塔》をはじめとする巨大なモニュメントの構想も練ったとか。
「爆発空間」という呼び名の通り、いつ訪れても先生の息遣いが色濃く感じられるこの空間。高い吹き抜けのアトリエを覗き込むように見ている時など、奥からご本人が飛び出してくるのでは?と思うほど。ひとりの人間の中にいったいどれくらいのエネルギーが潜んでいるのだろう?ここに来るたび、そう思わずにはいられなくなるのです。


ようこそ岡本太郎記念館へ!


 僕がいちばん行ってみたいと思ったのは『多治見市モザイクタイルミュージアム』でした。
 お風呂のタイルって、そういえば、いつのまにか見なくなりましたよね。温泉に行くと、まだタイル張りの洗い場が残っているけれど。このミュージアムで「はじめて見た」という若い人もいる、というのを読んで、時代の流れを感じずにはいられませんでした。


www.mosaictile-museum.jp


 「美術館」というと、絵画のイメージが強いかもしれませんが、絵画中心の施設の紹介は少なめです。
 そして、著者と好みが合うかによって、ガイドブックとしての評価は大きく変わる本なので、書店で内容を確認してからの購入をおすすめします。


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