日本の選択 あなたはどちらを選びますか? 先送りできない日本2 (角川oneテーマ21)
- 作者: 池上彰
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/12/10
- メディア: 新書
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内容紹介
第一章 消費税の増税に賛成?反対?
第二章 これからの社会保障は高齢者重視?次世代重視?
第三章 これからも"安くていいもの"をつくり続けますか?
第四章 領土問題は強硬に?穏便に?
第五章 日本維新の会に投票しますか?しませんか?
第六章 大学の秋入学に賛成?反対?
第七章 教育委員会制度は存続?廃止?
第八章 原発ゼロに賛成?反対?
第九章 どうする、選挙制度改革。一票の格差を許せますか?
第一〇章 がれきの広域処理は受け入れるべき?断るべき?
内容(「BOOK」データベースより)
領土問題、消費税の増税、橋下新党…決断すべきあの問題の「なぜ?」が分かる。
先日の衆議院選挙の開票速報でも、テレビ東京で大活躍だった池上さん。
あの番組をみていると、罵声を浴びせていた石原慎太郎さんが、あとで「あなただとは知らなかった」と謝罪していたように、政治家にとっても、池上さんは「軽く扱えない、ちゃんと対話をして見せないといけない人」と認識されているように感じました。
公明党と創価学会の関係への言及など(池上さんによると、「それは別にタブーではなくて、メディア側がみんな知っていることと思い込んでいて、あえて伝えていなかっただけなのだ」とのころですが)、「視聴者は何を知らなくて、何を知りたいと思っているのか」を意識している、数少ない「ジャーナリスト」が池上さんではないかという気がします。
この『日本の選択』では、いまの日本で問われている大きな問題について、池上さんがわかりやすく解説してくれています。
それぞれの問題について、たとえば領土問題や原発などについては、僕自身があれこれ勉強した内容を考えると、良くいえば「シンプルに、わかりやすく」、悪くいえば「あまりにも大雑把すぎる」ものだと感じましたし、その他の項についても「詳しく勉強した人や専門家にとっては、いろいろ言いたいところも多い本」かもしれません。
でも、ひととおり読んでみた印象としては、このくらい「わかりやすく」しないと、みんな興味を持ってくれないのだろうな、とも思うんですよね。
国民は、みんな忙しい。
日常生活を送りながら、政治のことをずっと考えている余裕なんて、そうそうありません。
それでも、この本を1冊、1〜2時間くらいかけて読めば、「いまの日本が、日本人が直面している問題」を、ひととおりイメージすることができるようになっています。
それでいて、この新書には「知っているようで、知らなかったこと」が、けっこう書かれているんですよね。
消費税増税について。
消費税は、現状の5%から2014年に8%へ、その1年半後に10%まで引き上げという二段階で増税されます。
「上がると決まったんだから、もう考えたって仕方がない」
そう思うかもしれませんね。しかし、そうでしょうか。もしかしたら、消費税は上がらないかもしれません。なぜなら、国会を通過した法案の文面には、税率の引き上げは「経済状況を好転させることを条件とする」という「景気条項」が盛り込まれているのからです。
増税するかどうかの判断は、最初の税率引き上げの半年前にあたる2013年秋の時点で、経済が増税に耐え得るかどうかを見極めて決めるということになっています。そのときになればまた、新聞やテレビはこのテーマを盛んに取り上げ、増税反対派の議員たちが「やっぱり上げるべきではない」と言い出すでしょう。そこであなたも、心が揺れ動くかもしれませんよ。
僕も「もう決まったことだし、いまの財政を考えると、しょうがないよな……」と思っていたのですが、こんな条項があるんですね。現実的には消費税が予定通り上がる可能性が非常に高いとは思いますが。
しかし、本当に法案通り「経済状況を好転させること」を条件とするなら、いまの状況を考えると、2014年からの増税なんて、ありえないんじゃないかな。
社会保障費の問題についても、こんな話が出てきます。
2011年度の日本の社会保障給付費は、約100兆円(ちなみに、同年の日本の歳入は42兆円)。
この100兆円の給付先は、「年金」が約52兆円で、「医療」が約31兆円。「福祉その他」が約17兆円。
年金が半分で、年金と医療で80%超になります。
それに比べ、たった二割弱の福祉予算で「遺族(6.7%)」「家族(3.3%)」「障害(3.2%)」「生活保護その他(2.7%)」「失業(2.5%)」「労働災害(0.9%)」、「住宅(0.4%)」がまかなわれているという事実、まずはこれを認識しましょう。
最近、生活保護の不正受給が社会問題となっていますが、こうしてみると国の財政に与えるインパクトとしてはたいしたことはありません。国民の血税が不正に使われるのはもちろん許されることではありませんが、生活保護の不正受給者は、社会保障費全体の2.7%のさらに一部です。いくら不正の取り締まりをしても社会保障費の抑制という点ではあまり効果はありません。もちろん不正は防がなければなりませんが、生活保護を受けるべき弱者に与える影響も心配です。
「年金」と「保健医療」。この二つの制度改革に切り込まないことにはどうにもならないのが現実なのです。
生活保護の不正受給者に対しては、僕もその「人間性」に腹が立ちますが、現実的には「その人たちを撲滅しても、社会保障費の苦境には改善は見込めない」のです。
しかも、年金とか医療に関しては、これからさらに高齢化がすすんでいけば、負担が増してくるのは自明の理。
船の上で「ナマポ叩き」をして快哉を叫んでいる間に、自分が乗っている船が沈んでしまいかねません。
この本を読んでいると、日本のメディアは(というか、おそらく世界中で同じような傾向があって、これは「人間のサガ」なのかもしれませんが)「視聴率をとるため、話題づくりのためのゴシップやわかりやすい揉め事」などに時間が割かれてしまっているのだな、というのがよくわかります。
僕はいままでずっと、維新の会の橋下大阪市長に対して、「タレント出身で口がうまいし、はっきり物事を言うのが爽快だから、大阪でウケているだけなんだろうな」と思っていました。
池上さんは、この新書のなかで、橋下市長がこれまでやってきたことを、このようにまとめています。
茶髪のタレント弁護士としてお茶の間の人気者だった橋下氏が、2008年に大阪府知事選に立候補し、史上最年少の39歳という若さで当選して以来、常にマスコミに話題を提供し続けてきました。どうせタレント知事だとうくらいに思っていたら、いきなり大変なスピードで府政改革を進めていきました。府職員の人件費を1300億円もカットしたり、天下り先の法人を半分近くに削減したり、府の支出と予算を全面的に公開するなど、大阪の抱える巨額の借金や、行政の怠慢、利権構造にバッサバッサと切り込んでいきました。
一方で生活保護対策として貧困ビジネスを規制したり、教育では年収の低い世帯の私立高校の授業料を無償化したりするなど、弱者を救済する政策も進めました。教員に君が代の起立斉唱を義務付けたり、同和予算を削減したりと、タブーを設けず批判を恐れない姿も印象的でした。
そして、今度は大阪市へ。橋下氏が来るまでの大阪市役所は、まさに伏魔殿でした。市の労働組合が強く、ありとあらゆる利権が集中していました。借金漬けの財政だというのに職員数は多いし給料は高い。橋下氏が市の職員で刺青をしている人を調査してみたら、110人も見つかりましたね。そのような調査に批判もありましたが、大阪市の職員による強盗事件や猥褻行為、覚せい剤などでの逮捕者が毎月のように出ているありさまです。
大阪の行政に対して、市民は長い間不満を募らせていました。これまでも改革を試みた市長はいましたが、抵抗が強くて挫折してきました。それを橋下市長は見事にやっている。だからこそ、熱狂的な支持を得ているのです。
しかし、そういうことは大阪以外では報道されません。マスコミの報道は、橋下市長の言動の中のほんの一部です。たとえば文科省を「バカ。最悪」と言ったとか、国交省のやり方を「ぼったくりバー」と言ったというようなことばかりが面白おかしく報道されます。
「今の日本の政治に必要なのは独裁者ですよ」という発言以降は、あちこちでアドルフ・ヒトラーと比較されていました。
このため、大阪から遠くなればなるほど、「なんであんなに人気があるの?」と眉をひそめる人が多くなるわけです。
長々と引用させていただいてすみません。
でも、この池上さんの「橋下評」を読んで、「なんで橋下さんは大阪であんなに人気があるのか」が僕にもようやくわかりました。
いままで「大阪の人って、タレント政治家好きそうだもんな」なんて思い込んでいたんですよね。
ちなみに、池上さんは橋下さんを手放しで絶賛しているわけではなくて、「維新の会が目指す国家像は、個人の自助努力が大前提」だと述べています。
橋下さんは、「好き勝手に自分のやりたいことをやっている独裁者」ではないのですね。
文楽に対する姿勢のように「極端なやり方や発言だけが、全国的に大きく採り上げられている」だけで、大阪の多くの市民が支持するような「改革」をきちんと進めてきたから、人気があるのです。
「もう、これまでの生ぬるいやり方では、じり貧になっていくばかりだ。厳しい航路を通ってでも、日本を建て直そう」
いやまあ、実際にその「厳しい航路」に直面したとき、それをみんなが受け入れられるか、というのは、なかなか難しいところがあるとは思うんですけどね。
2011年3月11日の大震災のとき、僕は「ああ、これは大増税になってもしょうがないな。こういう災害はどこにでも起こりうるものだし、みんなで助け合わなくては」と決心した……はずでした。
でも、あれから2年近くが経ってみると「増税、やっぱりきついな……」と、あのときの気持ちは薄れてきてしまっています。
この新書の冒頭に「財政再建のために消費税を成立させようとして、挫折した政治家列伝」を池上さんが書いているのは、政治家たちへの批判というより、「問題の本質に目を向けず、問題を先送りにする選択を続けてきた国民へのメッセージ」なのかもしれないな、と思うのです。
マスコミへの「スキャンダル報道ばかり」という批判も、マスメディアだけの問題ではないのです。
「そのほうが視聴率が取れる(=みんなが観る)」という受け手の意識こそが、問われるべきです。
年末年始、何かとあわただしい時期ではありますが、だからこそ、少しだけ時間をつくって、こういう本も、1冊読んでみてはいかがでしょうか。