琥珀色の戯言

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【読書感想】スゴイぞ! 眼鏡市場 ~メガネトップ業界売上NO.1の秘密 ☆☆☆

眼鏡市場は一日にして成らず」

✓「追加料金なし」でマーケットに勝負!
✓人気タレントのCM起用の舞台裏
✓世界的デザイン事務所と夢のコラボ

2012年から2021年まで売上高No.1を走り続ける、業界トップ企業の苦悩と挑戦の歴史!

帝国データバンクの調査によれば、「眼鏡市場」を展開する株式会社メガネトップは、2012年から2021年現在まで売上高ナンバーワンを維持しています。
しかし、業界トップになるまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。
創業者の冨澤昌三が起業してから業界トップになるまで、実に32年の時間を費やしたのです。
本書は、「眼鏡市場」の誕生秘話、テレビコマーシャル等のマーケティング戦略、世界的デザイナーとのコラボレーション、自社工場の秘密など、2代目経営者である著者・冨澤昌宏が、わずか28歳で社長就任して以降、
眼鏡市場」を業界トップにまで成長させた苦悩と挑戦の道のりを描いた一冊です。


 僕自身、40年近く眼鏡をかけ続けているので、「商売としての眼鏡店」に興味が湧いて読んでみました。
 中学生の頃、急に視力が落ちたときには、眼鏡をかけるのが嫌で、とはいえ、コンタクトレンズはもともとドライアイなのに加えて目に異物を入れるというのが不安で、黒板の字が見えなくてもなかなか言い出せなかったのを思い出します。
 いまとなってはむしろ、眼鏡をかけずに人前に出るほうが、なんとなく恥ずかしいくらいになってしまったのですが。
 あらためて考えてみれば、僕は眼鏡市場で眼鏡を買ったことは今までないんですよね。というか、僕が住んでいる地域では、眼鏡市場の看板をよく見かけるようになったのは、ここ数年くらいのような気がします。

 この本『眼鏡市場』を展開している、株式会社メガネトップの二代目社長である著者が書いた(ライターによる口述筆記かもしれませんが)ものです。
 メガネトップは、2012年から2021年まで10年間にわたって眼鏡業界の売上げナンバーワンなのだそうです。
 著者のお父さんである創業社長は、静岡でのんびり家族が食べていけるくらいの商売ができればいい、と家族経営レベルの眼鏡店を経営していたところ、ディスカウント店の進出で売り上げが激減し、対抗するためにやむなく自分の店もディスカウント店に転向、店舗を増やして仕入れの利便性を高めていったそうです。
 逆に言えば、地方で家族が順調に食べていけるくらいの商売ができていれば、『眼鏡市場』は生まれなかったかもしれないわけで、人生何が転機になるかわからないものですね。

 著者は20代前半で就職していた広告代理店を辞めてお父さんの会社に移り、28歳で社長に就いているのですが、当初は「自分はまだ若すぎて社長は務まらないのではないか」と迷ったそうです。
 それに対して、会長になったお父さんは「突然自分に何かがあって社長職に息子が就いて混乱するよりは、元気なうちに譲っておいて社長としての経験を積ませておきたい。何か問題が起こっても自分が元気な間はサポートもできるから」と考えて、早めに「禅譲」したのだと仰っています。
 企業の代替わりにはトラブルが起こりやすいのですが、こういうやり方もあるのです。
 そして、代替わり後も、社長・会長として、それぞれの個性を尊重して、主導権争いをせずにうまく棲み分けをしているようです。


 著者は『眼鏡市場』誕生の経緯について、こう述べています。

メガネトップ」という歴史ある看板があるにもかかわらず、なぜ「眼鏡市場」は生まれたのでしょうか。当時、指揮を執っていた冨澤昌三(初代社長・著者の父)の言葉を借りれば「メガネトップというブランドがお客様に愛されなくなった」からです。
 その意味を紐解くエピソードがあります。
 これは2005年当時、マーケティング部マネージャーを務めていた高村徳弘が、冨澤昌三と一緒に「メガネトップ」の店を視察していた際の話です。
「たしか甲信越のお店のどこかだと思いますが、ちょうど視察に行ったとき、お子様のメガネを買いに親子連れのお客様が来店されました。お子様がフレームを選び、お母様はその値段を見て『これならいいわ』と、スタッフのもとにお持ちになりました。私と会長は図らずも近くでその話を聞くことになったのですが、スタッフがお子様の視力を測ってレンズを提案するわけです。そうするとお母様の顔が曇るのですね。なぜなら、フレームに表示されている値段で買えると思っていたら、レンズの値段がプラスされることがその時点で分かったからです。しかも聞いているとスタッフはお子様のためにと、どんどん良いレンズを提案するのです。そのたびに値段がどんどん高くなっていくのですから、お母様の表情もどんどん硬くなっていきます。これは当時のメガネ店全般で普通の接客だったのですが、それを間近で見ていた会長が、「やはりレンズの追加料金は良くないな」と言いました。そのときに追加料金なしという眼鏡市場のコンセプトが生まれたのだと思います」
 つまり、フレームとレンズを別々に売っていた販売方法が、お客様にとっては不親切であると感じたことをきっかけに「眼鏡市場」が誕生したのです。


 僕も、眼鏡を買うときに、値段をみながら似合いそうなフレームを選び、じゃあレンズはどうしますか、という段になって、乱視が入っているとか、(視力が悪いので)レンズを薄くするためには、このくらいのお金がかかりますとかいうことで、予算をかなりオーバーしてしまった経験があります。
 フレームだって、そんなに安いわけではないですしね。
 レンズ込みでこの値段、という商品でも、「標準レンズ」だと牛乳瓶の底のような分厚いレンズになってしまうので、結局追加料金が必要になるのです。

 そんな顧客の不満と不安に対して、『眼鏡市場』では、「フレームとレンズ込みでの均一価格」でアピールしていったのです。

 わかりやすいし、フレーム+レンズの均一価格も、当時としては破格の1万8000円。
 ところが、売る側の店員さんたちは、この「均一価格」を歓迎してはいなかったそうです。

 成功の裏には歪みも生まれます。
眼鏡市場」への改革のスピードにスタッフの意識が追いつかず、当初は業務転換への反発もありました。「眼鏡市場」における接客は、従来の「メガネトップ」の接客とはベクトルがまったく異なっていたからです。
メガネトップ」では、フレームとレンズの料金が別々だったので、スタッフはいかにお客様にとって良い商品、フィットする商品を提案するかをシンプルに考えていました。
 結果として、それがお客様の予算に合わなかったとしても、次善の商品を提供することができますし、より良い品質の商品をおすすめすることがお客様のためにもなり、それが会社の売上アップにもつながると信じていたからです。
 しかし追加料金なしでフレームとレンズのセットを均一価格で提供する「眼鏡市場」では、価格は1万8000円と明朗にはなりますが、そのなかで提供されるフレームやレンズの原価はまちまちです。
 つまり、お客様のためにより良い品質のフレームやレンズをおすすめすると、原価が高くなり会社の利益が下がってしまうことにもつながりかねません。そうなるとスタッフは原価を意識した販売をすることになりますが、今度は、お客様に対して最善の接客をしている満足感を得られ難くなります。
 さらに「メガネトップ」では、ディスカウントといってもメガネの平均客単価が2万円以上はあったのですが、「眼鏡市場」ではすべて1万8000円で売ることになったのですから、今までより売上が下がっているような感覚に陥ったスタッフもいたようです。逆に「メガネトップ」では1万8000円以下で買えたものも、「眼鏡市場」では一律1万8000円になるので、何の説明もなく値上げをしたかのような心苦しさを抱いたスタッフもいました。


 客の側からみると、「均一価格」って、わかりやすいし、なんとなく得しているような気分になるのです。でも、原価がそれぞれ違っていて、それはお客のイメージと同じとは限らない。
 そう考えると、「それぞれの商品に応じて個別に価格がついている」ほうが、当たり外れは少ない」とも言えそうです。
 売る側も、「均一価格なら、原価が安いほうを勧める」ほうが儲かるのだけれど、それはそれで誠実な商売ではない、と感じる人もいるのです。
 「均一価格」には、こんな葛藤もあるのだなあ、と売る側からみた事情を考えさせられました。
 店員からすれば「より品質の良いものを使ってほしい。予算的に無理ならそれに合わせた提案をする」つもりでも、客側からすれば「やたらと高い商品を勧められて、断りづらかった」と感じることだってありますよね。

 ぺ・ヨンジュンさんのCM起用の際のエピソードや、専門家からみた「眼鏡の選び方」なども書かれています。
 
 世界的なデザイナー・佐藤オオキさんが代表をつとめるnendo社とのコラボレーションモデル作成の経緯も紹介されているのですが、そのなかで、デザインは優れていても、耐久性に欠ける商品を売る訳にはいかない、と著者は述べています。

眼鏡市場」のメガネは、2万回の開閉試験に耐える頑丈さがなければ、製品として売り出せません。2万回というのは、1日4回開閉すると仮定して14年間使用することができる計算です。
 そこまで長く使わないとしても、私たち「眼鏡市場」は、お客様に新品を手渡した時点ではなく、日常生活でそのメガネが同じ機能を保つことを重視しています。


 2万回って、すごいな……どうやってテストしているのだろうか。
 おそらく、他のメガネ店も、これと同じくらいの耐久性を製品に課しているはずです。
 そう考えると、生活用品として、けっしてものすごく割高、というわけじゃないですよね。
 僕にとって、眼鏡と枕は「良いものを買うべきだと思いつつも、買う場面になると『それなり』で妥協してしまうもの」の代表格なのですが、この本を参考に、そろそろ遠近両用眼鏡を買おうと思います。

 14年もつとしたら、これが「最後の眼鏡」になるかもしれないんだよなあ……さすがに14年は使わない(使えない)だろうけど。


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