コンテンツの秘密―ぼくがジブリで考えたこと (NHK出版新書 458)
- 作者: 川上量生
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2015/04/10
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと (NHK出版新書)
- 作者: 川上量生
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2015/04/11
- メディア: Kindle版
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内容紹介
ジブリ哲学がいま初めて明かされる。
メディア界の若きリーダー、初の新書!
クリエイティブとはなにか?
オリジナリティとはなにか?
コンテンツの情報量とはなんのことか?
宮崎駿や高畑勲、庵野秀明など、トップクリエイターたちはどのようにコンテンツをつくりあげているのか?
コンテンツの情報量の仕組み、マンネリを避ける方法、「高そうに見せる」手法など、ヒットコンテンツの背景にある発想のありかたを鋭く読み解く。
ジブリ見習いプロデューサーにしてメディア界の若きリーダー、初のコンテンツ論!
[内容]
第1章 コンテンツの情報量とはなにか?
第2章 クリエイターはなにをアウトプットしているのか?
第3章 コンテンツのパターンとはなにか?
第4章 オリジナリティとはなにか?
※電子版では一部の図版がカラー図版になっています。
スタジオジブリの鈴木敏夫さんに「弟子入り」していた川上量生さんが、ジブリでさまざまなクリエーターたちと接して考えた「コンテンツとは何か」ということ。
この本を依頼されたとき、川上さんは「本にするのなら、いろいろちゃんと調べて書かなければいけないから、ちょっと難しいだろうな」と思ったそうです。
そこで、「資料的な正確さを期するよりも、現場で接したクリエーターたちのナマの声を紹介するような形で書いていく」ことにしたのが、この新書です。
この本のなかに「情報量」という言葉が出てきます。
あまり耳慣れないのですが、ジブリの制作の現場では、「このシーンは情報量が少ないので、やり直したほうがいい」など、ふつうに使われている言葉だそうです。
実写は情報量が多くて、子供には処理しきれず、アニメの場合は、画面内の情報が実写よりは少ないから、観やすくなる。ただし、最近の傾向としては、アニメのなかでも、ジブリ作品のように背景をしっかり描き込んだ「情報量が比較的多いもの」が増えてきているのです。
それは「子供のアニメ離れ」にもつながっているのだとか。
画面内の情報量をどう制御していくか、というのが、アニメをつくる人たちの腕の見せ所なのです。
そもそも人間の脳はアニメをどのように認識しているのでしょうか?
「宮さんはね、好きなものを大きく描くんだよ。宮さんは飛行機が好きだから、宮さんの描く飛行機は現実にある飛行機よりも大きくなる」
そう説明するのは鈴木さんです。
たとえば『風立ちぬ』に出てくる飛行機は、現実の飛行機の縮尺よりもかなり大きく描かれているのだそうです。
「宮さんのなかでは飛行機はこの大きさなんですよ。こうあってほしいという大きさで描いている。でも、そのほうが見るほうも気持ちいいんですよ」
実際よりも大きく描くのは、一般的には誇張とかデフォルメとか言われていますが、それともちょっと違うようなのです。「宮さんは見ていて気持ちいい絵を描く天才だ」と鈴木さんは言います。誇張しておおげさに描いているのではなく、脳にとってはむしろ自然な大きさで描いているのだと言うのです。だから見ていて気持ちいい。
この鈴木さんの説を、別の場所で、庵野(秀明)監督に対して話してみました。そうすると、庵野監督の感想がまたおもしろかったのです。
「じゃあ、なぜ宮さんは脳に気持ちいい形を正確に描けるのか? 宮さんはおそらく目が見たとおりをそのまま描いているだけだと思います。つまり脳が認識して、受け取った情報のまま、紙に写しているので、それが結果的に脳が理解しやすい形になるというのが宮崎駿の秘密だと思います」
これを無意識にやっているのが宮崎駿のすごさなのだ、と。
写真で見たときの「客観的なサイズ」と、自分の脳が認識している「実感としての大きさ」は違っていて、その「実感」をそのまま絵にできるのが、宮崎駿さん、ということなんですね。
いやしかし、こういうのって、「自分の感覚」をそのまま形にするのって、できそうでなかなかできることじゃない。
どうしても、「この大きさは、リアルじゃないのでは?」とか、考えてしまいそうですし、あまりにも現実離れしてしまうと、単に「アンバランスな絵」にしかならないはずです。
この新書では、宮崎駿さんの「すごさ」が、こんなふうに、わかりやすく「言語化」されているんですよね。
川上さんは、そういう情報を整理・分析して言葉にするのが、ものすごく上手い。
そして、ニコニコ動画、KADOKAWAという「コンテンツの受け皿」を運営している立場としての川上さんの「コンテンツの現状認識」も書かれています。
UCG(User Generated Contents:ユーザー自身がつくったコンテンツ)は、コンテンツの量を増やし、多様性をもたらすのではないか、と考えられていたのですが、川上さんの実感は、違っているのです。
実は、ドワンゴのニコニコ動画もUCGサイトのひとつです。
ユーザーが自由にコンテンツをつくるUGCサイトは、世間の予想や期待とは逆に、コンテンツの実質的な多様性を減らす作用があるというのがぼくの持論です。
コンテンツとはほうっておくとワンパターンになるのです。だから、ユーザーが自由にコンテンツをつくるUGCサイトはむしろワンパターンになりやすいのです。
川上さんは、その実例として『小説家になろう』というサイトの人気上位作品が、同じような「異世界転生モノ」ばかりになっていることを挙げています。
傍からみると、「こんな同じものばっかりじゃ、面白くない」し、「これなら、違った設定で勝負したほうが目立つのでは?」と思うのですが、そうもいかない。
「競争」となると、「確実に売れるもの」に一気に偏ってしまい、それが消費され、飽きられる、ということの繰り返し。
どうも「自由競争」が激化しすぎるというのは、コンテンツの多様性とか長期的な展望からすれば、好ましくないみたいです。
「同じようなものばっかり」っていうのは僕も感じているのですが、その一方で、コンテンツを消費する側としては、「同じようなもののほうが読みやすいし、同じようなもののなかの『ちょっとした違いや優劣』を評論家チックに語りたいという欲求」みたいなものもあるのだよなあ。
最近のミステリはつまらん!なんて言いながら、同じようなミステリばかり選んで読んでいる人って、けっこういますよね。
読んでいると、宮崎駿さん、鈴木敏夫さん、高畑勲さんといったジブリの柱となる人のほかに、押井守さんやビーイングの創業者・長戸大幸さんなども登場してきます。
長戸さんによると、ボーカルの才能でいちばん重要な要素はなにかというと、歌の上手さというか、魅力的な声質かどうかとか、いろいろあるけど、大事なのは歌詞がはっきりと聴き取りやすい声質かどうかなのだそうです。声質は天性の才能に近いもので、どんなに練習しても簡単には変えられない、どんなに歌が上手くても声が聴き取りにくいとだめなんだ、というのです。
ようするに、いくら心に響く歌詞をつくっても聞こえなければはじまらないという当たり前の話です。
この本を読むと、観る側が「わかっている」つもりで語っている「コンテンツ」と、それをつくっている側が意識していることには、大きなギャップがあるのだな、と思い知らされるのです。
鈴木敏夫さんが以前、こんなことを話してくれたことがあります。
「なぜ『となりのトトロ』がヒットしたのか、昭和の原風景とか、現代人の自然に対する回帰の欲望だとか、いろいろ難しいことを言う人はたくさんいる。でも、それは全部、的外れだと思う。トトロが人気になったのは、トトロのお腹がフワフワしていて、なんだか触るとへこんだりして気持ちよさそうだったからというのが本当の理由に決まっているでしょう」
宮崎駿さんのなにがすごいかと言うと、そういう人間の生理的な感覚をコンテンツとして再現できてしまうところです。映像をとおして人間の本能に訴えかけてくるのです。
この新書のなかで、「ストーリーか、表現か?」という問いかけが出てきます。
映画をつくるとき、何をいちばん重視するかは人によって違います。鈴木敏夫プロデューサーは、よく会話のなかで「ストーリーか表現か」とひとりごとのように言うことがあります。
「すべての大監督は最終的に表現に行った」というのは、鈴木さんがよく使う言い回しです。
映画を見て、話のつじつまが合わないと文句を言う人がよくいるけれど、話のつじつまなんか合ってなくたっていいんだそうです。
「観客は映画のなにを見ているのか? という問題なんですよ」
川上さんは「つじつまが合っていない映画は嫌いで、ストーリーがおもしろいほうが良い派」だそうです。
僕も基本的にそうなんですよね。
ストーリーの矛盾とかが、けっこう気になってしまう。
鈴木敏夫さんや宮崎駿さんは、「表現派」なのだとか。
もちろん、ストーリーはどうでも良い、と考えているわけではないのでしょうけど、「すごい映像を見せるために、ストーリーをつくっているのではないか」と川上さんは仰っています。
そして、「ストーリーよりも表現重視」だからこそ、ジブリの作品には、リピーターが多いのです。
ストーリーだけが売りであれば、一度見て話を理解できれば、もう一度観ようとは思わないですしね。
川上さんの「コンテンツ論」、興味を持たれたかたは、ぜひ、読んでみてください。
ジブリ作品の観かたが、少し、変わるかもしれませんよ。