琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】パラダイス・ロスト ☆☆☆


内容紹介
異能のスパイたちを率いる“魔王”――結城中佐。その知られざる過去が、ついに暴かれる!? 世界各国、シリーズ最大のスケールで繰り広げられる白熱の頭脳戦。究極のスパイ・ミステリ!


内容(「BOOK」データベースより)
大日本帝国陸軍内に極秘裏に設立された、スパイ養成学校“D機関”。「死ぬな。殺すな。とらわれるな」―軍隊組織を真っ向から否定する戒律を持つこの機関をたった一人で作り上げた結城中佐の正体を暴こうとする男が現れた。英国タイムズ紙極東特派員アーロン・プライス。だが“魔王”結城は、まるで幽霊のように、一切足跡を残さない。ある日プライスは、ふとした発見から結城の意外な生い立ちを知ることとなる―(『追跡』)。ハワイ沖の豪華客船を舞台にしたシリーズ初の中篇「暗号名ケルベロス」を含む、全5篇。


ジョーカー・ゲーム』シリーズ最新作。
超人的な能力を持つ「D機関」のスパイたちの活躍を描くこのシリーズも、もう3冊目になるんですね。
今回は、シリーズ初の中編も収録されています。


この『パラダイス・ロスト』、「そうそう、『ジョーカー・ゲーム』って、こんな感じだったよね」なんて確認しながら読みました。
良く言えば、安定した面白さ、悪く言えば、さすがにちょっとマンネリになってきた印象もあります。
このシリーズって、「D機関と日本をめぐる、より大きな物語」に収束していくのではないか、と思っていたのですが、現時点では、個々のエピドードが描かれるだけにとどまっています。
今回は、「結城中佐の生い立ち」を追う話も入っていて、「なんだか『ゴルゴ13』みたいになってきた感じです。
それぞれの短編は、「安定している」ので、このまま、ゴルゴみたいに、短編を続けていく、ということなのでしょうか。
『ゴルゴ』と言い、『ブラック・ジャック』といい、読者としては、「生い立ち話」に興味はあるのだけれども、そういうの話が出てくると「ちょっとネタ欠乏気味なのかな……」とか邪推してしまうのも事実です。

 D機関の選抜試験を受けた際、島野は途中何度か危うくふきだしそうになった。
 試験はおよそ他には例を見ない、何とも奇妙な代物だった。
 例えば試験では、世界地図を広げてサイパン島の位置を訊かれたが、地図からは巧妙にサイパン島が消されていた。そのことを指摘すると、今度は広げた地図の下にどんな品物が置いてあったのかを尋ねられた。或いはまた、建物に入ってから試験会場までの歩数、及び階段の数を尋ねられたかと思うと、鏡に写した文章を数秒間読まされて完全に復唱することが要求された。
 島野はそれらの質問に完全に答えてみせた。
 地図で隠した机上の品は、ドイツ語の本、湯呑み茶碗、万年筆二本、マッチ、灰皿……十数品をすべて正確に数え上げ、ついでに本の書名と著者名、灰皿に残っていた吸い殻から煙草の銘柄まで当ててみせた。会場までの歩数と階段の数はもちろん、廊下の窓の数、開閉状態、さらには尋ねられてもいないのに、ひび割れの有無まで指摘した。
 左右が反転した鏡文字で読まされた文章は、正確に再現した上で、逆からも復唱してみせた。
 ”危うくふきだしそうになった”のは、何も試験内容がおかしかったせいではない。
 ――自分以外にこんな試験をパスする人間がいるのか?
 そう思ったからだ。

 『ジョーカー・ゲーム』シリーズに、どのくらい本当の「スパイの世界」が反映されているのか、僕にはわからないのですけど、人がスパイになる理由の一つは、「他人にできないことをやり遂げられる人間であることを証明したい」というものなのかもしれません。
 僕だったら、「そんな異能があれば、スパイなんて危ない仕事をしなくても、もっとラクに儲けられるのではないか」と思うのだけれども、「危険で困難な仕事だからこそ、魅力を感じる」という人もいるんだよなあ。


 今回は、結城中佐はさらに目立たなくなっていますし、第一作『ジョーカー・ゲーム』ほどのインパクトはありません。
 このシリーズを読んでみた人は、まず、『ジョーカー・ゲーム』の文庫からはじめてみることをおすすめします。
 『ジョーカー・ゲーム』を面白く読めた人は、おそらく、この『パラダイス・ロスト』もそれなりに楽しむことができるでしょうし、『ジョーカー・ゲーム』は、あんまりおもしろくない、という人は、あえてこの作品を読む必要はなさそうです。


 しかし、こういうスパイ小説があまりに「安定」しているのも、なんかちょっとヘンではありますよね。
 結城中佐は、デューク東郷の夢をみるのか?


ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

アクセスカウンター