あらすじ: 人種隔離政策アパルトヘイトによって、白人たちが優位に立ち、黒人たちが迫害されていた、南アフリカ共和国。弁護士として働いていたネルソン・マンデラ(イドリス・エルバ)は、そんな差別や偏見が当然のように存在している状況に疑問と怒りを感じられずにはいられなかった。その思いを強くするあまり、彼は反アパルトヘイトを訴えた政治活動に身を投じていくが、それと同時に当局から目を付けられるように。活動は熱を帯び、ついには国家反逆罪で逮捕され、終身刑という重い判決を下されてしまう。
2014年20本目の劇場での鑑賞作品。
平日の夕方からの回だったこともあり、観客は久々の僕ひとりだけの貸切り状態でした。
公開後の上映回数・上映時間の変遷をみていると、あんまりお客さん入っていないのかなあ……
マンデラさんが亡くなられたときの追悼集会も、日本では「ニセ手話の人」ばかりが話題になっていましたし……
そう言う僕も、ネルソン・マンデラという人に関しては、長年(27年間)獄中にいたことと、南アフリカ共和国のアパルトヘイトを打破し、最初の黒人大統領になった人、というくらいしか知らなかったんですよね。
だからこそ、この映画を観てみようと思ったのです。
この映画、ネルソン・マンデラの半生が、「英雄礼賛」ではなく、ただひたすら淡々と描かれているだけに、かえって心を打つものがありました。
マンデラは聖人君子ではなく、若い頃は非暴力での活動に限界を感じ、武力闘争にも踏み込んでいったのです。
浮気もしたし、運動にのめりこんだため家を空けてばかりで、最初の妻とは離婚してしまいます。
二度目の妻との関係も、あまりにも長い別居のため、けっして順調なものではありませんでした。
長年獄中にいたマンデラは「解放運動の象徴」として偶像化されてしまい、その妻は「マンデラの妻」としてふるまっていくうちに(そして、1年4ヶ月も独房に監禁されたこともあり)、どんどん「武力闘争も辞さない、過激な運動家」になっていきます。
マンデラにとっての「妻」は、終身刑で収監される前の4年間の結婚生活のときのままで(面会もほとんどできませんし)、妻にとってのマンデラは「夫というよりも、運動のシンボル」。
マンデラが獄中にいたときには、それでうまくいっていたのだけれど、出獄してみると、かえってふたりの間はギクシャクしていきます。
どちらが悪いというわけではないのに、どうしようもなくなってしまうことが、人と人との関係にはあるのだなあ、と。
長い獄中生活、そして、アパルトヘイトだけではなく、黒人社会内部での抗争。
アパルトヘイトが揺らいでくると、今度は、黒人の民族間での流血が絶えなくなってくるのです。
「敵」をつくらずには生きていけないのだろうか。
人間は、辛い目にあうと立派になる、他人に優しくなるとは限りません。
意固地になったり、苦労していない人を見下そうとしたりするようになってしまうことも多いのです。
でも、マンデラは、27年間の投獄などの逆境に負けなかった。
40代で終身刑となり、70歳を過ぎて釈放されたマンデラは、むしろ、逆境のなかで成熟し、「赦せる人」になっていったのです。
彼は、「これまでの復讐」を望む多くの支持者に失望され、妻との関係がギクシャクしても「憎しみの連鎖を断ち切ること」を呼びかけました。
「私は赦す。人生の半分を彼らによって奪われた私が赦すのだから、あなたたちも赦すことができるはずだ」
「私は指導者だ。だから、誤った道を選ぼうとする人が多数派であっても、正しい道を示さなければならない」
僕は、こんな「偉人」と同じ時代を生きてきたのか……
「敵を赦す人生」って、なんて孤独なんだろう。
「やり返してやりたい」味方からは腰抜けとなじられ、敵も敬意は評しても、愛してはくれない。
「一緒にやり返してやろうぜ!」って言えば、喜ぶ「仲間」は多かったはず。
しかしながら、それでは、世界は変わらなかった。
数々の混乱があったにせよ、南アフリカ共和国が、ルワンダで起こったようなような大虐殺の連鎖には至らなかったのは、誰もが知る、「最もつらい目にあったはずの人」が、「赦そう」と呼びかけたことが大きかったのではないでしょうか。
もちろん、南アフリカという国が、アフリカのなかでは経済的に豊かだったというのも、忘れてはならない要因ですが。
僕がこの映画のことを思い出そうとすると、最初に浮かんでくるのは、70歳過ぎて出獄したマンデラが、妻もいなくなった自分の家で、一人きりで背中を丸めて夕食を摂る場面なんですよ。
より多くの人を、本当に幸せにしようと思えば思うほど、その人自身は「孤独」になっていく。
2時間半で知ることができる、僕たちと同じ時代を生きた「偉人」の物語。
DVDが出たら、でも良いので、ぜひ、この人生を多くの人に知っていただきたい。
「自由への道は長く、そして孤独だった」 ――ネルソン・マンデラ