琥珀色の戯言

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ジョーカー・ゲーム ☆☆☆☆


ジョーカー・ゲーム

ジョーカー・ゲーム

内容(「BOOK」データベースより)
結城中佐の発案で陸軍内に設立されたスパイ養成学校“D機関”。「スパイとは“見えない存在”であること」「殺人及び自死は最悪の選択肢」。これが、結城が訓練生に叩き込んだ戒律だった。軍隊組織の信条を真っ向から否定する“D機関”の存在は、当然、猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く「魔王」―結城中佐は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を挙げ、陸軍内の敵をも出し抜いてゆく。東京、横浜、上海、ロンドンで繰り広げられる最高にスタイリッシュなスパイ・ミステリー。

2009年度版の『このミス』第2位。
50ページ×5作の短編集で、1作1作が「もうちょっと読みたいところで終わる」という絶妙の長さになっています。
ミステリとしては、個々の作品の「トリック」が弱い印象は受けるのですが、「D機関」のリーダーである結城中佐の「人間的な感性を捨てて、『スパイ』としての機能を高めることだけを追求した生きざま」には、ひたすら圧倒させられます。
そもそも、僕は「スパイ小説」が結構好きで、「D機関」という名前を聞いて、中学時代に西村京太郎さんの『D機関情報』を読んで、その面白さと緊迫感に魅了されたこととか、高校の寮でフレデリック・フォーサイスのスパイものを寝食を忘れ読みふけっていたこととかを思い出しました。
男、とくに「表に出られるようなカッコよさや人の上に立つオーラがない男子」にとっては、「スパイ」(あるいは「エージェント」)っていうのは、一度は憧れる仕事なのではないかなあ。
まあ、この『ジョーカー・ゲーム』を読むと、D機関のメンバーたちのあまりの超絶能力に悶絶するしかなく、「僕はスパイにはなれないなあ……」と槇原敬之さんのような諦めの境地に達してしまうのですけど。

この作品、「斬新」ではないのかもしれませんが、「スパイ小説」としてすごく魅力的ではあります。
ただ、僕としては、「このボリュームで1500円+税はちょっと高いかな、というのと、結城中佐はさておき、そのほかの「D機関」のメンバーに個性が感じられないのはちょっと寂しい(中佐に言わせれば、スパイが「個性」を求めるのがナンセンス」なのかもしれませんが)。それぞれの話での主人公の個性がないことが、この短編集を「みんな同じような読後感が残る話」にしているような気もします。

でもね、ほんと「冷徹だけど、カッコいいんだよこの小説。

 佐久間は、証拠を捜して家の中を動き回る偽の憲兵たちを目で追いながら、苦い思いでその時の会話を思い出していた。
(こいつらがスパイとして働くのは、名誉や、愛国心のためですらないのだ)
 そう考えると、心の底から嫌悪感が湧き上がってくる。
 だが、そんなことが本当に可能なのだろうか? 一生誰も愛さず、何ものも信じないで生きてゆくなどということが。
 この連中を動かしているものは、結局のところ、
 ――自分ならこの程度のことは出来なければならない。
 という恐ろしいほどの自負心だけなのだ。
 佐久間が知る限り、そんな風に生きていけるのは人でなしだけだった。

僕は「聖人」にも「人でなし」にもなりきれない中途半端な人間なので、物語のなかの「人でなし」に惹かれるのかもしれません。
『スパイ小説好き』の方は、ぜひ。
それ以外の「面白い冒険小説好き」の皆様は、「文庫待ち」でいいんじゃないかな。


D機関情報 (講談社文庫 に 1-3)

D機関情報 (講談社文庫 に 1-3)

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