琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

漫画ノート ☆☆☆☆


漫画ノート

漫画ノート

内容紹介
名作『漫画の時間』から12年、BSマンガ夜話でおなじみの漫画読み、いしかわじゅんさん待望の評論集第2弾!!

アクション、プロレス、怪奇、スポ根、ガロ系、脱力系、時代もの、エロ、少女、パチンコ、SF、古典から大ヒット作まで、手塚治虫から吾妻ひでおまで、21世紀のニッポンを覆い尽くす「漫画」の世界をご堪能ください。

漫画ノート』は、ここ十二年の間に新聞や雑誌で書いてきた書評や、単行本の解説、個人展の解説、その他いろんな機会に漫画について書いたものを集めて、膨大な時間をかけてリライトしたものだ。今まで書いたものを集めて出すだけなら、もう何年も前に出ていたと思うが、『漫画ノート』という本に合わせて、すべてを何度もリライトした。――あとがきより

 物理的にも内容的にも、ずっしりと「重い」本。
 これは本当に「力作」だし、「いしかわじゅんさんにしか書けない漫画評論」だと思います。
 僕は12年前に、いしかわさんの『漫画の時間』を読んで、「実作者からみた、本当の『上手い漫画』」についての話に非常に感銘を受けた記憶があるのです。僕はもともとあまり熱心な漫画読者ではないのですが、僕なりに「上手い漫画というのは、絵が緻密で『リアル』なものだ」と思っていたのです。
 でも、いしかわさんは、漫画というのは写生ではなく、デフォルメしたり、動きを見せたりというのが大きな魅力なのだ、ということを、わかりやすい言葉で実作者として書かれていたんですよね。
 僕にとっては、「好き嫌い」とか「社会性」とか「ストーリー」とか「絵のキレイさ」で語られることが多かった漫画評論に、夏目房之介さんとともに新しい風を吹き込んだのがいしかわさんだったのです。

 これだけのボリュームと内容で2000円というのは、すごく「お得感」があるのですが、ただ、前から12年間というのはちょっと間隔が空きすぎているよなあ、とは感じるんですけどね。この内容を3つに分けて、各1000円で4年毎に出版しておいてくれれば、この12年間に僕が読んだ漫画は、少し変わっていたかもしれないなあ、という気もしますし。

 あと、『漫画の時間』に比べると、作品そのものに対する評論よりも、作家論とか、いしかわさんとその作家との交流が語られているものが多いように思われました。これはこれで読みごたえがあるし、それこそ、「いしかわじゅんにしか書けないもの」なのでしょうが、僕はどちらかというと、「技術論」とか「漫画家の目からみた、『良い漫画』とは?」という内容に興味があるんですよね。 
 この本のオビには、大瀧詠一さんの

 漫画を読まなくても漫画がわかる。

 というコピーが寄せられているのですけど、このコピーって、この本の特性を、良くも悪くもひとことで表現しています。
 いしかわさんは基本的に歯に衣着せぬ人ですし、いまや、漫画評論の大家なので、この本でいしかわさんの個々の作品に対する評価を読むと、なんとなくそれだけで(自分が未読の作品でさえも)「わかったような気になる」のですよね。そして、「もう読まなくてもいいような気分になってしまう」のです。
 それは、この本の罪ではないのかもしれませんが……

萩尾望都さんの『ポーの一族』に関しての項「彼女の進歩について」より。

 しかし、ぼくは、告白すれば、一時、萩尾望都から離れていたことがある。
 萩尾望都の漫画を、まったく読まなくなっていた時期があったのだ。
 萩尾望都は、最初からうますぎた。 
 だから、当然のことながら、なかなか、あれ以上うまくはならなかった。いつまで経っても、目立った上積みはなかった。
 ぼくは、上達していく漫画家が好きだ。どんどん変わって、新しいものを見つけていってくれる、ぼくらに見せてくれる漫画家が好きなのだ。
 同時期の同じように現れた印象を持つ大島弓子竹宮恵子は、スタート地点が萩尾望都よりも多少低かっただけに、どんどん変わっていった。特に大島弓子は、ある時点から目標を見つけたように、一気に加速していった。それを一緒になって追うことは、漫画読みとしてたまらない快感だった。
 萩尾望都は、そうではないように見えた。
 彼女は最初から、自分の最終的に立つべき場所を知っていて、冷静に客観的に、自分のやるべきことを、きちんと片づけていっているように、僕には見えたのだ。少なくとも、それは今日ぼくにどきどきさせてはくれない。
 それで、ぼくは、彼女から離れたのだ。

 実際は、ここで引用した文章のあとに、「目立たないけどちゃんと進歩していた萩尾望都」を、いしかわさんが再発見したことが続くのですが、これを読むと、いしかわさんは、「漫画」が好きなのはもちろんなのですが、作品そのものよりも、「漫画を描く人」のほうが、より一層好きなのではないかな、という気がしてなりません。
 青木雄二さんが「絵がヘタ」であるといういしかわさんの評価をめぐるやりとり(でも、いしかわさんは、『ナニワ金融道』について、「絵はヘタだがすごく面白い」という評価をされています)や吾妻ひでおさんの話など、まさに「いしかわじゅんにしか書けない漫画の話」満載。漫画好きで、「いしかわじゅん大嫌い!」ではない人には、ぜひオススメしたい本です。
 そうそう、この本で引用されているコマには、とても印象的なコマが多いんですよね。パラパラとめくって、引用されているコマだけを見てもかなり愉しめます。こういう選びかたひとつにしても、いしかわさんのこだわりを感じる本です。

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