貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち (講談社現代新書)
- 作者: 藤田孝典
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/03/16
- メディア: 新書
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貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち (講談社現代新書)
- 作者: 藤田孝典
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/03/25
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内容紹介
昨年『下流老人』が20万部超えのベストセラーとなった著者の新書第2弾!今回は若者の貧困に着目し、「一億総貧困社会」をさらに深く読み解く。これまで、若者は弱者だとは認められず、社会福祉の対象者として扱われなかった。本書では、所持金13円で野宿していた栄養失調状態の20代男性、生活保護を受けて生きる30代女性、脱法ハウスで暮らさざるを得なくなった20代男性などの事例から、若者の貧困を分析する。
「若者たちの生活が苦しくなっている」というのは、本やテレビ番組でも少なからず伝えられています。
しかしながら、彼らの親世代であり、大学に入った時期にバブルが崩壊してしまった僕には、彼らの現実的な苦しさ、というのが、いまひとつ実感できないのです。
僕の周りの若者は医療関係者が多いということもあるのかもしれませんが、若者のつらさに対して、年長者は「ああ、自分も通った道だからな、お前らも頑張れよ」みたいに「自分基準」かつ「上から目線」で判断しがちなんですよね。
若いうちは、ちょっとくらいキツい思いをしたほうがいいんだ、と公言する人も少なくありません。
この新書を読むと、現代の若者たちが置かれている「苦しさ」というのは、どうも、僕が若かった20年前とは、違うものらしいということがわかります。
僕たちの上の世代、団塊の世代といわれる人たちは、とりあえず「この流れに乗って、『普通に』仕事をしていれば、マイホームに住んで、老後も年金で暮らせる」という希望を持っていました。
ところが、今の若者たちは、現在の生活の苦しさとともに、将来にも明るい展望を見出せないでいるのです。
1990年代のバブル崩壊以降、就職氷河期世代の若者を総称して、「ロスト・ジェネレーション」と呼ぶことがあった。本人の意思とは関係なく、景気動向などによって将来が左右され、旧来の雇用形態で働ける環境が失われた世代が注目を集めたのである。その後も、雇用の不安定化は拡大し続けている。
そして現在の若者たちはもはや、ロスト・ジェネレーションのような一時的な就職難や一過性の困難に置かれているのではない。雇用環境の激変を一因とする、一生涯の貧困が宿命づけられている。
若者たちは何らかの政策や支援環境の再編がない限り、ワーキングプア(働いてもなお貧困状態に置かれた人たち)から抜け出せないことも増えてきている。
ここでわたしは、現代の若者たちは一過性の困難に直面しているばかりではなく、その後も続く生活の様々な困難さや貧困を抱え続けてしまっている世代であると指摘したい。彼らは自力ではもはや避けようがない、日本社会から強いられた貧困に直面している。日本史上でも類を観ない、特異な世代である。
だからこそわたしは、彼らの世代を、「貧困世代」(プア・ジェネレーション)と総称することにした。この言葉とともに若者の貧困に迫ってみたい。
著者は、貧困世代を「概ね10代から30代(15〜39歳)」と想定しており、著者自身もその世代に含まれるとしています。
著者は、定時制高校で働く17歳の女子高校生・林さん(仮名)の話を紹介しています。
林さんは中学校卒業と同時に定時制高校に進学し、友人に紹介された工場でずっとアルバイトを続けているそうです。
別居している母親からは、いまでも何度も生活費を無心される、とのことでした。
林さんが住んでいる現在のワンルームマンションは、工場の社長名義で借りている。マンションの連帯保証人は、勤め先の先輩になってもらった。林さんは未成年であるため、本人名義で賃貸契約ができない。いくつも不動産屋には断られたという。
「家族に連帯保証人をお願いすると金銭をタカられるので、工場で働く親しい先輩になってもらいました。だから家賃滞納とかできないんですよ。家賃は月額5万円。先月は給料が9万円だったので、家賃払うと生活が無理なんです。
その生活費が足りないために、高校の教諭に相談をしたところ、わたしを紹介されて相談に来られたのだという。何とか高校通学を続けて卒業したいと語る彼女は、十分な食事もとれていないため、かなり痩せている。
「友達はダイエットに励んでいるけど、わたしは日常がダイエットですから(笑)」と語るくらい、食事は粗雑だ。いまでも忘れられないのは、相談を受けた日に聞いた食事の内容である。
「今朝は何を食べたの?」という問いに対し、「今朝というか、最近は毎日カレー。1週間まとめて作って、お腹が空いたときにチビチビ食べる。今日でカレー3日目」と彼女は答えた。他にも雑炊、鍋もの、煮込みうどんなどを大量に作り置きして、なくなるまで毎日少しずつ食べ続けることで生活しているのだ。
最低賃金で働いて生活しながら、高校で勉強することは大変である。さらに最近は十分な食事もとれていないので、体調不良が続き、仕事も満足にできていない。
だから生活保護申請をするために、わたしも福祉課へ同行することとなった。今は生活費で足りない部分だけを生活保護費で支給してもらう手続きを開始している。当然ながら、彼女は自分が生活保護制度の保護要件を満たし、支援が受けられることは知らなかった。
彼女と接していてわたしが最も衝撃を受けたのは、次のような言葉だった。
「早く18歳になりたい。風俗店で働けるようになるから、お金に困ることもなくなるでしょ? 風俗店でお金を稼いだら、専門学校に行けるかもしれないし」
希望は風俗店で働くこと――。
昼間は工場で働き、定時制の高校に通っている女子高生は、それでも生活が成り立たず、自分が生活保護を受けられることも知らなかった。
そして、風俗店で働くことでしか、現状を変えられないと悟っている。
彼女に「若い頃の苦労は、買ってでもしろ、だよ」なんて言える大人がいるのだろうか?
2016年1月1日付朝日新聞のオピニオン欄で、わたしは「非正規雇用、年金問題などで将来に不安を抱える若い世代には、結婚して子どもを産むという当たり前のことさえ、ぜいたくになってしまっています」と述べた。それは何も誇張ではない。
少子化問題を貧困問題とセットで考えることなく、結婚・出産しない若い世代だけのせいにしてしまう中高年の方々が、残念ながらまだ多いように思う。実際、2016年1月には、千葉県浦安市の成人式で、市長が「人口減少のままで今の日本の社会は成り立たない。若い皆さんにおおいに期待をしたい」と発言した。しかし、期待をする以前に大事なことは、若者たちの現状に対する、豊かな想像力だ。
大人たちには、子どもを産みたくても産んで育てるほどのゆとりがない若者たちの姿が見えていない。子育てはぜいたくというのが、貧困世代のホンネである。
ましてや、貯蓄などの資産形成もできない。そんな多くの若者たちは生活保護受給者予備軍であり、下流老人予備軍であり、それは相当に分厚い層をすでに形成している。
いくら「日本の未来のために、産めよ育てよ」と煽られたって、自分自身が生活保護を受けなければならないくらいの貧困状態にある、あるいは、そうなることへの不安が強い状態であれば、多くの人は「結婚できない」し「子どもなんて作れるはずがない」ですよねやっぱり。
この新書を読んでみると、いまの日本で行われている「少子化対策」「貧困対策」というのは、基本的にズレているのではないか、という気がしてきます。
著者は、貧困対策、少子化対策として、若者が実家から独立して生活できるような住宅政策の充実が必要であることをくり返し指摘しています。
「落ち着いて住める居場所の存在」というのは、若者の自立や結婚を促進するのだけれど、今の若者の経済状態では、家賃が払えないので実家に住むしかない。そうなると、恋人をつくったり、結婚する敷居も高くなってしまうのです。
貧困対策に限らず、住宅政策の充実が出生率や少子化問題の改善に貢献していることを住宅政策研究者の平山洋介氏も指摘する。平山氏は「ヨーロッパでは、出生率と住宅保障の関係が注目されてきました。持家重視の国では出生率がとくに大きく低下するという傾向がみられ、ここから住宅政策のあり方と出生率の間に因果関係があるのではないか」と述べている(「住宅のセーフティネットをどう構築するか」『議会と自治体』第136号)。
持ち家重視の政策から早期に転換しない限り、出生率は上がらないと明らかにしたのだ。日本の少子化対策や若者の貧困対策に、住宅政策がほとんど入っていないことは驚くべきことだろう。
ここまで来ると、少子高齢社会や貧困対策の処方箋が住宅政策の転換にあることは、すでに周知の事実であるようだ。
諸外国での成果をみると、「言葉での啓発よりも、独立して住める場所」のほうが、はるかに有効なようです。
「実家に住めば家賃がかからなくて良い」というのは、高齢者側の発想みたいです。
「貧困の再生産」を食い止めるには、どうすれば良いのか?
少なくとも、高齢者の側は「自分たちが生きてきた時代のモノサシで、いまの若者たちを判断する」のをやめることから、はじめる必要があるのですよね。