琥珀色の戯言

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【読書感想】愛されるアイデアのつくり方 ☆☆☆☆


愛されるアイデアのつくり方

愛されるアイデアのつくり方

内容紹介
●震災後、日本中に愛されたミゲル&西川貴教さんの消臭力CM――。
その仕掛人鹿毛康司・エステー(株)特命宣伝部長が、ヒットCMを生み続ける「アイデア発想法」のすべてを明かす初の著作


●彼は、元雪印社員だった。2000年に起きた「雪印事件」。その壮絶な体験が、数々の「愛されるアイデア」を生み出していたのだ。
本書では、彼がつかみとった、誰にでも応用可能な「アイデアのエッセンス」を「11の法則」としてまとめている。


●その根本には、「だからやらないではなく、だけどやる」の精神で、"常識"のカベを突破していく生き方があった。
「だけどやる」と歩み続けるなかでドラマが生まれたとき、優れたアイデアは自然と生み出されるのだ。
「不器用な生き方」をさらけ出した本書を読めば、「アイデア」と「勇気」が自然と湧きあがってくる。


●ムシューダの熊雄、消臭プラグの殿様、消臭力の『この部屋くさいよ』……。
これら数々の愛されるCMを生み出してきたエステー(株)。
震災後、日本中に愛されたミゲルの消臭力CM、そして、ツイッターを介して西川貴教氏とそのファンも参加した続編のCMは、ついに「好感度日本No.1」に輝いた。


●この本は、その仕掛人であるエステー特命宣伝部長の鹿毛康司氏が、自らの「不器用な生き様」を生々しくさらけ出しながら、その「アイデア発想法」のすべてを明かした一冊。


僕はゲームデザイナーやCMプランナーなど「クリエイター」と呼ばれる人の著書が好きなので、書店で見かけて購入。
「へえ、あの『消臭力』のCMをつくった人が書いた本なのか」と興味がわいてきたので。

 エステーに入ってからも、痛恨の思い出がある。
 あれは、2007年のこと。『ムシューダ〜テニス篇』というCMを放映中止にしたことがある。
 僕は、「ネガティブな感情を引き起こすCMはつくらない」「愛情のないCMはつくらない」と自分に言い聞かせて、そこだけは守ってきたつもりだった。にもかかわらず、このCMで人を傷つけてしまったのだ。
 それは、こんなCMだった。
 大観衆が見守るセンターコートでは、女子シングルスの決勝戦が行われている。強豪のチャンピオンと日本人の挑戦者、一進一退の死闘だった。
 しあかし、何かがおかしい。
 よく見ると、日本人選手は両手で背中を押さえながらプレイしている。え? じゃ、ラケットは? なんと、口で持っているではないか。
 それでも、一歩も引けをとらない力強いストロークでチャンピオンを左右に揺さぶり、スマッシュ。チャンピオン、届かない。決まった! 思わず、日本人選手は両手でガッツポーズをする。
 すると、背中にふたつの虫食い穴が。そう。彼女は、虫食いの穴を見られたくなくて、背中を両手で押さえていたのだ……。
 作品のクオリティは高かった。シンプルで強い印象を残すCMだった。防虫剤「ムシューダ」という商品への希求力もあった。
 しかし、実は、僕は、企画段階からどこかモヤモヤした違和感を覚えていた。

 結局、この「ムシューダ」のCMは放映をやめることになりました。
 なぜ?

 
 このCMに対して、抗議が何件か寄せられたものの、非難囂々、という感じではなかったようです。
 しかしながら、ある病院関係者の言葉で、最終的に著者は「決断」することになります。

「この世には、道具を口にくわえなければ生活できない方がいる。そういう方のなかには20歳くらいで亡くなる方もいる。そうとわかっていても、一生懸命生きている人がいる。鹿毛さんは、そういう人と直接接していないでしょ? だから、わからないんだよ。道具を使いたいときに、口にくわえるしかない人の気持ちが……」
 この期に及んで僕はこう言った。
「でも、僕らだって切符をくわえるじゃないですか?」
「切符は道具ですか?」
 何も言えなかった。ただただ恥ずかしかった。

このCMを放映中止にしたのは「過剰反応」だったのかどうか?
CMに限らず、多くの人に向けて発信されるものの「難しさ」がよくわかるエピソードだと思います。
もちろん、著者には障害をもつ人を傷つける意図はなかったはずです。
CMには大きなお金が動きますから、そう簡単に「やめます」というわけにもいかないでしょう。
著者は、けっして酷い人ではないとも思う。
それでも、「発信する側は『全くそんなつもりはない』場合でも、誰かを傷つけてしまう表現」というのは存在するのです。


この本を読んでいて僕の心を動かしたのは、著者のさまざまな「失敗談」や「壁にぶつかった体験」でした。
人気CMをつくっているクリエイターの本なのだから、自慢話ばっかりなのかな、と思いきや、ここに書いてあるのは「一流企業に務め、MBAを修得したエリートのはずの人が、自分の知識と現場、お客さんとのギャップに悩み、失敗してきたこと」がほとんどなんですよ。


読んでみて、「アイデアの出し方」はもちろん、そのアイデアをどうやって、多くの人に伝えていくのかについての著者の考え方に、ひき込まれてしまいました。
この本、よくある「発想法の本」かと思いきや、社員として、あの「雪印事件」に対応した著者の「なかなか心を開いてくれない相手に、伝えるための苦闘」を、けっこう率直に書いてあるのです。


調査会社が集めてきたデータを分析してわかったつもりになり、「頭でっかち」になりがちな「自称クリエイター」たちに、「それは対象者たちの『本当の気持ち』とはズレているのだ」「もっと現場をしっかり見ろ」と真摯なアドバイスもされています。


著者が、「消臭ポット」の第2弾のCMで、4つのバージョンをつくり、それぞれのバージョンの放送回数に強弱をつけるために、調査会社に評価を依頼したときの話。

 街頭で、行き交う人々を呼び止めて、どのバージョンがいいかを選んでもらうのだ。このときも、僕は現場に出向き、じっと調査の様子を見つめ続けた。
 そして、あることに気付いた。
 ある女性が、調査員の持っている小型テレビに見入っている。真剣な表情だ。まるで、睨みつけるように画面を見つめていた。
「そんなはずないよ!」
 僕は、思わず叫び出しそうだった。
 誰が、CMをあんなに真剣に観るものか。ダラダラと寝転がって、ポテトチップスをつまみながら、おしゃべりをしながら、ボンヤリと眺める。それがCMじゃないか。そして、よく観察すると、ひとりで調査に協力してくれる人は全員、真剣にモニターを見つめていたのだ。
 そんななか、ふたり連れの女性が入ってきた。彼女たちは、ニコニコ笑って、冗談を言い合いながら画面を眺めていた。どう考えても、彼女たちのほうが普段CMを観ている状態に近い。
 アンケートの記入表を見た。
 思ったとおりだった。
「ひとり」の調査結果と、「ふたり連れ」の調査結果では、4種類の順位がまったく違っていたのだ。顕著だったのは「最も突き抜けたバージョン」の順位だった。「ひとり」では最下位だったが、「ふたり連れ」ではなんとトップだったのだ。
 僕は確信を持って決断をした。
 その「最も突き抜けたバージョン」をメインに、放映ローテーションを組むことにしたのだ。それが、「ぷるぷる香り、ぷるぷる消〜臭♪」という歌にあわせて、エステーの支店長たちが踊るCM『消臭ポット〜支店長ズ』篇だった。
 結果は上々だった。


もちろん、データは大切なのだけれど、それがすべてではありません。
そもそも、そのデータが「嘘」ではないとしても、調査する条件によって、結果は異なるのが当然です。
「だから、僕は必ず調査現場に行く」

 僕は、ひたすら「みんなをほっと笑顔にする、突き抜けたアイデア」を求め続けた。しかし、向かうところカベだらけだった。「業界の常識」「通じない”想い”」「思考停止」……。
 へたりこみそうになることもあった。ときには、がっくりと落ち込むこともあった。
 そんなときに僕をいつも励ましてくれた言葉がある。
「だからやらないではなく、だけどやる」
 かつて三重県知事として、県政改革を進めた政治家・北川正恭さんの言葉だ。この言葉は「雪印体質を変革する会」が占拠した雪印乳業本社「41会議室」の壁に貼っていた。
「何かをやろう」とするとき、「やらない理屈」ならヤマのように出てくる。
 一方で、「やる理由」なんて見つからない。だからほとんどの人がやらない。

この本、「発想法」の本のはずなんですけど、なんだか読んでいるとすごく元気が出てくるんですよ。
新しいものをつくるためには「天才的なひらめき」が必要不可欠なのだと思い込んでいたけれど、それよりも、もっと大切なことがあるんじゃないか、そしてそれは、僕にだって「やればできる」のではないか、って。
むしろ、「だけどやる」ことこそが、唯一の「秘訣」なのかもしれません。
「自分には才能がない」と諦めかけてしまっている人にこそ、読んでみていただきたい一冊です。
本当に「足りない」のは、才能じゃないんだよね、きっと。

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