ワールドカップがもっと楽しめるサッカー中継の舞台裏 (角川SSC新書)
- 作者: 村社淳
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川マガジンズ
- 発売日: 2014/01/10
- メディア: 新書
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内容紹介
サッカーワールドカップ・ブラジル大会を観戦する前に読むと
試合の見方が変わり、面白さ倍増!
海外からのサッカー中継はこうして作られていた。
フジテレビの「不敗神話」を作った男、日本サッカーの20年を語る
ドーハの悲劇、マイアミの奇跡(アトランタ五輪)、ジョホールバルの歓喜、
そして日本サッカー史上最高視聴率66.1%を記録した2002年ワールドカップ・ロシア戦など、
日本サッカーの激動期の数々の名勝負を、現場から中継指揮してきた男が、
中継の舞台裏、報道されなかった監督や選手の素顔、サッカー放送ビジネスの実態を語る。
そのほか、
「チャンピオンズリーグにはなぜオープニング映像があるのか?」
「ワールドカップはいつから高額なコンテンツになったのか?」
「なぜサッカーには試合中のCMがないのか?」
「ドーハの悲劇はどうして感動的だったのか?」
「試合前の国家独唱は北島三郎から始まった」
等々の意外なエピソードも豊富に掲載。
いまや、サッカー日本代表の試合、とくに、ワールドカップは予選/本戦ともに、ものすごい高視聴率の番組になりました。
でも、思い返してみると、いまから約20年前、あの「ドーハの悲劇」(1993年)の際には、テレビ東京系列とNHK-BSでの中継しかありませんでした。
テレビ東京の系列局が観られない地方都市に住んでいた僕は、大学の部活の先輩・後輩たちと、衛星放送が観られる家に集まって、観戦していたのです。
みんなで集まって、ワールドカップへのカウントダウンをしていたロスタイムでの、あの悲劇の瞬間といったら!
空気が重いっていうのは、こういう感じなのだなあ、なんて思ったものです。
当時は、ワールドカップ出場が決まる試合でも、テレビ東京系が中継できるくらいの価値しかないと考えられていたんですね、サッカー日本代表の試合でさえも。
テレビ東京は系列局が全国を網羅しているわけではないので、観たいのに観られなかった人も多かったはずです。
結果的には「見てはいけないものを見てしまったのではないか……」なんて、みんなで肩を落としてしまうことになったのですけど。
あれから20年。そう、たった20年で、サッカー中継は、テレビ局にとっても重要なコンテンツになりました。
CS(通信衛星)放送では、国内外のサッカー中継が、視聴者獲得のための大きな役割を果たしています。
Jリーグに関していえば、地元に人気クラブがある地域や、優勝がかかった試合以外では、地上波ではなかなか観ることができないというのも、現状ではあります。
この新書は、フジテレビで20年以上にわたって「サッカー中継や、サッカー関連番組」の制作に関わってきた著者が「日本のテレビでのサッカー関連番組の歴史」を紹介したものです。
当初は一部のサッカーファンのなかでの盛り上がりだったサッカー日本代表の試合なのですが、日本がワールドカップの出場を争うようになり、本大会にも出場するようになると、その試合はものすごい視聴率を獲得するようになります。
(スポーツ中継部門の歴代1位が、1964年の東京オリンピックの女子バレーボール決勝、日本対ソ連の66.8%という話に続いて)
そして、この日本女子バレー金メダル中継に次ぐスポーツ中継第2位の視聴率を記録したのが、2002年6月9日にフジテレビ系で放送した2002年W杯グループHの日本対ロシア戦で、その視聴率は66.1%だった。フジテレビ系で放送されたこの試合の放送時間は午後8時から10時54分の計174分。日本全国古カバー(32のテレビ局)で放送された。
僕もこの試合、観ていました。
日本開催されたことや、ちょうど観やすい時間帯だったこともあるとはいえ、これだけ娯楽が多様化した時代に、66%というのは、ちょっと信じがたいような数字です。
「ちなみに、1分以上観た世帯の割合は88.9%」だったのだとか。
むしろ、「観ていなかった人は、何の番組にチャンネルを合わせていたのだろう?」という感じです。
これだけの視聴率を稼げるコンテンツということもあって、W杯の放映権料も、急激にアップしてきています。
まずは放送権料だが、1974年西ドイツ大会では、当時の担当プロデューサーに取材したところ、決勝戦の生中継と残りの録画放送権料で70万マルク(約8400万円/1マルク=120円換算)だったそうだ。それに対して、ドイツ大会(2006年)の放送権料は資料によると日本国内の放送権料は推定150億円(『新スポーツ放送権ビジネス最前線』高騰の波静まらぬサッカーワールドカップ放送権、ワールドカップの「世界」と「日本」の放送権料の推移より)とされている。1974年西ドイツ大会の試合数は38試合であるのに対し、2006年ドイツ大会は64試合。加えて1974年大会の放送は決勝戦以外はすべて録画放送(中継)だったのだから、これらの条件を無視して放送権料の数字を単純比較するのは少々乱暴な気もするが、1974年から2006年までの約30年間で、日本向けのW杯放送権料は約180倍に高騰したことになる。
オリンピックなどの世界的スポーツイベントの放送権料は、コマーシャリズムの浸透によって急騰を続けているのですが、それにしても、ここまで上がっているのか……と驚いてしまいます。
日本では、30年前のワールドカップ、サッカーファン以外には、ほとんど関心を持たれていなかったのに。
ちなみに、1974年のワールドカップは、決勝で「皇帝」ベッケンバウアーの西ドイツが、”フライング・ダッチマン”ヨハン・クライフを擁するオランダを破って優勝しています。
著者は、あの「ドーハの悲劇」が日本のサッカーの歴史に与えた「2つの大きな影響」をこんなふうに述べています。
ひとつは、サッカーをまだよく知らなかった日本人にW杯予選の厳しさ、W杯本大会に出場する意義、価値を実感させたことだ。そのことが、後々のW杯招致の理解を深めたし、尻すぼみになりつつあったJリーグ人気を再燃させたとも言える。ドーハの試合が、いかに日本のサポーターのサッカー熱を再刺激したかは、12月1日から再開したJリーグの、フジテレビ系で生中継した清水エスパルス対ヴェルディ川崎の首位攻防戦での視聴率がその人気を物語っている。ドーハに出場した選手が多く所属する両チームの対決は、視聴率が30.8%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)であった。この数字は、同年のJリーグ開幕試合のヴェルディ川崎対横浜マリノス戦に続く2度目の視聴率30%超えで、Jリーグの試合としても歴代2位の数字だった。
ドーハの最終予選の前には、Jリーグ人気の翳り、視聴率の数字に落ち込みが見え始めていたから、ドーハの悲劇がサッカー人気を再燃させ、Jリーグに再びファンの目を向けさせたという解釈は的外れなものでは決してないと思う。
そしてもうひとつ、ドーハの最終予選が日本サッカー史に残した大きな影響は、もし日本が韓国を抑えてアメリカW杯に出場していたなら、韓国のW杯開催地立候補はおそらくなかっただろうということである。アメリカW杯出場を決めてしまえば、日本のW杯本大会出場の実績がないことを揶揄されることはなく、日本の2002年W杯招致活動は順風満帆に進み、おそらく日本の単独開催に決まっていたと思われる。日本のサッカー史もまた違ったものとなっただろう。
あのときは、ただひたすら「無念……」という感じだったのですが、あれから20年経ってみると、「ドーハの悲劇」から、「ジョホールバルの歓喜」という流れは、日本のサッカー史のなかでも、もっともドラマチックで、多くの人がサッカーファンにあるきっかけになったんですよね。
日本人は「悲劇」を好むとこをがありますし。
しかし、あれが結果的には、W杯を単独開催できなかったことにも、つながっていたのか……
この新書では、「サッカー中継そのものの進化」や「CMの入れ方の変遷」なども語られています。
日本代表チームの実力アップとともに、サッカー中継の技術も、この20年間で大きな成長を遂げてきたのです。
また、著者と交流があるサッカー選手たちのエピソードも読みどころです。
ところでカズと最初に会ったのは1990年の『サッカースペシャル90 〜プロサッカーリーグ誕生〜』だった。今でもよく覚えているのは、番組収録が終わってカズとしゃぶしゃぶを食べに行ったときのエピソードである。普通しゃぶしゃぶは沸騰したスープに肉をくぐらせて食するのだが、カズは鍋の真ん中の筒の部分に、肉を乗っけて何くわぬ顔をしている。カズはブラジルにいたから、しゃぶしゃぶの食べ方を知らないんだとその場の皆が思った。次の瞬間、ニコッとあの人懐っこい笑顔で「なんてね」と、破顔一笑。食べ方は知ってますよと言わんばかりに、本来のスープの中に肉をくぐらしたのだった。初対面でも物怖じしない度胸と、その場を盛り上げようというサービス精神が、強く印象に残ったものだ。
中田とも鍋を一緒にしたことがある。『サッカー小僧』の収録後、一緒にふぐちりを食べに行ったときのことだ。野菜が苦手と聞いていたので鍋にしたのだが、中田はタレ(ポン酢)の中に入っている薬味の浅葱が気になったようで、あの小さな一片一片を箸でつまみ上げてはとり皿に避けていた。その集中力とマイペースさにただただ驚いた。
中田選手は、本当に野菜が苦手だったのだなあ、と。
それにしても、年上の人たちと一緒に鍋を囲んでいるなかで、これだけ「自分のやりかた」を貫けるというのは、それはそれですごいですよね。
このくらいのマイペースさがないと、注目されるなかでやっていけないのだろうなあ。
今年はW杯イヤーですから、この新書で紹介されているような「中継の技術」についても知っておくと、テレビ観戦の楽しみが、少し増えるのではないかと思われます。
正直、日本代表戦に関しては「そんな悠長なことはしていられない」でしょうけど。