琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ ☆☆☆☆


会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ (マイコミ新書)

会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ (マイコミ新書)

内容紹介
ある日、ひょんなことから、マグロ船に乗るハメになった会社員の私。一度、出港したら40日以上も陸地に戻ることはおろか、逃げ出すこともできない。病院もなく、遊興施設もなく、コンビニもない、陸上とは180度異なる船上での生活は、極度にストレスの溜まりやすい空間だが、そんな場所だからこそ、漁師たちのコミュニケーション術やストレス対処法があった。大自然に立ち向かい、常に命を懸けで仕事に取り組む漁師たちの口からは、時に重みのある人生哲学も語られる。船上で目にし、耳にしたこととは一体……。

先日読んだ『新書がベスト』で紹介されていて、面白そうだったので購入。
読み終えて、「たしかにすごく良いことがかいてあるし、狭い世界での対人コミュニケーションに悩んでいる人にとっては、自分の態度を考え直すきっかけになってくれる本だな」と感心しました。
でも、なんかこう、すっきりしないというか、心に響かないところがあるんだよなあ……と思ったのも事実。
それは、いったいなぜなのか?

僕なりに考えてみたのですが、それは、この新書の著者が、あまりにも「世渡り上手」に見えるから、なのかもしれません。
こじらせたら命にかかわるかもしれない持病持ちなのに、すぐに病院に駆け込めるわけでもないマグロ船に乗り込むというのは、「世渡り上手な人間」の生き方ではないのでしょうけど、船酔いに悩まされながらも、齊藤さんは、漁師たちに積極的に話しかけ、彼らから「人生の知恵」を授かるのです。

 嵐が接近してから去っていくまでの数日間、東丸は沖で足止めを食らいましたが、漁師は焦ったり、不安を露骨に表すようなことはありません。嵐によって、漁のできる時間や機会が失われたわけですから、焦ってもおかしくはないと、私は思っていたのです。
 そのことを疑問に感じた私は、仕掛けのついた縄を巻き上げる作業中、機関長に「なぜこの船では、マグロが捕れる日と、捕れない日で、漁師のやる気が変わらないのですか?」と聞いてみました。すると機関長は、次のように答えました。

機関長…「あー? いいことが起きたら喜んで、嫌なことが起きたら暗くなる。それじゃ犬と同じじゃねーか。人間はの、感情をコントロールできるんど」

「すぐにカッとなり怒鳴る」という、私が持つ漁師のイメージとはかけ離れた言葉が痛いところを突いてきます。

機関長…「マグロが捕れんときこそ、感情をコントロールしぇんと人間ダメなんど。齊藤はそげーなこともわからんのか? 本当にバカじゃのう」

たしかに、「感情をコントロールできるからこそ人間」なんですよね。
さすがに海の男たちの知恵は違う!

……のだけどさ、僕がどうも「しっくりこない」のは、著者の齊藤さんがとにかく低姿勢で、「海では僕よりはるかに偉い漁師の皆様に、ありがたい教えをいただいております!」っていうふるまいをしているように見えるところなんです。
いや、それができる人ならば、この姿勢はまちがいなく「正しい」ですよ。
「卑屈にならないギリギリのラインで低姿勢、そして、みんなの足手まといになっていることを自覚して積極的に仕事に参加し、周りをヨイショしまくる」
そりゃあ、「かわいいヤツだな」って思われるし、いろいろ教えてあげたくもなるよね。
僕などは、この話を読んで感心する一方で、「そりゃあ、ずっとマグロが捕れるか捕れないかという仕事をやってたら、数日間くらいのサイクルの不漁には『慣れる』のではないかなあ……」とか、考えてしまいますし、ここまで「素直に教えていただく姿勢」を貫くのは無理。
この新書のタイトルは、『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』なのですが、僕には、齊藤さんは『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船に乗る前に学んでいた』ように思われるのです。
この人は、普通に会社勤めをしていても、「必要な知恵」を見つけ出していたのではないかなあ。
そもそも、「卑屈にならないギリギリのラインで低姿勢、そして、みんなの足手まといになっていることを自覚して積極的に仕事に参加し、周りをヨイショしまくる」ことができれば、どこでだってかわいがられるし、うまくやっていけるはずです。

この新書から学べる最良の知恵は、著者の齊藤さんの「知らない世界に入っていくときの態度」とか「処世術」のような気がします。

漁師たちの「人生哲学」はそんなに心に響かなかったのですが、この本で紹介されている「狭い世界でのコミュニケーションのちょっとしたコツ」は、かなり役に立ちそうです。
「狭い空間で、ずっと同じメンバーで生活すること」を要求される人たちは、会話でどんなことに気をつけているのか?

 曇ったメガネのまま通路を歩いていると、親方に会い、「暑いのぉ」と話しかけてきました。私は「赤道ですからねえ」と返しました。

 すると親方から、「おい、齊藤」と呼び止められました。

親方…「齊藤は、いつもそんなふうに素っ気なく答えちょるんか?」

私…「ええ、大体いつもそんな感じですね」

このとき私には、なぜ呼び止められたのか理解できませんでした。

親方…「あんまり素っ気なく返事をすると、話しかけにくいやつと思われるど。赤道にいるから暑いことくらい俺でもわかっちょる。でもの、最初に話しかける言葉はあいさつじゃ。あいさつで出鼻をくじかれると、次に何も話せめーが」

これは本当に身につまされました。
僕もよく「赤道ですからねぇ」みたいな返事をしてしまうし、それが「素っ気なく思われてしまう」という意識もないんですよ。
僕自身が、「世間話」に興味が持てなくて、時間の無駄だとしか思えないから。
しかしながら、一社会人としては、「話しかけにくい人」というイメージを与えるのは、やっぱり大きなマイナス。
「話しかけやすいばかりに、どんどん仕事を押しつけられてしまう」というケースもあるのですが、異能の持ち主でなければ、「付き合いやすい人」のほうが、組織で重宝されるのは当然でしょう。

内容には題名ほどのインパクトはないし、「そこにあったのは、あの蟹工船よりつらい日々だった!」なんていうオビの言葉には、「いくら売りたいからって、それはこの東丸の人たちにも、『蟹工船』にも失礼だろ……」と思いますが、読みやすいですし、「外からみた自分」について考えさせられる新書です。

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