琥珀色の戯言

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【読書感想】ゴミ清掃員の日常 ☆☆☆☆

ゴミ清掃員の日常

ゴミ清掃員の日常


Kindle版もあります。

内容紹介
『ゴミ清掃員の日常』と題し、ゴミ清掃にまつわるさまざまな話題を独自の視点で描いたマンガをTwitterにアップし、バズりにバズる。
マンガ『ゴミ清掃員の日常』は滝沢がネームを、滝沢の妻が作画を担当する。マンガはどちらも素人による夫婦共作。掲載は「コミックDAYS」「マガポケ」「Palcy」といった漫画アプリ3つに加え「現代ビジネス」の講談社の4媒体で同時連載という異例のかたちになっている。

売れない芸人・マシンガンズの滝沢は家族を養うためにゴミ清掃員に。何気ない暮らしの中で見つけた。面白くてためになるゴミ知識と消費税分くらいの小さな幸せをお届けします。


 僕は最初、この本を読みながら、こんなふうに考えていたのです。
 マシンガンズの滝沢さん、ゴミ清掃員という仕事のおかげで、売れなくても芸人を続けられていて良かったよなあ。こういう、やりたいことをやるために、やりたくないことでも稼げる手段を持っているというのは強いよなあ、って。

 結果的に、滝沢さんは、「ゴミ清掃員としての体験」で、芸人としても注目されているわけで、人間、何が幸いするかわからない。

 正直、ゴミ清掃員として朝から夕方まで働いて収入を得て、夜はギャラがほとんど出ないお笑いのライブに出演する、という生活は、本人にとっては「きつくても充実している」のかもしれないけれど、妻や子供にとってどうなんだろう、と思うところもあるのです。
 実際、この本の最後のほうに、家庭に起こった問題についても触れられています。

 ただ、そういうのって、「じゃあ、オトナになって、芸人の道はあきらめて、ゴミ清掃員として(あるいは、他の仕事をして)収入を得て、プライベートでは家族と一緒の時間を増やせばいい」かというと、本人はそれでは満足できないのでしょうね。
 ゴミ清掃員としての仕事と、芸人としての夢。家庭人としてのありかた。
 僕のなかには、これを「美談」とか「家族愛」として美化して良いのか、滝沢さんの「芸人であることへの未練」がなければ、家族はもっとラクになれるのではないか、という気持ちもあったんですよ。
 その一方で、「芸人であるというアイデンティティを失った『お父さん』が、毎日浮かない顔をして人生をやり過ごしている姿」は、家族にとっても悪影響しか与えないかもしれないし。
 滝沢さんは「日常の幸せ」を説きながら、自分自身は「日常の幸せ」だけでは満足できていないのです。
 ああ、ものすごく正直な人だなあ、とも思いました。
 
 そんなモヤモヤした感情はさておき、この本、日ごろはちゃんと分別して出しているつもりの僕にとっても、けっこう勉強になりました。
 いま、「健康で文化的な生活」をしていると、ある程度のゴミは出るし、ふだんの生活で、「ゴミの分別が人生の最優先事項」なんて人はほとんどいないはずです。
 ああ、そういえば今日は「ゴミの日」だった!と、あわてて散らかっているものをゴミ袋に詰める、なんていうことも少なくない。
 
 ゴミ清掃員というのは、僕のイメージとしては、「収集所に置いてあるゴミを収集車に乗せてセンターに運んでいくだけ」の仕事だったのですが、何度も屈んでゴミ袋を集めるだけでもけっこう腰にくるし、収集車が入れない細い路地では、自分の足でゴミを回収に行かなければならないそうです。においもあるし、ゴミの種類によってはケガをしたり、収集車を傷めたり、スプレー缶が原因で火事になってしまうこともある。
 また、清掃員には仕事前にアルコールチェックがあるというのもはじめて知りました。

 自治体のゴミ収集についてのアナウンスって、ネットとかで確認しても、けっこう「これは『燃えるゴミ』なの?それとも『資源ゴミ』なの?」とか、「専用のゴミ袋があるの?ないの?」とか、わからないことが多いんですよね。
 ペットボトルの捨てかた、なんて、けっこう地域によっても違いますし。
 いまはCDやCDケースも「燃えるゴミ」で大丈夫なところが多い、というのも初めて知りました。以前より高温で燃やせるようになったからなのだそうです。
 
 あと、読んでいて印象に残ったのは「引っ越しを考えているとき、近くのゴミの集積所を確認してみる」という話でした。
 集積所が汚かったり、整理されていないと、管理が行き届いていなかったり、地域が荒れていて、コミュニケーションに乏しかったり、という傾向があるのだとか。
 ドラマなどでは、「他人の家のゴミ出しにケチをつける意地悪な隣人」が批判されることが多いですし、僕も「そういう人が近所にいたら嫌だなあ」と思いますが、みんなが好き放題やっている、というのも問題なんですよね。
 ゴミ集積所には、その地域の「品性」が反映されやすいというのは、理解できます。

 あらためて思うのは、ゴミを出すのが人間なら、それを回収するのも人間だ、ということなんですよ。
 「スプレー缶がひとつ出てくるだけで大騒ぎになるので、スプレー缶はスプレー缶でまとめておいてくれると助かります」
 その袋に、マジックで書くか、紙を貼って「スプレー缶が入っています」とわかるようにしていてほしい、と。
 ゴミを出すほうだって、相手が人間だと意識していれば、知らない人だって、ケガをさせたり、危険な目に遭わせたりはしたくないはずです。
 「そのくらいのこと」をやっていれば、リスクはかなり減らせる。
 ふだんの生活のなかで、「ちょっと忙しい」とか「めんどくさい」とかで、「まあいいか」と省いてしまうのもわかるのだけど、この本を読んだら、多くの人が、その「ひと手間」をかけたくなるはずです。


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