琥珀色の戯言

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【映画感想】劇場版 ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉 ☆☆☆☆

解説・あらすじ
実在する競走馬の名前と魂を受け継ぐウマ娘たちが、学園生活のかたわら過酷なレース「トゥインクル・シリーズ」制覇を目指す劇場版アニメ。「ウマ娘 プリティーダービー」に登場するキャラクターのジャングルポケットが、ライバルたちと共にトップを目指す。アニメ「「雪ほどきし二藍」などの山本健が監督を手掛け、シナリオディレクターなどを小針哲也が担当。ボイスキャストには藤本侑里、上坂すみれ小倉唯らが名を連ねる。
最強の走りを目指すジャングルポケットは、トゥインクル・シリーズで見たフジキセキの走りに衝撃を受け、レースの世界に入る。ジャングルポケットはトレーナーと共にデビューを果たし、一生に一度だけ走ることができるクラシック三冠レースに挑む。しかしアグネスタキオンマンハッタンカフェら同世代のライバルたちが、彼女の前に立ちふさがる。

movie-umamusume.jp


 2024年映画館での鑑賞7作目。平日の朝からの回で、観客は僕も含めて5人。
 『ウマ娘』のゲームとアニメに関しては、ゲームはダウンロードはしたもののほとんどプレイしておらず、アニメも最初の3話くらい観て、けっこう面白いな、とは思ったのですがなんとなくそこで観なくなってしまいました。
 ゲームも「面白くなかった」というよりは、僕にはスマートフォンで長時間ゲームをやる習慣がこれまでの人生で根付かなかった、という感じなんですよね。
 時間があると、Kindleで本を読むかSNSAmazonを眺める、というのが長年の習性になっていて、通勤はずっと車ですし。


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 これを書いてから、もう何年も経って、さすがに僕も慣れてきました。
ウマ娘」は、競馬への大きな導入口となってもいますし、サイバーエージェントの株も少し持っているし。

 わざわざ映画を観に行くほどのこだわりはないコンテンツ、ではあったのだけど、まず、気分転換に映画を観に行こう、というのがあって、空いている時間に観てもいいかな、と思えたのがこの映画だった、というだけではあるんですよね。

 ただ、本にしてもゲームにしても「なんとなく関わったコンテンツに意外とハマってしまう、というのはよくあることです。
 僕が『銀河英雄伝説』にハマったのは、家族旅行で新幹線に乗るときにキヨスクに置いてあった本の中でいちばん読めそうだったのが『銀河英雄伝説外伝の2巻、ユリアンのイゼルローン日記』で、これにするか、と仕方なく手に取って読み始めたら、ヤン・ウェンリー提督にどっぷりハマってしまったのを思い出します。
 
 とまあ、あまりこの『劇場版 ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』と直接関係ない話ばかり書くのは、この映画については、良くも悪くも、あまり書くことがない、というか、好きな人は楽しめるし、興味がない人には刺さらないだろうな、という月並みの感想しかないから、でもあるんですよね。

 個人的には、「あっ、マキバオーとカスケード!」で言い尽くせてしまう感じであり、それはそれで、「外しようがない王道」だと思いました。
 レースシーンの迫力が売り、ということで、歓声とか音響、映像の美しさ、躍動感などは素晴らしく、『ウマ娘』が好きな人なら楽しめるはず。
 僕自身は、レースシーンに関しては、最後の直線での必殺技の出し合い勝負で、道中での駆け引きがあまり重視されておらず、長年の競馬愛好家としては、ちょっと物足りないところはありました。とはいえ、そういうリアルさが求められている映画ではない、ということも理解はできます。

 そして、フジキセキ弥生賞で怪我をして引退し、三冠レースに出走できなかったことと、その意思を継ぐものたちの物語として、あの頃、僕がいちばん競馬を楽しみにしていた、というか、仕事がつらくて、週末のG1レースが唯一の楽しみだった時代のことを思い出さずにはいられなかったのです。
 ジャングルポケット東京優駿を勝ったのは2001年で、まだネットで馬券を買うのがそんなに一般的ではない時代でもあり、場外馬券売り場に仕事の合間に通っていたのだよなあ。
 
 フジキセキは本当に強い馬で、弥生賞の勝ちっぷりを見て、どこまで強くなるんだろう、とワクワクし、皐月賞を前に引退してしまったことにがっかりしたんですよね。父親はあのサンデーサイレンスで、フジキセキの強さが、その後のサンデーサイレンス種牡馬としての成功につながりました。

 アグネスタキオンも、父サンデーサイレンス皐月賞の最後の直線でさらに後続を突き放す脚は本当にすごかった。強いとは思っていたけれど、ここまでとは、と脱帽したんですよね。
 この映画の主人公であるジャングルポケットは父トニービン皐月賞、ダービーとも2着のしぶといダンツフレームは父ブライアンズタイム。当時の「種牡馬御三家」揃い踏み。
 ああ、トニービン産駒は府中(東京競馬場)が得意なんだよなあ、ダービーはジャングルポケット本命で馬券取ったなあ、とか、同じ年のジャパンカップも、同じ東京2400mのダービーを勝ったから、3歳で菊花賞で結果が出なかったジャングルポケットを買い目に入れたなあ、とか、見ていると、僕が見てきた、あの時代の競馬のことを色々と思い出してしまいます。

 レース展開や結果も、当時の実際のレースをもとにしているんですよね、『ウマ娘』って。
 有馬記念で、他馬に徹底マークされ、囲まれた状態で中山の短い直線に入り、万事休すか、と僕も馬券を諦めた状況で、わずかなスペースをこじ開けて、傷つきながら先頭でゴールしたテイエムオペラオー。あのレースを見たときの「世紀末覇王」の強さと意地。そして、勝つことへの執念。
 
 なんかもう、眼前で繰り広げられる「ウマ娘」たちのドラマとは別に、僕は僕であの頃の自分の「競馬人生」を振り返っていたのです。
 この映画には、たしかに、競馬オヤジをそんな感傷に浸らせる力があった。

 僕は、このレースの結果を知っている。
 アグネスタキオンも、ジャングルポケットも、ダンツフレームも、これだけ強い馬だったのに、種牡馬としては成功せず、牡系は繋がりませんでした。
 ダンツフレームに至っては、屈腱炎で引退したあと、種牡馬としての需要がなく、地方で現役復帰しています。

 アグネスタキオンとか、なんで成功しなかったんだろうなあ。脚元の弱さが産駒にも出てしまったのだろうか。アグネスタキオンはその速さの代償なのか、ずっと脚に不安を抱えていて、なんとか皐月賞までもった、という状態だった、とも後日談として聞きました(どこまで事実かは分かりませんが)。
 「御三家」も、サンデーサイレンス系はディープインパクトキタサンブラックブラックタイド)を中心に繁栄を続けていますが、ブライアンズタイムトニービン系は種牡馬から消えようとしています(消えることがほぼ確実です)。あのテイエムオペラオーでさえ、種牡馬としては成功しなかった(種牡馬シンジケートが組まれず、オーナーの個人所有だった、という事情はあるとしても)。

 時代は流れ、すべては変わっていく。失われていくものもたくさんある。
 競馬は、人生とか一族の歴史を早送りで人に示しているのかもしれません。
 でも、あの一瞬、有馬記念で包囲網をぶち破って突き抜けたオペラオーやアグネスタキオンの閃光の記憶は、見た者の心に、ずっと残り続けている。

 上坂すみれさん(アグネスタキオン役)、こういう「狂気をはらんだ変な人(馬だけど)の役の第一人者だよなあ」などと思いつつ、最後のシーンは、ちょっとウルウルしてしまいました。僕の人生も最後の直線に入ってきたせいか、こういう「実際には起こらなかった夢」が、妙に沁みるみたいです。


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