琥珀色の戯言

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【読書感想】下流中年 一億総貧困化の行方 ☆☆☆☆


下流中年 一億総貧困化の行方 (SB新書)

下流中年 一億総貧困化の行方 (SB新書)


Kindle版もあります。

下流中年 一億総貧困化の行方 (SB新書)

下流中年 一億総貧困化の行方 (SB新書)

内容(「BOOK」データベースより)
「下流老人」が話題になる昨今だが、実は高齢者の貧困率はここ数年改善されてきている。むしろ現役世代の貧困率が悪化してきており、それは「中年フリーター」など不本意にも「非正規」を続けざるを得なかった就職氷河期世代の受難をも示している。景気が悪化したらクビという不安定な雇用状況でも何とかしのいできたロスジェネ世代。「生きづらさ」を抱えた彼らは今後どこへ向かえばいいのか?


 最近の新書を読んでいると、「子どもの貧困」に「下流老人」と、さまざまな世代の貧困が採りあげられているのですが、今度は「下流中年」か……
 結局、みんな「貧困」なんだな……


 「下流老人」として、高齢者の貧困が話題になっているのですが、この新書の著者たちによると、高齢者の貧困は、最悪の時期からは、少し改善がみられてきているそうです。

 また、昨今の『老後破産』(新潮社)や『下流老人』の(朝日新書)のベストセラー化によって、「下流老人」という現象にのみ世間の注目が集まるのもバランスが悪くはないだろうか、というのも、首都大学東京の阿部彩教授が指摘するように、高齢者の貧困率は、ここ数年改善されてきているからである。
 もちろん、低年金者や無年金者の困窮した実態は確かにあり、困っている高齢者がいることは否定しないが、一方で、月40万円程にもなる年金を受け取っている高齢者もいることは確かで、高齢者間の経済格差が非常に大きいこと、そして全体として高齢者の貧困が改善傾向にあることはもっと共有される「ファクト」ではないだろうか。


 その一方で、30〜49歳の貧困率、50〜64歳の貧困率は悪化してきており、現役世代のほうが経済的につらい状況になりつつある、とこの本の冒頭で「学芸書籍編集部」は記しています。


 そうか、「貧困老人」は、少し改善されてきているのか……
 その理由のひとつとして、いわゆる「団塊世代」が年金をもらえる年齢になったから、というのが紹介されているのですが、正直なところ、「高齢者でも40万円の年金をもらっている人がいる」という恵まれた例をあげて、「高齢者ばかり贔屓している」ように印象づけるのもどうか、とは思うんですけどね。
 なんとなく、それぞれの研究者が「自分が専門としている世代が、いちばん『貧困』なんだ!」と主張しあっているようにも感じられるのです。
 

 ただ、「世代間格差」みたいなものは、確実に存在してはいるようです。
 第一章での雨宮処凛さんと萱野稔人さんの対談より。

――対談序盤から絶望的な話が続いていますが、団塊ジュニア世代とそれより若い世代を比較した場合、後者には比較的マシな面もあったのでしょうか?


萱野稔人基本的には何も変わってはいないと思います。非正規雇用など働き方の問題にしても、精神面を含めた生きづらさ全般の問題としても、ほとんど同じだと思います。ただ、私は大学で学生たちが毎年入れ替わるのを見ているからよくわかるんですが、就職がラクな年とキツい年の差って、すごく激しいんですよ。
 1998年から2000年頃にかけては、100社以上の採用試験を受けて「内定ゼロ」というのも珍しくないほどの超就職氷河期でした。しかしそれ以降になると、嘘のように簡単に採用される年もありました。リーマン・ショックの前年(2007年)とか、あるいは2014年、2015年とか。2015年なんてまさに人手不足で、特に新卒は売り手市場になっています。


雨宮処凛つまり「何年に生まれたか」という要素だけで、人生がものすごく左右されてしまう、そういう状況に若者は晒され続けているということですね。


萱野:あと8年前は私自身もそれほど自覚していませんでしたが、私たち団塊ジュニアって特異な時代を経験した最初の世代なんですよね。
 どういうことかというと、私たちが学生だった頃って、まだ「フリーター」という言葉は明るい、ややもすれはカッコいいイメージさえ持たれていた。「やりたくもない仕事に縛られず、自分の好きなことをやりながら自己実現を目指してます!」みたいなね。


 厳密な意味での「団塊ジュニア世代」というのは、1971年から74年生まれなのだそうです。
 僕はまさにこの世代で、萱野さんは1970年生まれだそうですから、この「フリーター」に対するポジティブなイメージというのも記憶にあるんですよね。
 僕の親世代の大人たちは「定職につかないなんて」と眉をひそめていたけれど、「フリーター」には、「会社にしばられないて、自由に生きる、夢を追っていく」人たち、だったんですよ。
 今は「夢は正社員」なんて言われている時代なのですから、当時は夢があったと言うべきなのか、まだ余裕があったのか……


 そうやって「夢を追った」はずのいまの中年世代は、いつの間にかハシゴを外されて、行き場を失ってしまいました。
 ちょっとコミュニケーション能力に問題をかかえていたり、自分を高めるために大学院に行ったはずなのに、就職先がなく、奨学金という借金を抱えたまま、高学歴ワーキングプアになってしまったり……
 この新書の後半には、そんな「下流中年」12人が紹介されています。
 まあでも、率直に言うと、この人は、ちょっと付き合いづらそうだなあ、と思うような人もいるんですよね。
 だから、サポートされなくてもいい、というわけじゃないし、何かひとつの挫折で、社会から隔離されてしまい、本人も自信をなくしてひきこもり、「職歴」が途切れてしまっていることで、再就職もうまくいかず……というのを読むと、僕だってそうならないとは限らない、という恐怖も感じます。

 37歳になるまで幸一さんは、結婚式というものに一度も行ったことがない。ひきこもっているうちに、友人がまったくいなくなったからだ。

 うーむ、そういう人生もありうるのか……と正直驚きました。
 「普通」に生活していれば、ぜひ出たい、というものから、義理だけど……というものまで、時期によっては毎週末つぶれてしまうくらい、呼ばれるものだと思っていたよ……
 そういう「つながり」を持たない人もいるのです。

 バブル崩壊後の「失われた20年」に大量に生み出された、正規社員に就けない人々。その中核をなすと言われるのが、1970年以降に生まれた「就職氷河期世代」である。
 厚労省が2015年11月に公表した「平成26年就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、全労働者に占める非正規労働者の割合は約40%に上る。
 また総務省労働力調査をベースに厚労省が作成した資料「非正規雇用の現状と課題」によると、バブル期に約2割だった非正規労働者の割合は、バブル崩壊と1996年の派遣法改正を期に急増していることがわかる。
 中でも、35〜54歳は働き盛りであるにもかかわらず、非正規労働者が年々増加を続け、2015年には780万人に上っている。
 一方で、非正規労働者は78.2%が月収20万円未満。10万円未満も36.7%に上るなど、とても日々生活していけるような水準ではない。社会保険制度の適用割合も、雇用保険67.7%、健康保険54.7%、厚生年金52%、賞与支給31%、退職金9.6%などと深刻だ。


「……これって、死ねって言われているようなものですよね?」
 最近取材した、40歳代のシングルマザーはそう漏らした。睡眠4時間でパートを掛け持ちして働き、辛うじて生活を維持し、子どもを育てているという人だ。

 子ども、老人、そして中年。
 一億総貧困社会、日本。
 ここまでやって稼いだはずのお金は、いったいどこに行っているのだろう。
 いわゆる「富裕層」でも、自家用ジェットを乗り回しているような大富豪はそんなにいないような気がするし。


下流老人 一億総老後崩壊の衝撃 (朝日新書)

下流老人 一億総老後崩壊の衝撃 (朝日新書)

下流老人 一億総老後崩壊の衝撃 (朝日新書)

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