琥珀色の戯言

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【読書感想】とことん! - とんかつ道 ☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
今日は上野、明日はファミレス。定食評論家がとことん食べ歩く。かつサンド、ハムカツ等のバリエーション。とんかつ早慶戦。長崎トルコライス等のご当地カツ。果てはハワイでとんかつラーメン。お新香、みそ汁、キャベツなど脇役陣もチェック。腹ぺこ諸君に贈る古今東西カツ事情。100店舗超掲載。カラー写真多数。

 僕は著者・今柊二さんの「定食本」などの食べ歩きエッセイがけっこう好きで、見かけるとつい買ってしまいます。
 紹介されているのは都心の店がほとんどで、九州在住の僕にとっては、あまり「実用的」ではないんですけどね。
 だからこそ、「眺める楽しみ」みたいなものもあるのです。

 それでは、とんかつはどういう位置づけか。まあ天丼ほどハードじゃないけれど、少しは元気がないと食べられないですね。ただし、とんかつでも定食となった場合は、大体伴走者として大量の千切りキャベツやお新香もついてくるので、野菜摂取も実施されるため天丼よりは栄養的にも問題がなさそうだし、消化もキャベツが助けてくれそうなので、思いのほか体調には左右されない。
 以上の状況から、ランチでのとんかつ気分とはこんな感じである。よく晴れた日の12時ちょうどくらいのタイミング。9時から会議などがあって午前中からミッチリ働いたという設定。朝食は時間がなかったので、牛乳しか飲んでいない。ちょっと背伸びなどをしつつ、「ああ、おなかが空いたなあ。朝飯もろくに食べていないし、今日は元気が出て栄養バランスのとれたもの食べたいなあ。そうだ! とんかつ定食だ!」
 とつぶやきつつ、元気よくオフィスを出てとんかつ屋に向かうのであった。

 僕のなかでは、とんかつのほうが、天丼よりも「ハード」なんですけどね。
 ただ、僕の場合は、「今日はあっさりと牛丼とかラーメンにしようか」などと家族に言って、「そのどこが『あっさり』なの?」と糾弾されることも少なくないので、一般的な感覚とは異なっているのかもしれません。


 この本、『とんかつ道』ということで、300ページのほとんどが、とんかつについての話、その他にも、ビーフカツやメンチカツ、コロッケなどの「揚げ物一般」についても、少し書かれています。
とんかつという料理の性質上、お腹がすいているときにみると「あれも食べたい、これも食べたい」という感じなのですが、満腹のときには「写真を眺めているだけで、お腹いっぱい」になってしまいます。
いやしかし、これだけ、とんかつの店が並んでいるというのも、なかなか壮観ではありますね。


 また、「カツカレー」についての、こんな話が紹介されていました。

 それではどんなカツカレーがおいしいのか。カツが突出しすぎても、カレーが主張しすぎていてもバランスが崩れる。『danchu』1992年4月号「テイクアウトの徹底活用で理想のカツカレーに挑む」という記事(文・林巧)で行っていた実験が面白い。いくつかのパターンを組み合わせてカツカレーをつくっているのだ。それは、


(1)上野のとんかつ店御三家(「双葉」「蓬莱屋」「本家ぽん多」)の一店のヒレカツ+神保町の欧風カレー専門店の辛口ポークカレー
(2)青山のとんかつ専門店の一口ヒレカツ+銀座のインドカレー専門店のキーマカレー
(3)上野御三家の一店のロースカツ+銀座のインドカレー専門店のしゃぶしゃぶエビカレー
(4)近所の肉屋のカツ+レトルトカレー


以上4種で、このうち、(3)のみカレーがカツよりライスにより馴染んでしまうために無理があったとしているだけで、他は高い評価が与えられている。特に(4)が予想通りの、うまくはないがまずくもない、予想を裏切らない味だと「評価」しているのがとても興味深かった。
「……高級素材のカツカレーの後ではなおさら、身をやつしてもしぶとく生き続けるカツカレーの持って生まれた凄みに触れた気がした」とあるのがすばらしかった。まさにその通りで、カツカレーは高くてもうまいが、安くても満足できる。何しろそもそもおいしいものが二つ合体しているわけで、まさに「ダブルごちそう」なのだから。

 これを読みながら、僕の母親が、「カツカレーって、ばらばらにして出せば、2回分の夕食のおかずになるのよね……」と呟いていたことを思いだしました。
 基本的に、贅沢な組み合わせなんですよね。最近はあまりそんな感じはしなくなったけれど。
 ただ、カツカレーって、あんまりカツもカレーも高級すぎないほうが、美味しいというか、しっくりくるのは、なぜなのでしょうか?


 著者の食べもの本の長所でもあり、短所でもあるところとして、紹介されている店の「善し悪し」はわかりにくくなっています。
 どれもおいしそうで、どれかを選べといわれると、困ってしまう。
 これまでの傾向からして、著者には「悪口は書きたくない」というポリシーがあるのだと思われますし、よく読むと、「絶賛」「オススメ」「まずます」くらいのニュアンスは伝わってくるのですが、「とにかくいちばんオススメの店を知りたい」という人へのグルメガイドとしては、あまりオススメできません。
 ガイド本としてよりは、「食を愛する男の日常エッセイ」みたいな感じで、あまり代わり映えのしないようなエピソードを、淡々と読み進めていくのが、けっこう快感なんですけどね、僕としては。
 ちょっと『孤独のグルメ』っぽい感じでもあります。


 「とんかつ」って、絵的に同じようなものになりやすいためか、「とんかつの店ばかりを集めた本」って、ありそうで、なかなか無いはずです。
 そういう意味では、貴重な資料でもあり、ガッツリ食べたいときのために、何軒かブックマークしておくのに役立つ本だと思います。
 とんかつ好きで、都心に住んでいる人は、もうひとつ☆を追加しても良いかもしれません。

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