琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

カップヌードルをぶっつぶせ! ☆☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
二代目が創業者を語った例はあまりない。世の中の大半は、二代目にそんな資格はないと思っている。私は逆に、二代目にしか語れないことがあると思っている。それを正直に、しかし謙虚に語ったつもりである。(…)私が一貫してやってきた仕事は、創業者の率いるワンマン経営を、多くの社員が参画して運営するシステム経営にシフトすることだった。創業者がいなくなってから、いつまでも古い企業体質を引きずったために、おかしくなっていった会社をたくさん見てきた。それだけは避けたかった。―「おわりに」より。DVD付。カップヌードルの伝説的CM「hungry?」と「NO BORDER」を収録。

著者の安藤宏基さんは、あの「カップヌードルの、いや、インスタントラーメンの生みの親」こと、安藤百福さんの次男であり、1985年に日清食品代表取締役社長に就任。現在は、日清食品ホールディングス株式会社代表取締役CEO。
この本、二代目社長が、いかに堅実に会社を維持・成長させてきたか、という話かと思いきや、読んでみると、かなり驚かされるところが多かったです。

「おまえがやめるか、おれがやめるか、どちらかだ」
 深夜、いつ果てるとも知れない長い議論の末に、安藤百福は私をにらみつけてそう言った。
「なんだ、親子喧嘩か」と思われるかもしれない。たしかに親子喧嘩には違いない。しかし、議論の中身は企業経営のあり方についてであって、普通の家族の世間話ではない。私は二十年以上も社長として日清食品の経営にたずさわってきた。そこらへんの二代目の若造と一緒にしてもらっては困るという思いがあった。片や創業者会長である、インスタントラーメン業界はおれが作ったという強烈な自負がある。
「おれがいたから日清食品があるのだ」と言う。
「そんなこと、言われなくても分かっていますよ」
「いや分かってない」
 そんな議論が何度繰り返されたことか。
 あげくの果てに、おまえが社長をやめるか、おれが会長をやめるかどちらかだ。さあどうするか、と迫ったのである。横でやり取りを聞いていた母は「もういい加減になさい」と言ってあきれたように寝てしまった。
 昔の話ではない。安藤百福は2007(平成19)年1月5日に96歳で永眠したが、これはそのほんの半年前の出来事なのである。血気盛んというか、恐るべき仕事への執着心というか、そこへ持ち前の心配性が加わって、私のやることに黙っておれなくなったのである。

 著者は1947年生まれだそうですから、このとき、もう還暦直前。
 「チキンラーメン」「カップヌードル」の開発者である安藤百福という「偉人」の、「経営者」として、あるいは「人間」としての執念に僕は驚かされたというか、正直、怖くなってしまいました。
 人間は、年齢を重ねたら寛容になれるかというと、けっしてそんなことはない。
 95歳になっても、60歳の息子に「お前に任せた」と心の底からは言えない人だっている。
 「偉人」というのは、一面で「異常な人間」なのかもしれません。

 こういう話は、たぶん、息子さんである宏基さんにしか書けなかっただろうし、書くことが許されなかっただろうと思います。
 読みながら、僕も内心「偉人として語られている自分の父親のこんな『裏側』を、わざわざ公開しなくてもいいんじゃない?」と感じました。
 しかしながら、そういう「安藤百福という偉人と目の前にいる父親との乖離」に、宏基さんは苦しんできたんでしょうね。

 もっとひどいのは、ブランドをリニューアルするたびに、「おまえのやっていることはパチンコ屋の新装開店と一緒だ。同じ商品をいじくり回しているだけじゃないか」とけなすのである。

 これでは、二代目はたまらないはず。
 実際、著者の前に社長となった著者のお兄さんは、2年で日清食品の社長を辞めてしまったのですから。

 まあ、この本を読んでいると、二代目である著者も、けっして一筋縄ではいかない人物というか、かなり個性的な人なのだということもわかってくるのですけど。
 「ブランドマネージャー制度」のもと、自社製品同士を競争させるなんて発想は、やっぱり「普通」じゃないと思いますし。

 率直に言うと、この本のなかで僕が「面白いなこれは!」と感じたのは、第1章、2章の著者が父・安藤百福との葛藤を描いた部分と、カップ焼きそば『UFO』、『どん兵衛』『ラ王』などの開発過程のところでした。日清食品の企業戦略については(これが全体の3分の1から半分くらい)、参考にしようにも、僕は二代目社長じゃないし、そういう立場になることも今後ありえないからなあ……としか思えず、あまり興味がわかなかったんですよね。
 そちらのほうが役に立つ、という人も、けっこういる(というか、「ビジネス書」として読むのであれば、そちらのほうがメインになる)のではないかと思いますが。

 ブランド・マネージャー制度は1990(平成2)年に制度化し、二十年近く続けてきたことになる。7人のBMが9人に増えたほかは同じ形で現在も続いている。プロダクト・マネージャー制度のときは、新製品数は年間二ケタにも満たなかったが、BM制度をしいてからは、新製品の数が60になり、150になり、やがてリニューアル品を含めて、毎年300種類を超えるまでに増加した。年間300アイテムといえば、土、日曜日を除けば、ほぼ毎日1品以上新製品を発売している計算になる。日清食品だけでこれである。業界全体になると新製品は毎年600アイテムを超える。数は多いが、1年後まで店頭に残って定着する率はわずか1%程度といわれる。食品業界の中でも名うての激戦区なのである。

 それにしても、インスタントラーメン業界というのは、「激戦区」であるのと同時に「定番商品が強い業界」でもありますよね。
 「新製品」のなかには、「これはちょっと売れないだろ……」と苦笑してしまうような「キワモノ」もけっこうあるとはいえ、各社が血眼になって新しい鉱脈を探しているにもかかわらず、結局、発売以来、この業界を牽引しているのは「カップヌードル」なんだものなあ。
 僕もいろいろ食べてみた末に、「やっぱりカップヌードルは外せないな、お湯をかけるだけだし」と感じます。

 二代目社長の皆様、カップヌードルを愛する人々、そして、「偉大な父親に屈折した感情を抱かずにはいられない男」山岡士郎さんにもオススメの本。
 あの「伝説のCM」、「hungry?」と「NO BORDER」が収録されたDVDも付いてます。


参考リンク:「カップヌードルが愛され続けている理由」(琥珀色の戯言)

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