- 作者: 吉田豪
- 出版社/メーカー: 日本文芸社
- 発売日: 2014/12/19
- メディア: 新書
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内容紹介
「週刊漫画ゴラク」で絶賛連載中の人気コラムがついに単行本化!
日本随一のプロインタビュアーによる、相手からいかに面白い話を引き出すテクニックや、
これまで接したアイドルから政治家まで、各界の著名人との痛快エピソード満載!!
巻末には『聞く力』著者の阿川佐和子さんとの特別対談・人間関係がうまくゆく魔法の潤滑剤
"「聞く力」をいまこそ養おう" を収録!
AKB48・指原莉乃に前田敦子、大仁田厚、橋本真也、内藤大助、ターザン山本、
小林旭、三國連太郎、樹木希林、太田光代、明石家さんま、森喜朗元首相まで
取材時のエピソードを通じて語られる対人関係・人間力の磨き方のヒント。
プロインタビュアー・吉田豪さん。
僕は吉田さんのインタビューが大好きで、インタビュー集もずっと読んでいます。
この本は、吉田さんが、単行本化前提で『週刊漫画ゴラク』に連載されていたコラムをまとめたものなのですが、実際に吉田さんが行ってきたインタビューでの面白いエピソードを紹介しながら、仕事の勘所みたいなものを見せていく、という内容なんですよね。
読み終えると、「これでインタビューがうまくなる!」というより、「面白エピソード」ばかり印象に残っているのも事実なんですが。
「あとがき」で、吉田さん自身も、
もちろん、これを読んだ人の「人の話を聞くための実用書じゃなくて、インタビュー面白エピソード集じゃん!」という意見も、黒社会テイストで潰していきます! 嘘です! 『聞く力』も面白エピソード集だったから問題ないはずです!
なんて仰っていることですし。
たしかに、阿川佐和子さんの『聞く力』が売れたのも、「聞き上手になれる」というよりは、「有名人の面白いエピソードがたくさん紹介されていたから」だったのではないかな。
吉田さんは、阿川佐和子さんと直接対談もされており、巻末にはその対談も収録されています。
(内容的には、斬り結んでいるというよりは、お互いに距離感を探っているうちに終わってしまっている感じなんですけど。吉田豪さん遅刻してるし!)
吉田さんの阿川さん評もこの本の中に出てくるんですよね。
ボクは相手を調べ尽くした上で取材するけれど、彼女はデーモン小暮を取材して「ヘヴィメタルってどういう音楽なんですか?」と聞いたりする。これは何かというと、いい意味で「女の子」的なセンスを持ち続けているということである。
ボクと彼女の共通点はというと、独身で子供もいなくて、同性愛的な噂も流れていること。ボクは新宿二丁目在住だし、彼女はおすぎとピーコと仲良しで、檀ふみと親友二十周年記念に指輪交換しようとしたけれどレズっぽすぎるので断念したこともあるぐらいなので、これだと男性とも女性とも中性とも適度な距離感で接することが出来るのだ。そしてボク同様、結婚という通過儀礼を済ませていないからこそ、普通なら聞けないような基本的すぎる質問も「女の子」スタイルによって平気で出来るんじゃないか、と、
そんな彼女の無邪気さゆえの恐ろしさを痛感させられたのが、『週刊文春』誌上でO倉氏を取材していたときだった。
なんと彼女は「O倉さんはカツラをどれぐらい持ってるんですか?」とド直球で無邪気に質問! そこからは「別に隠してもいないし、皆知ってますよ」とは言いつつも、文章を読むだけでも明らかに空気が緊迫したことが伝わる展開になり、取材後記はもはや謝罪文に近い代物になっていた。
ボクもO倉さんを取材したことはあるけれど、そういうネタには一切踏み込ませないオーラが漂っていたから、失礼なことをズバズバ聞くと思われがちなボクでさえカツラの話は断念したぐらいなのに、そこへ無邪気に踏み込めるのは阿川佐和子という人なのである。
阿川佐和子恐るべし。
阿川さんの場合は、天性のキャラクターみたいなものがあって、「この人に聞かれたら、失礼なことでも、あんまり腹が立たないんだろうな」とは思うんですよ。
たしかに「女の子」的なところを、意識的になのか、無意識的になのか、うまく活かしているのです。
吉田豪さんが出演されていた『情熱大陸』を観たのですが、金髪で強面の、道ですれ違ったら目を逸らしてしまいそうな外見の吉田さんが、インタビューの際には、そんなに大きな声でもなく、訥々と話していたのがすごく印象に残りました。
僕のイメージでは、吉田豪さんって、ハイテンションな喋りで相手を乗せていくようなインタビューをする人、だったので。
ただ、吉田さんと阿川さんには、共通しているところもあるな、と感じたのです。
吉田さんは、最初のコラムで、インタビュー術について、
ただ単に、興味がある人に会いに行って、興味があることを聞いているのが、そのまま仕事になっているだけのことである。
正直、それほど興味のない取材をやることになったとしても、その相手の単著なりブログなり雑誌記事なりを読み漁れば、どこか必ず好きになれるポイントが出てくるもの。そんな「よかった探し」(ポリアンナ)の精神でボクは今まで仕事をしてきたのだ。
と書かれています。
これを読んで、僕は阿川佐和子さんの『聞く力』の冒頭に出てきた、この話を思いだしたのです。
さらに話は変わりますが、私(阿川佐和子さん)は十年ほど前から、農林水産省などが主催する「聞き書き甲子園」という仕事を続けています。これは、全国の高校生百人がそれぞれ、森で働く名人百人のところを一人で訪ね、「聞き書き」をしてレポートをまとめるという活動です。森の名人とは、木こり、造林、炭焼き、枝打ち、椎茸作りなどに従事する職人のことですが、一昨年からは範囲を広げて、川や海の名人にも加わっていただくことになりました。
さてそこで私が何をしているかというと、「これから森の名人のところへインタビューに出かけようといている高校生たちに、インタビューの心得のような話をしてやってください」
そんな依頼を受けて、簡単なレクチャーをすることになったというわけです。実際のところ、高校生に課されたノルマはけっこう過酷です。もしかすると私の対談仕事より大変かもしれません。まず、見ず知らずの名人(ほとんどが60歳以上の高齢者)に電話をし、訪問する日を決め、当日は電車やバスを乗り継いで、森の奥へ一人で出かけ、「初めまして」と会った瞬間からテープを回してインタビューを始めるのです。助けてくれる大人はいません。ときに方言がきつくて、何を話しているのか聞き取れないこともあります。それでも高校生は諦めず、真摯に名人の人生や仕事について、聞き続けるのです。
インタビューを終えると自宅へ戻って、自分でテープ起こし(これが大変だったと、どの高校生も泣いていました)をし、要点を拾い上げ、名人の一人語りのかたちでレポートをまとめます。
半年後、百作品が集まったところで、私は高校生たちと再会します。そのとき、数点の優秀作品を発表し、その対象となった森の名人と、取材をした高校生を舞台にあげて、苦労話を伺います。
「いかがでしたか?」
マイクを向けると、レポートをまとめた高校生の話。
「最初、名人に森の中へつれていってもらったんですが、このおじいさん、猿か、と思いました。高い木を縄一本でスルスルって、すごいスピードで登っていくんです」
まだ恥じらいを残した小声で応えます。すると今度は名人が、
「いやあ、わしの話、聞きにきたっていうんだども、緊張しちゃって、なあんも質問しねっからさ。こっちが心配になってああだこうだと話してるうちに、な」
レポーターである高校生に向ける名人の目は、まるで実のおじいさんのような優しさに満ちています。
これは面白い、と私は思いました。この企画そのものの意図は、もはや跡継ぎもいなくなり、消滅するいっぽうの森の仕事を、若い高校生に知らしめることでした。少なくとも私はそう理解していたつもりです。ところが蓋を開けてみたら、その経験をして「大変だったけれど面白かった」と応える高校生の横で、嬉々とした表情を浮かべているのは、高齢の名人たちだったのです。
「最初、こんな孫みたいな若い高校生に、何を話せばいいんだか、何の役に立つんだか、わかんねかったけど、会って質問されているうちに、うれしくなっちゃってね。だって、家族も知り合いも、誰も自分の仕事のことなんかに興味持ってくれないからね。こんなに自分の話、長くしたことねえもんな」
もはや「跡継ぎなどいらん! この仕事は自分でおしまい!」と豪語する名人たちが、「聞いてくれて、ありがとう」と高校生に感謝を述べている姿を見て、私は涙が出てきました。
もちろん、「テクニック」は、無いよりは有ったほうが良いと思うんですよ。
でも、「他人の話を聞くためにいちばん大切なこと」って、「その人の話をぜひ聞きたいと切実に思っていること」「その人や、話を『面白い』と感じること」ではないかなあ。
相手が喜んでくれていると、話すほうだって、サービスしたくなるし。
プロインタビュアーとしての吉田豪さんの「下準備」のすごさには定評があるのですが、それは「あなたに興味を持っています」「あなたの話を聞きたいです」ということの証明なんですよね。
吉田豪さんのすごさというのは、「人間を面白がることができる力、好奇心の強さ」なのではないかと、この本を読んで、あらためて感じました。
ルビー・モレノの取材のときは、約束の時間に、彼女の所属事務所である稲川素子事務所に行ったものの、彼女が来ないどころか連絡すらも取れなかった。
彼女は昔から仕事のすっぽかしが多く、失踪事件として騒がれた件もどうやらすっぽかしが原因だったみたいなので、芸能界に復帰しても相変わらずだなあと思って焦らずに待った。そして、ようやく電話がつながって稲川素子社長が「今日の午後4時半に来るって言ったのは自分でしょ? 自分でお願いしておいて、もう皆さんお見えになってるわよ」と言ったら、「今日はウチのパパが出張するのに成田まで送ったから行けない」とあっさり返答。「どうして?」「化粧してない」「こっちに来て化粧すればいいの! 今年は仕事するからって言うから、こうしてまた一生懸命スケジュール入れようと思ったのに、またすっぽかしじゃない」「すっぽかしてないよ! だからいま行けないって電話をかけてる。昔は黙ってすっぽかしていなくなったのが、行けないっていうのを言ってるからすっぽかしじゃない」なんて言い合いを電話で繰り広げていたので、しょうがないから急遽、稲川素子社長をインタビューすることを編集者に提案。ルビー・モレノをマネージメントする苦労について語ってもらったら抜群に面白かったんだが、要はそういうことなのだ。
タレントと取材する側との間で板挟みになっているだけのマネージャーに文句を言ったところで何にもならないし、記事として面白くなるのであればどうなったっていいんだから、取材相手が来なかったら来なかったでなんとかすればいいだけのことなのである。
転んでもタダでは起きないというか、吉田豪さんって、すごいな、と。
これを読んで、僕も「稲川素子社長のインタビュー、読んでみたい!」と思いました。
あらかじめ下準備はしているけれども、「段取り」にこだわってばかりでもない。
この本には吉田豪さんのインタビューのエッセンスが収録されているのですが、興味を持たれた方は、ぜひ、吉田さんのインタビュー本を手に取っていただきたいのです。
吉田さんのインタビューを読んでいると、世の中には、周囲が勝手に「タブー」だと決めつけて「自主規制」してしまっていることって、たくさんあるんだな、と思い知らされますよ。
人って、けっこう「喋りたい」のではないかなあ。
ちゃんと聞いてくれる人がいれば、ね。
- 作者: 吉田豪
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/05/28
- メディア: 文庫
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