まさか「兄の人生の物語」をリアルだと思って読む人がそんなにいようとは - 愛・蔵太のすこししらべて書く日記
発端は、この『兄の人生の物語 - ロハスで父が死にました』というエントリなのですけど、僕自身は、このエントリを読んで、なんというか、すごくもぞもぞとした感触、短くまとめてしまえば「やるせなさ」とか「居心地の悪さ」しか感じられなかったんですよね。いや、これをリアルな話として捕らえた場合、最後の一文に「感動」するのって僕にはとても難しい。この話の後に続くのは、なんらかの「破綻」であることは目に見えているのだから。
僕がこれを読みながらずっと考えていたことって、「自分の子どもがこういう感じだったら、はたして愛せるだろうか?」とか、「こういう人に自分の恋人がレイプされたりしたら、いったいその悔しさはどこにぶつければいいのか?」ということでした。正直、どこに、何にそんなに「感動」できるのかよくわかりません。最後のところなんか、あまりの救いようの無さに「嘲笑って」しまいました。ただ、これは本当に「読まずにいられない雰囲気」を持った文章であるということはまちがいありません。僕も「泣きながら一気に読みました(by柴咲コウ)」。
「ひとでなし」とか「他人の気持ちがわからない人間」ってよく言われるのですけど、僕は「この物語のなかでレイプされそうになった女性の気持ち」はわかるんですよなんとなく。これを読んで「感動して泣きました」という人は、「障害を持つ人の話」とかだったら、無意識のうちに「感動スイッチ」が入っちゃう人なんじゃないかね。あるいは、「自分は『普通』に生まれてきてよかった!」って「感動」する人。この話そのものはフィクションでも、「こういう話」は、別に美談でもなんでもなく、「近所のちょっと困った人」として、そこらへんにゴロゴロ転がっているんですけどね。ドキュメンタリーで観れば「パチスロヒモ男」なのに、ケータイ小説だと「自分の道を見つけられず、迷いを恋人にぶつけざるをえないかわいそうな男」になるのとおんなじかもしれません。演出や視点によって、受け手の感想はバカバカしいくらい変わってしまうものです。
id:lovelovedogさんは、
メタブックマークはもっとクール。
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2007年12月10日 gnt fuck なんつーか、こんなクソリアル風が受けちまってasianshore氏も痛し痒しだな。ケータイショーセツを笑えるのかブクマ村民は。
2007年12月10日 y_arim メタブクマの翼, なんとかホイホイ まあほかのエントリも読めばこのテキストがどういう性質のものかわかるんだけど、ブクマの普及でみんな当該エントリひとつしか読まなくなったからなあ。だから普段悪評高い人にある日高評価のブコメが殺到したりも。
まったくケータイ小説を笑えないですね。
と書かれています。
でもね、僕は今ちょうど『恋愛小説ふいんき語り』を読んでいて、少なくとも「恋愛小説」というジャンルにおいては、「文壇」で高く評価されてる「純文学」って、内容的には、「ちょっと難しい表現を使って、主人公を中年男女にしたケータイ小説」みたいなものではないか、という気がしてきたのです。村山由佳さんとか、江國香織さんとかは、絶対に「狙ってやっている」ようにしか思えませんし(彼女たちの愛読者の半分くらいは、「またこんなベタな話書いちゃって……」と内心苦笑しながら、わざと「乗せられて」いるのだと僕は考えています。そういう「お約束」に浸かってみるのも「大人の読書」なのではないかと)、たぶん狙ってないであろう島本理生さんとかも、『ナラタージュ』とか、内容的には「ケータイ小説」そのものだもの。そして、「現代文学」と呼ばれているもののなかでも、まちがいなく「ケータイ小説っぽい作品」のほうが商業的には成功しやすいんですよね。
最近読んで感銘を受けたエントリに、
『場と、望まれるフォーマット (Hopeless Homeless(2007/12/7)』
があります。
媒体が紙で、縦書きという仕様ならば、長い文章が読みやすいだろうし、DSの狭い画面、内蔵の読みづらいフォントだったなら、短いセンテンス平仮名まじり文でさくさく進めるべきだろうし、携帯のディスプレイならば、もっと短文になるだろうし。
文壇とやらに褒められたいのなら、難解でテクニカルでテーマ性が濃いものになるだろうし、仲間うちだけに見せるなら、内輪受け重視でリアルタイムで盛り上がった話題やそのグループが経験したことをチラつかせるだろうし、仕様書なら簡潔にわかりやすさ重視で書くだろうし。
何が言いたいかというと、ケータイ小説はケータイの画面に適したフォーマットで、ケータイを主に所持してる子たちを喜ばせようとしてるから、ああいう形式で書いてるんだろうな、ということ。短文ブツ切りうぜえ、なんだこのスイーツ(笑)な単語と言い回しって文句つけるのは、FCのドラクエをやって、ひらがな&スペース区切りうぜえ、なんだぱふぱふ(笑)って、喋り方が古くせえしだっせえんだよ、って文句つけてるのと、私には同じに見える。
ここで書かれているのは、文章の表示のしかたにおける「フォーマット」なのですが、内容に関しても、やっぱり「ケータイ小説向き」とか「ネットで話題になりやすいもの」って、あるような気がするんですよね。「はてなブックマークでホットエントリになりやすい」と言ったほうがわかりやすいのかな。ケータイ小説とネット上の文章は、「他人の実体験っぽいもの」が話題になりやすい、という意味では、けっこう似た傾向があるのです。書籍などとは違って、自分ひとりでも発信することが可能(のように思える)メディアだから、そこに表示されているものも「修飾されていない、ナマの言葉」だという幻想が抱かれやすいメディアなんですよね。
もし同じ話が書籍として出版されても、みんな「ふーん、よくある感動モノだな」と一蹴していたのではないかと思います。これが豚丼並盛とすれば、同ジャンルの商業出版物で描かれる「不幸と欠落」は、「テラ豚丼」みたいなものですから。
ところで僕は、この「兄の人生の物語」に関するいろんな人たちの言及を読んで、今年の「はてな」で僕にとっていちばん衝撃的だったというか、残念だったことを思い出しました。
それは、『ある個人史の終焉』(一応「魚拓」にリンクしておきます。御迷惑だったらすぐ外します)という文章に対するさまざまな毀誉褒貶と、その結果として、この筆者がブログを書くのをやめてしまった、ということです。
この名文は、それが「事実」であったがゆえに、多くのバッシング(僕からすれば、その99.9%は、不当か、過剰なものだったと思います)を受けました。
しかしながら、「兄の人生の物語」は、(たぶん)フィクションであるがゆえに、そういうバッシングは軽いものであるように感じられるのです。ネットの人たちは、「こんなケータイ小説みたいなのに騙されるなんてバカじゃない?」なんて、読者同士で罵りあってくれています。「こんなフィクションを書きやがって!」と怒ったり、作者を批判している人はほとんどいません。
まあ、もともとそういう「芸風」の人なのだ、ということなので、そもそも批判するのは筋違いってものなのですけど、では、なぜ自分の身に起こったことを素直に表現しただけの『ある個人史の終焉』は、あんなに叩かれなければならなかったのか?
あの話も「フィクションですから」って、作者が言っていたら、ブックマーカーたちがお互いに罵り合って、作者は「蚊帳の外」に置かれることになったのでしょうか? そもそも、「フィクション」と「ノンフィクション」に、明らかな「境界」はあるのでしょうか?
小説家の描く「フィクション」には、ある種の経験が反映されていることが多いですし、小説内で不倫の話が出てくれば、多くの人は、その作者の「実体験」を想像するはずです。「ノンフィクション」であっても、それを語る人の立場や視点によって、内容は大きく変わってきますしね。歴史年表だって、「どの歴史的事件を選んで載せるか」という作者の意志が反映されているものなのです。
今回、僕にとって最も印象的だったのは、このブックマークコメントでした。
2007年12月10日
・I11 私小説なみに赤裸々。どこまでがフィクションなのかわからないが、自分が「弟」だったら、同じ感想を持ったとしても恥ずかしくてこういう文を公開することはできないだろうと思う。
いやほんと、「表現する」という行為には、「良い作品を作る」のとは別に、こういう「世間のさまざまなイメージや偏見に耐える」という強さが要求されるのです。村上春樹さんなんか、ことあるごとに、「でも村上春樹には子どもがいない」なんてアンチから罵倒されてますしね。作品としての好みは別として、柳美里さんくらいの「覚悟」がないと、「実体験」を晒して生きていくのは難しそうです。僕は、「ノンフィクションでこんな恥ずかしいことを書くな!」「フィクションなら、何を書いてもいい」というのは、ちょっとどうかと思うのですが。
もう、「フィクション」か「ノンフィクション」か、じゃなくて、「面白い」か「つまらない」かだけで「評価」すればいいんじゃない?
でも、「フィクションだからと腹を立てる」っていう姿勢は、まだまだネット上では多くの読み手にとって、書き手との距離はけっこう近い、ということなのかもしれませんね。「友達のはずなのに、なんで嘘つくんだ!」みたいな感じ。
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