琥珀色の戯言

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失踪入門 ☆☆☆


失踪入門 人生はやりなおせる!

失踪入門 人生はやりなおせる!

吾妻ひでおデビュー40周年記念となるこの一冊!
熱狂的なファンを持ちながら、80年代中盤から鬱状態に陥り、自殺未遂や失踪、アルコール依存症などで人生を棒に振ったかに見えたが、その体験をマンガ化した『失踪日記』で不死鳥のように甦った吾妻ひでお
そんな人生再生の師匠に弟子入りしたのが、精神科医香山リカの実弟で、鬱病などなどをこじらせてここ数年は無職常態の男・中塚圭骸
そんな二人がたっぷり語り合ったこの一冊。ここには、昨今の不況下で人生を見失った人たちにとっての一筋の光明がある!!

失踪日記』は興味深かったのですが、それ以降の吾妻さんの「失踪・うつを題材にした作品」の多さには、飽きてしまってはいたんですよね。
でも、吾妻さんの新しい著書をみかけると、つい買ってしまう。
この『失踪入門』も「また失踪ネタか……」と思いつつ購入。

この本、吾妻ひでお著、となっていますが、半分以上は、「インタビュアー」のはずの中塚圭骸さんとCOMICリュウ編集長の発言です。
インタビューというより、鼎談集なんですよね。
そして、話の内容の多くは、「失踪」に関するものではなく、中塚圭骸さんが「いかにうまく生きられないか」についての半分不幸自慢みたいな話と、SFについての蘊蓄。
失踪日記』は面白かったけど、SFとか鬱とかには、あんまり興味がない、という読者には、かなり敷居が高いのではないかと思います。
うつうつひでお日記』も好き、であれば、十分ついてこれるはずですが、僕は半分くらいから後は、もう「作業的に読み終える」感じになってしまいました。
中塚圭骸さんも「いじられ役」としてはちょっとアクが強すぎるし。

ただ、中塚圭骸さんから見た「姉、香山リカ」の話はけっこう興味深かったです。
勝間和代さんに対して、「負け組からの抵抗勢力」の代表として喧嘩を売り続けている香山さんなのですが、これを読むと、「ああ、香山さんも文化人っぽく生きているけれど、本質的には『自分をもてあましている人』『うまく生きるのが難しい人』なんだなあ」と思わずにはいられません。
考えてみれば、勝間さんとの対談のときに、ドクロがデカデカとプリントされた服を着て登場する人が、「完璧な常識人」なわけないですよね。

最後に、この本のなかの吾妻さんの話のなかで、「失踪」と「マンガ」について、印象に残ったものをひとつづつ挙げておきます。

中塚圭骸「ウィ。吾妻さんが失踪なさって、しばらく、畑の大根のみ召し上がってましたでしょう。水分補給も兼ねて」


吾妻ひでお「そうだったね」


中塚圭骸「そこからポリ袋をあさりに行くまで、何日くらいかかりましたか? 僕にとってはね、ポリ袋を開けることが大きな壁となったんです。袋の山の前で膝は震えるわ涙は溢れるわで、そうしたらマンションの電気とかついて、すぐに逃げたり……」


吾妻ひでお「俺は二週間くらいかな。すぐにはできないよね。大根だけでも生きていけるのかもしれないけど。でも、まあ腹が減ると大抵のことは平気になる」


中塚圭骸「うーん、そうですか……。やっぱり失踪生活の最大の壁はポリ袋なんですよね」


吾妻ひでお「いや、そんなことないよ」


中塚圭骸「え!? じゃあ一番の壁って何なんですか? これは是非、訊いておかないと」


吾妻ひでお「ポリバケツ」


中塚圭骸「ああ、袋とバケツの違いでしたか(笑)」


吾妻ひでお「ポリバケツはね、きついね。真っ暗でしょう。何が入っているか分かんない。とりあえず、それをビニール袋に入れて。そこを車が通ったりするとね……とても辛いよ」

吾妻ひでお「ギャグをやり続けるってことは、過酷ですよ。同じことを繰りかえしていると自分がまず最初に面白くなくなりますから。自分が面白くないものを、面白いこととして描くなんて辛いだけだし、とはいえ常に新しい面白いことを考え続けるなんて、そんなに長くできない」

こうしてピックアップしていくと、けっこう面白い言葉もいっぱい詰まってはいるんですよね。
あんまり真面目に隅々まで読もうとすると、ついていけなくなってしまうから、流し読みして、自分の興味が持てそうなところだけ精読したほうが良い本なのかもしれません。


GWも終わりなので、久々にTwitterの宣伝など。
http://twitter.com/fujipon2

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