- 作者: 佐野雅昭
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/03/14
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
- 作者: 佐野雅昭
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/09/11
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内容(「BOOK」データベースより)
マグロやウナギが規制されると、日本の食文化が守れない?そんなの漁業の本当の危機じゃない。年々衰退し続ける漁の現場、揺らぐ卸売市場流通、定番商品ばかりの小売の店頭、ブランドや養殖への過剰参入、的外れの政策のオンパレード、そして失われゆく魚食文化…新聞やテレビでは報じられない、日本漁業を取りまく深刻な構造問題を気鋭の水産学者が徹底検証。余命数十年ともいわれる漁業と魚食の今とは―。
著者は鹿児島大学水産学部教授で、水産物流通が専門だそうです。
著者が漁業の「現場」を地道に訪ね、日本の漁業の将来に対して警鐘を鳴らしているのはよくわかるし、その主張についても「そうだよなあ」と頷くことばかりです。
著者は「日本の漁業、あるいは食の問題」として採りあげられるクロマグロやウナギについては、このように述べています。
マグロにせよ、ウナギにせよ、安価に食べられればそれにこしたことはありません。好物だという人たちが、「なくなったら困る」と声を上げることも理解はできます。
しかし、繰り返しますが、そもそもどちらも一種の「贅沢品」です。私たちが日常的に食べるものではありません。
こんなバブル時代の贅肉みたいな食材に頼らなくても、日本の沿岸には多様な水産物がいくらでも存在しているし、アジやサバでも鮮度さえよければこの上なく美味しいものです。しかもはるかに安く、大量に供給できる。金持ちでなくても楽しめるこうした近海の鮮魚こそ、日本にとって真に重要な存在なのです。
問題は、現在、これら「基本」とも言うべき魚たちが、そしてそれを私たちに届けてくれる漁業者や流通業者が、それぞれに危機を迎えているという点です。マスコミは本来、この問題をもっと正視すべきです。マグロやウナギばかりで騒ぐのは、一見、食料問題に向き合っているようで、実は問題の本質から目をそらすことに一役買っているのではないかという気すらします。
マグロのなかでも、クロマグロが占めているのは数パーセントしかないし、ウナギもしょっちゅう食べているという人はそんなにいないはず。
にもかかわらず、「日本人の食の危機」としてメディアで採りあげられる機会が多いのは、これらの「ハレ」の魚なのです。
著者は、アジやサバのような「日常食べている魚」にこそ、危機が迫っているのではないか、と仰っています。
2013年度の「水産白書」によれば、2007年に約274万円だった沿岸漁船漁家の漁労所得は、2012年には約204万円まで低下しました。高齢者まで含めた平均値なので40代〜50代の働き盛りの漁業者の所得はもっと高いでしょうが、それにしても低い数字で、生活保護の受給家庭を下回るレベルです。しかも、さらなる低下傾向もみられます。海面養殖業漁家の漁労所得も平均して400万円程度であり、思うほど高くはありません。
水産庁は、副業や年金などの漁業外所得も合わせれば、500万円程度になるのではないか、と推測しています。しかし漁業だけでは食べていけず、兼業せざるを得ない状況では、若者が水産業に飛び込み、家庭を持とうとしないのは当たり前です。
後継者不足は深刻で、2002年に約24万人だった全漁業就業者数は、10年後の2012年には約17万人まで減少しています。この時点での60歳以上が占める割合は5割を超えています。
テレビで「マグロ釣り名人」などをみていると、「1尾で何百万円、って世界なのか……」と思わずにはいられないのですが、一般的な漁業者は、けっして生活がラクではないし、高齢化もすすんでいます。
10年で24万人から17万人というのは、「激減」ですよね。
漁業への新規就労者数は全国で年間2000人以下だそうですので、高齢者が多いことを考えると、今後も減少傾向に歯止めはかからないでしょう。
日本の海産物の輸出や養殖に関しても、「現実はそんなに甘くない」ことが、この新書のなかでは指摘されています。
養殖は、現在の「近大マグロ」のように、最先端の技術であり、さほど生産量が多くないうちは大きな利益を生みますが、生産量が増え、一般的なものになればなるほど、単価は下がっていきます。
もちろん、消費する側としては、美味しい魚が安くなるのは嬉しいことなのだけれども、どんどん、儲からなくなっていくのです。
いまの回転寿司の価格をみていると、一部の超高級寿司店で扱われるような魚以外は、そんなに高い値段はつかないのだろうな、と思われます。
先日ある国際学会で講演した際、他国の研究者から質問されました。
「私は日本食が好きで日本に来るとよく刺身を食べるが、それでお腹をこわしたことは一度もない。しかし自国に帰って刺身を食べると、必ずお腹をこわす。なぜ日本の魚はこれほど安全なのか?」
日本人は当たり前のことも、他の国から見たら何とも不思議なようです。
日本人にとっては「当たり前」の魚の生食なのですが、海外では、必ずしもそうではない。
もちろん、「なまもの」ですから、お腹をこわすことだってありますが、外国の人からすると、「日本の魚は安全性が極めて高い」そうです。
獲るだけでなく、流通に関しても慎重に行われている日本の漁業なのですが、そのわりには、魚には、そんなに高い値段はつかないのです。
それにしても、日本の若者は、あまり魚が好きではない。
(率直に言うと、僕もそんなに好きじゃないです)
2005年に農林中央金庫が東京近郊の小中学生に行ったアンケート調査の結果が紹介されているのですが、「魚全般」は、ピーマンや野菜、レバーをおさえて、「給食で嫌いなメニュー」の1位となっています。
冷えて硬くなった魚の揚げ物を、プラスチックや金属の皿の上に載せて、牛乳と一緒に食べる。しかも今どきの小学生は昼休みにもいろいろとやることがあり、早く食べろ、と急かされるといいます。要するに給食というのは「魚食」のシーンとして不適当で、そのような場であれば肉メニューのほうが無難なのです。
「魚が嫌い」というよりは、「給食に出てくるような魚料理が嫌い」なのでしょうけどね、結局のところ。
ただ、僕自身について考えると、「これを読んだからといって、著者が主張しているような『日本人の伝統的な魚食文化』に従った食生活をするようには、ならない」のですよね。
食というのは、ものすごくプライベートかつ人それぞれの好みが分かれるところで、「日本のため、日本の漁業のため」だからといって、あえて食べたくないものを食べはしないだろうな、と。
漁業者だって、いくら「家業」であっても、儲からないし、きついし、将来が不安だし……という仕事を、「日本の食のため」にやれと言われても困りますよね。
ああ、これはもう、日本の漁業は衰退していくしかないのだろうな……