- 作者: マシューハーテンステイン,Matthew Hertenstein,森嶋マリ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2014/10/25
- メディア: 単行本
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内容紹介
デポー大学で心理学部准教授をつとめるハーテンステイン先生は、人が将来を見抜く手がかりを研究する心理学者。彼は人の表情に隠された「手がかり」を確かめるために、卒業アルバムに着目した。20代から80代まで、650人以上の大学の卒業生の卒アル写真を集めて、笑顔の度合いを点数化。そして結婚生活がうまくいっているかどうかを尋ねると、あまり笑っていない人の離婚率は、満面の笑みの人の5倍にも達していた!
日本版のタイトルはこの驚くべき実験に由来している。ハーテンステイン先生は、この実験以外にも、人間の将来を見抜く「手がかり」についての学問的研究を集めて、一冊にまとめあげた。それがこの極めてユニークな本書だ。
たとえば、著名なゴットマン教授らの研究によれば、結婚が長続きする夫婦の会話では、否定的なことを1つ言ったら、肯定的なことが5つ言われる。しかしその割合が1対1になると、いずれ破局が訪れるという。さらに、カリフォルニア大学の心理学者エクマン教授は人のウソを見抜く方法を確立。1/12秒の瞬間の微表情、顔の筋肉、左右非対称な表情といった顔の情報と、声、話し方などの分析で、90%の精度でウソを見抜けるという。
他にも、フォーチュン500企業のCEOの顔写真だけで会社の業績がわかる、ヒップとウエストの比率だけでモテる女性がわかる、子供に選挙候補者の写真を見せればどちらが勝つかわかるなど、にわかに信じがたいような科学的事実が満載。
すべて、対照実験に基づいて統計的に得られた研究結果である。思いもよらぬところに隠された「手がかり」に気付かされ、ページをめくるたびに驚きと発見が連続する快作!
「人は見かけによらぬもの」という慣用句がありますが、2005年には『人は見た目が9割』という新書がベストセラーになりました。
「人を見かけだけで判断してはならない」「怪しい人に声をかけられたら、すぐに逃げるか、大声で助けを呼ぶように」というのを子供たちに教えながら、まあ、矛盾しているといえば、いるんだけど……と内心呟いてもみるのです。
この本、センセーショナルなタイトルなのですが、原題は”THE TELL"。
洋書のタイトルって、けっこうシンプルなものが多いですよね。
でも、『卒アル写真で将来はわかる』のほうが、少なくとも日本では売れそうだ……
このタイトルを見て、僕は「また、そんな与太話で売ろうとして、あざとい商売だな……」と思ったのですよ。
根拠もなく、著者の思い込みで、偏見を植え付けるような「血液型と性格」みたいな本なのではないか、と。
ところが、読んでみると、著者は心理学の専門家であり、紹介されている事例は、すべて、実験の結果に基づくものだったのです。
あまり見栄えが良くない僕としては、「うーむ……」と、いささか辛い気分には陥ってしまったのですけど。
オースティンのテキサス大学で行われた研究では、100人以上の学生を対象に、二枚ずつ写真撮影をおこなった。一枚目は好きなポーズを取ってもらって、全身の写真を撮った。いわゆる自然体な写真だ。二枚目は、気をつけの姿勢で立ち、無表情でカメラをまっすぐ見つめてもらった。いわゆる証明写真と言ってもいい。
次に、写真におさまった本人に自分の性格を分析してもらい、同時に、友人や家族などその人をよく知る人たちにも性格を分析してもらった。そうして、それらの分析の平均値を割りだして、写真に写った学生の性格分析表を作った。それから、学生の自然体写真と、証明写真を第三者に見せて、性格を予測してもらった。
次ページの表が示しているとおり、証明写真をもとにした外向性、自尊心、信仰心の度合いの予測は正確だった。さらに、自然体写真には性格を示す手がかりがより多く表われていて、外向性、親しみやすさ、新しいことへの挑戦、好感度、自尊心、孤独感、信仰心を正確に予測できた。第三者全体の予測の正確性の平均値に比べると、個々の予測の正確性はばらつきがあったが、結論として言えることはほぼ変わらない。学生のことを知らない人が写真を見ただけで予測した性格と、学生のことをよく知る人の性格分析はほぼ同じだった。
その判断基準について、「自然体の写真の中で性格を表しているもの」として、「エネルギッシュな外向型の人は、リラックスして、両腕を広げ、笑みを浮かべ、健康的でおしゃれでこざっぱりとした外見をしている。内向型の人はどことなく緊張していて、疲れているような姿勢で、ほとんど笑みを浮かべず、腕組みをして、不機嫌そうでどことなくむさくるしく見える」という実験に参加した人のコメントが紹介されています。
身も蓋もない話なのですが、たしかに、「見た目の印象と性格は、リンクしている」のです。
ああ、僕はこの「内向型」だな……
ちなみに著者は、「外見を変えることによって、周囲の人が受ける印象と、自分自身への評価をコントロールできるのではないか」とも仰っています。
「外見」とか「身だしなみ」って、大事なんだよねやっぱり……
めんどくさい、とか、どうせ僕なんか、という理由であまり考えないようにしていたのだけれど、気をつけられるところは、気をつけたほうがよさそうです。
また、「童顔」と「量刑」についての、こんな研究も紹介されています。
とはいえ、童顔で得をすることもある。童顔の人に金を騙し取られて、裁判所に訴えたとしても、多くの場合、敗訴することが研究で明らかになった。ボストンの少額裁判所(低い訴額のさほど複雑でない事件を扱う裁判所)での500件以上の事例で、研究者はさまざまな状況を加味しながら、男女にかかわらず原告と被告人の童顔度を精査した。ここでは、故意に犯罪を犯した被告人や、金銭的な支払いを怠っている被告人がかかわる約300件の裁判に焦点を当てることにする。”子供は素直”といった固定観念を童顔の被告人に重ね合わせることによって、大人びた顔の被告人より、童顔の被告人のほうが刑が軽くなるのではないかと研究者は予測した。
その結果を知ったら、誰もがぞっとするはずだ。ここで焦点を当てる300の裁判では、被告人が無実を訴えた場合、大人びた顔の被告人の92パーセントに有罪判決が下り、対して、童顔の被告人が有罪となったのはその半分以下の45パーセントだった。信じられないような結果だが、裁判に提出された証拠はもちろんのこと、被告人の顔が美形かどうかということや、年齢を考慮に入れても、その結果は変わらなかった。”童顔の力は、犯罪を裏づける証拠の力にも匹敵する"と研究者はまとめている。
本当かよ……と言いたくなる話なのですが、少なくともアメリカで行われた研究では「事実」なのです。
こういうのを読むと、ニュースなどで「容疑者の顔」として紹介される写真のイメージって、けっこう大きな影響がありそうです。
高齢者から借りてきた写真を眺めるのは、意外にも楽しく、しかも、驚いたことに、写真は離婚を予測していた。何人かの人は幼少時代から青年期までの一連の写真を貸してくれた。のちに離婚した人に比べて、ひとりの相手と一生添い遂げた人は、写真の中で自然な明るい笑みを浮かべていることが多かった。そういう人たちの笑顔は、頬を持ち上げる筋肉だけでなく、目のまわりの筋肉――眼輪筋――も完全に収縮していた。その筋肉が収縮すると、目のまわりにしわが寄り、目尻にはカラスの足跡ができる。いわゆる”デュシェンヌの笑い”と呼ばれるものだ。そんなふうに笑っている人は結婚が長続きする確率が高い。離婚した人たちの笑顔は、目のまわりの筋肉が収縮していない傾向にある。キャビンアテンダント、あるいは、パーティーで無理してあなたと話している人の作り笑いに近い。
この実験にはさらに続きがあった。大学の卒業アルバムの写真を何百枚と検証して、そこに写っている人がどれほど本気で笑っているかを確かめてから、20代前半から80代後半までの卒業生に結婚が破綻したかどうかを尋ねたのだ。卒業アルバムの写真で満面の笑みを浮かべていた人に比べて、さほど笑っていなかった人の離婚率は5倍にのぼった。さあ、いまごろ、あなたは自分の昔の写真をかき集めているのではないだろうか?
僕が結婚する前に教えてくれよ……
まあ、「卒業アルバムで笑っていないから、その相手とは結婚しない」という人も、あんまりいないでしょうけどね。
むしろ、僕のほうが「ダメ出し」されそうな話だし。
その他にも、さまざなま事例が紹介されているのですが、これを読んでいると、「第一印象というのは、かなり当たっている」というのと、「人は自分で意識しているよりもずっと、他者を『見た目』で判断している」ということがわかります。
「人を見た目で判断するな」とは言うけれど、「見た目で判断する」というのは、けっこう合理的な「戦略」なんですね。
だからこそ、「人を騙すために『見た目』を利用する人が多い」ということも。