- 作者: 池上 彰
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- メディア: 単行本
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内容紹介
現代日本を形作ったキーパーソン12人を語りつくす!
田中角栄、渡邉恒雄、ホリエモンに池田大作、上皇陛下まで……、毀誉褒貶ありつつも戦後日本を決定づけた人々を池上解説。2018年から文藝春秋西館で行われた「〈夜間授業〉池上彰“戦後”に挑んだ10人の日本人」をもとに構成・編集。講義で実際に出たQ&Aも収録し、改めて基本から現代史の重要人物たちを知ることができます。
「戦後日本」に対峙し、変革をもたらした型破りな人々の“功罪”で学ぶ現代史講義。第1回 田中角栄 今、見直される理由
第2回 江副浩正 情報社会の開拓者
第3回 小泉純一郎 断言する“変人”政治家
第4回 中内功 価格破壊の風雲児
第5回 渡邉恒雄 読売帝国の支配者
第6回 堤清二 詩人経営者の血脈
第7回 村上世彰と堀江貴文 金儲け至上主義と国策捜査
第8回 石原慎太郎 暴言と思いつきの長期都政
第9回 池田大作と創価学会 政教分離と自公連立
第10回 上皇陛下と上皇后・美智子さま 象徴天皇としての試行錯誤
(目次より)
日本の「太平洋戦争後」を知るための12人について、池上彰さんが10回にわたって講義したものの書籍化です。
この人選をみて、田中角栄さん、小泉純一郎さん、上皇・上皇后両陛下に関しては、多くの人が納得すると思うのですが、政治家や文化人中心ではなく、経済界で爪痕を残した人が多く採りあげられているのです。
この講義のなかで、池上さんは、ロッキード事件で自分の人生が変わった話をされています。
経済学部出身で、経済部志望だった池上さんは、ロッキード事件で人手が足りなくなったため、松江放送局から東京の社会部に応援に出されたことがきっかけで、社会部の記者になったそうです。
もともと経済に興味があった、ということが、この講義での人選につながっているし、いまの時代に池上彰という人が存在感を示している理由ではないか、と僕は感じました。
結局、日本の戦後というのは、この令和に至るまで、「政治ではなく、経済が世の中を動かしてきた時代」でもありますよね。
池上さんは、田中角栄という政治家の功罪をこのように語っておられます。
田中角栄は遺産をいくつも残しました。整備新幹線(北海道、東北、北陸、九州の各新幹線)のように今も進行中のもの、いくつもの障害があって頓挫しているものもあります。
その一方で田中さんが想定しなかったこともあります。新幹線ができたことによるスポイト効果と呼ばれるものがそれです。新幹線網で地方と都会を結びますと、地方の人たちが新幹線を使って都会に出て行ってしまう。あるいは、どうせ買い物をするなら都会でしようよ、善光寺参りは日帰りでやろうよ、ということにもなる。
本四連絡網もこのスポイト効果を助長しています。高松の人も徳島の人も、大阪に買い物に行く。つまり、地方の人たちをまるでスポイトで吸い上げるように吸い上げて都会に運んだ結果、地方の過疎化が進んでいるのです。田中角栄が構想した列島改造論には先見の明があったその一方で、思わぬ形を招いています。これもまた現実なのだということです。
(中略)
一方で、金脈もあった。私生活や下半身の問題もあった。当時の記者たちは「政治家の下半身は一切問わない」とうそぶいて、佐藤昭との関係も神楽坂芸者の存在も不問に付してきました。金脈問題と同じく、知っていて書かなかったのです。今なら「週刊文春」が一発で書くでしょう。それでも知らん顔をして政治家を続けられたかどうか。
あるいはまた、国民の側も考えなくてはなりません。金にも女にもだらしないけれど仕事のできる政治家と、清廉潔白だけど仕事のできない政治家のどちらを選ぶべきなのか。
田中角栄さんが権力の頂点にあった時代には、少子高齢化がここまで進み、人口がどんどん減っていく日本、というのを想像していた人は、ほとんどいなかったはずです。僕も子どもの頃は、1999年にノストラダムスの大予言のように人類が滅亡するか、人口が爆発的に増えていって、飢餓が拡大して地球は満員になってしまうと思っていました。
人間は、いろんな方法で未来を予想しようとするけれど、半世紀先のことでさえ、正しく予想することはできない。
僕が子どもの頃の予想が正しければ、今頃はスペースコロニーに住んでいる人が大勢いるはずでした。
地方の発展を促すためだった新幹線は、かえって、日本全体の人口が減っていくなかで、東京への一極集中を生んでいるのです。
ちなみに、小泉純一郎さんの回では、池上さんはこう仰っています。
いま、彼(小泉純一郎さん)には裏表がないと言いましたけど、彼の強みは、政治献金の類を一切受け付けなかったことです。よけいな陳情も飯島秘書官に全部断らせました。それを続けるうちに有権者も「ああ、小泉さんはそういうものを受け付けないんだ」と学習します。有権者に媚びないでいると、それが有権者教育にもなっていくわけです。
彼にそれができたのは、なんといっても三世議員だったからでしょう。彼は純也さんの息子であり、純也さんは戦前の逓信大臣・小泉又次郎の女婿です。これだけの家系に生まれると、地盤・看板・カバンの三つとも、すでに備わっているので、苦労して資金集めをしないで済むのです。その反対の例が田中角栄さん。徒手空拳でのし上がってくる際には、時に無理をしてでも金を集めなければいけません。その無理が祟って「総理の犯罪」に手を染めてしまったのです。
もちろん、理屈としては「徒手空拳でも、クリーンな方法でのし上がることだって可能」ではあります。
でも、それはかなりハードルが高い。
東大生は親の収入が平均より高い、というのと同じこことで、スタート時点の格差をひっくり返すのは難しい。
「田中角栄のような政治家」を待望する声が少なくないのですが、「クリーンであること」を大前提にすると、「小泉純一郎さん(あるいは、その子どもである進次郎さん)のように、銀のスプーンをくわえて生まれてきた人」のほうが、政治家として成功しやすいのは間違いありません。
「清廉潔白で仕事もできる政治家」がいちばん良いのはわかりきっているのですが、欲望とかバイタリティというのは、「仕事にもその他の面にも」万遍なく発揮されることが多いものではありますし。
池上さんは、長年記者として政治家や経済人を取材してきたこともあり、実際にその人物に接した印象やその時代に経験したことを語っています。
池上さんが村上世彰さんと『伝える力』という著書がきっかけで会うようになり、池上さんのすすめで『生涯投資家』(文藝春秋)を書いたというのは、この本を読んではじめて知りました。
取材者としての知名度からいえば、当たり前のことなのかもしれませんが、本当に池上さんはいろんな人に会っておられるのです。
池上さんも仰っているように『生涯投資家』を読んで、村上さんという人、あるいは、投資家という仕事へのイメージが変わった人も多いのではないかと思います(僕もそうでした)。
リクルートの江副浩正さんの回では、こんな述懐もされています。
じつは、メディア関係者まで未公開株をもらっていたと知って私は考えてみました。もし自分だったらどうしただろうか?
たしかに、文部省を担当していたときは日本リクルートセンターの広報の人たちと非常に仲良くなり、届けられたサツマイモを記者仲間で分け合いました。あれくらいはいいかも知れない。だけど、もし江副さんと面識ができて、私に未公開株を持ってほしいとオファーがあったらどうしたでしょう。私には職務権限はありません。もちろん記者のモラルには反するとしても、法律に反することではないのです。さあ、そのときに、果たして自分はきっぱりと断れただろうか?
それ以降、いろんな人に取材をし、いろんなところを取材しましたけど、リクルート事件があって以後は、プレゼントなどの誘惑からは一歩距離を置くようになりました。事件をきっかけに、そうやって自分を律するようになったのです。
こういう話を読むと、「不正」とか「モラルの破綻」というのは、ちょっとしたきっかけ、「このくらいだったらいいか」とか、「みんながもらっているなら、自分も許されるだろう」というところから起こってくるのだな、と考えさせられます。
池上さんも、「もし未公開株をもらえる機会があったら、断れただろうか?」と自問しておられるのです。
池上さんはリクルート事件を契機に、リスクを再認識されたのですが、あの事件の前に、深く考えもせず、「このくらいだったら」と、つい受け取ってしまったばかりに、罪に問われて一生を台無しにするようなケースもありうるのです。
こういうのって、日ごろの心がけの差はあるとしても、「運」みたいなものもあるのかもしれません。
日本の戦後を見つづけてきた池上さんならではの視点も込められた、興味深い人物論だと思います。
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