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きっついお仕事―いわくありげな職業19種すべて体験 ([テキスト])
- 作者:和田虫象
- 発売日: 2020/05/01
- メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
巷には、人気が高く就きたくても就けぬ職業がある一方、普通の人がおいそれと手の出せぬ、怪しくて、危なくて、キツイ仕事がある。例えば、ホモ雑誌のグラビアモデル、例えば、高層ビルの窓拭き。例えば、ラブホテルの清掃員。本書は、フリーライター・和田虫象が“きっついお仕事”全19業種を体験し、その中身をリポートしたものだ。給料の良し悪しから、採用条件、働く環境まで。求人サイトでは絶対にわからない仕事の裏側!
著者自身が、世の中にたくさんある「きっついお仕事」を体験した連載をまとめた本です。
書店でみかけて購入したのですが、第1刷発行は2020年5月11日になっているので、最近まで連載されていたものの単行本化だと思い込んでいたのですが、「まえがき」によると、「2003年1月より『裏モノJAPAN』に2年間にわたって掲載されたもののなかから、19回を選んだものなのだとか。
えっ、最近の話じゃないの?というか、20年近く前?
ちなみに、この連載は、2011年に一度単行本化されていて、2017年には文庫になっているようです。2017年の文庫では「20種の仕事」になっているので、何が除外されたのか、ちょっと気になります。
正直20年間と現在、2020年では「きっついお仕事」の内容や条件もだいぶ変わっているのではないか、と思うのです。たとえば、新聞拡張員とか、今はもっと大変になっているのではなかろうか。というか、職業として現在も成り立っているのだろうか。
引っ越しスタッフとか、交通誘導警備員とかパン製造工場あたりは、そんなに大きな変化はなさそう、ではありますが。
実際、19の仕事体験記のうち、3分の2くらいは、2020年でも同じような感じではないか、という気がするのです。
テレワークに変えられるような仕事は、どんどん変化・進化していくけれど、「害虫駆除」とか「養豚場飼育員」をテレワークでやるのは難しいだろうし、「新訳臨床試験ボランティア」をAI(人工知能)に代わりにやってもらうわけにはいきませんよね。
いやしかし、なかなかハードというか、世の中にはいろんな仕事があって、いろんな人がいるのだな、ということを考えさせられる本ではあります。
「害虫駆除」の回より。
かつて、部長はとある一流企業を退職後、貯金をつぎ込み、夢だった喫茶店を始めた。が、商売は軌道に乗らず、わずか1年で店じまい。仕事はないが、家族は食わせねばならない。その葛藤の最中に、今の社長から誘われ入社を決めたそうだ。
「ホント、人生なんてわかんないもんだな」
よくある話なのかもしえない。が、私は1人の熱い男の生き様にえらく感動させられてしまった。部長、カッコいいっす。
翌朝、眠い目をこすりこすり例の中華料理店へ向かう入り口のドアを開け、そっと厨房に入ると…いたぁ!
体長約20センチのクマネズミが1匹、キーキーもがいてる。わっちゃ、グロいぜ。
「和田ちゃん、その粘着マット、折り曲げたまま持ってきて」
「え…ええっ!? いや無理無理、オレできませんって」
「大丈夫だから」
仕方なく、マットを折り曲げ、ひょいと摘み上げる。中でガタガタ暴れ回るネズミ。この弾力、キモすぎ!!
半泣きでマットを差し出すと、部長は何食わぬ顔で新聞紙にくるみ、そのままポリ袋に放り込んだ。で、次の瞬間、私は見てはイケナイものを見てしまう。
なんと部長、生きたネズミ入りのポリ袋を、外の一般ゴミ捨て場に投げ捨てたのだ。あ、あのぉ、さすがにそれはマズイんじゃ…。
「内緒だぞ。大半の同業者もこうやって処理してんだから」
この原稿が、しばらく単行本化できなかった理由も、わかるような気がする……
この本を読んでいると、日当をもらったらすぐに酒とつまみを買って酔い潰れてしまう日雇い労働者たちの話なども出てきます。
彼らは別に悪いことをしているわけではない。
「いざというときのために少しは貯めておけばいいのに、とか、自分の価値を高めるためにお金や時間を使ったほうが、長い目でみれば得なのではないか、というような「常識」なんて関係ない、という生き方をしている人たちが、世の中には少なからずいるのです。
この害虫駆除会社の話、読んでいて、ひどいことするなあ、と思ったのですが、この部長は著者に対しても親身になっていろいろ教えてくれていますし、「いい人」なんですよ本当に。でも、自分がその仕事をやる立場になると、「みんなこうやっているのだから」と、生きたネズミをゴミ捨て場に投げ捨ててしまう。
ちゃんと「処理」すべきではあるとは思う。著者は「ゴミ清掃員」の仕事も体験していて、その大変さも紹介していますし。
その一方で、世の中には、こういう「反則」ってたくさんあるんだろうと思います。ちゃんと「処理」までする業者と、ゴミ捨て場に放り投げる業者だったら、前者のほうが料金が安くて、多くの人が前者を選ぶことだってありえます。
僕自身も、自分がやりたくない仕事に関しては、他者が目に見えないところで、さまざまな「ズル」をしているかもしれなくても、「それでやってくれなくなるよりは、見て見ぬフリをしてしまう」人間なのです。
あと、これらの仕事の「きつさ」の中には、「他人とトラブルを起こしてはいけないが、接する人をこちらから選べないことが多い、というのもあるのです。
著者が新聞拡張員として働いたときの出来事。
とあるアパートの一室をノックしたときのことだ。
「はい、誰?」
ゆっくりドアが開き、チリチリのパンチパーマを当てたニイちゃんが顔を出した。
「あ、あの読売新聞なんですけど、少しの間だけでもいいんで、取ってもらえないでしょうか?」
「新聞? いらねーよ」
「3カ月だけでも構わな…」
ガシッ。ことばを言い終わらぬうちに、いきなり胸ぐらを掴まれた。ちょ、ちょっとぉ、何するんですか!
「お前らさ、なんでそんな図々しいの? 鬱陶しいんだよ!
「ちょっと、わかったから手ぇ離せよ」
「ナニィ!?」
「Tシャツ伸びちゃうだろ。離せよ!」
思わず声を荒げたのがマズかった。無言でいったん部屋に引き返したパンチが、バットを握りしめ戻ってきたのだ。ふんぎゃー!
アパートの階段を駆け下り、チャリンコに飛び乗る。後ろから怒声が聴こえたが、振り向く余裕はない。必死にペダルを踏み、道を疾走した。にしても、何なんだ、あのキレようは。シャブ中かよ。
結局、その日の契約は欲張りバアさんから取った1件だけで終了。翌日、再び契約がゼロに終わったところで、退職を申し出た。
この他にも、さまざまな「きっつい仕事」で、キレやすい人に襲われたり、地域住民から嫌味を言われたり、というエピソードが出てきます。
肉体的にでかではなく、精神的にも「きつい」し、「危ない」仕事でもあるのです。
訪問販売とか勧誘に対しては、僕も好感は抱けないのですが、さすかにここまでは……
「20年くらい前の状況」であることを前提として、噂はいろいろ聞くけれど、体験談を聞くのは難しい「きつい仕事」に興味がある人は、手にとってみて孫はしないと思います。

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