![はじめて読む人のローマ史1200年(祥伝社新書) はじめて読む人のローマ史1200年(祥伝社新書)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/41VyDr7qEgL._SL160_.jpg)
- 作者: 本村凌二
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2014/06/02
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- 作者: 本村凌二
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内容紹介
ローマはこれだけのことを教えてくれる!「ローマの歴史のなかには、人類の経験すべてが詰まっている」(丸山眞男)──数ある文明のなかで、起承転結をこれほど完璧に見せた歴史はない。本書は、その1200年間を4つの時代に分け、「なぜ、ローマは大帝国になったのか」など7つのテーマを設けて、歴史の大きな流れとして見ていく。古代の同時代人から近代のイギリス、現代のアメリカまで、多くの国家・民族がローマ史を探究し、統治に活かしてきた。新たな覇権主義の様相を呈する現在の国際情勢。そのなかで、日本および日本人が進むべき道は何か──その答えは、ローマ史のなかにすでに用意されている。
最初にお断りしておきますが、僕は歴史マニアとまではいかないものの、歴史の本を読むのは大好きで、塩野七生さんの『ローマ人の物語』も全巻通読しています(残念ながら、ハンニバル戦記くらいしか、詳しく覚えてはいないのだけれど)。
ですから、「はじめて読む人のため」と銘打ってある本の読者としては、あまり適切ではないと思われます。
とはいえ、『ローマ人の物語』を最初から読み返すのはあまりに時間がかかりすぎるし、山川の世界史では味気ない。
そういう「はじめてではない人」が、ローマ史をざっと復習する際にも、ちょうと良い分量・内容ではないかな、という感じでした。
著者は、ローマの時代を、現代人の基準で判断することなく、当時の人々の考え方を尊重しているんですよね。
ローマ帝国でキリスト教が国教となり、一神教は世界に影響を与えるようになったのですが、ローマ人は、もともと他者や他民族の土着の信仰には寛容だったのです。
これは、ユダヤ教やキリスト教という「一神教」に対しても同様です。ローマが行ったキリスト教に対する弾圧は、一見すると、多神教のローマが一神教のキリスト教を弾圧したように見えるかもしれませんが、ローマはキリスト教が一神教だから弾圧したわけではありません。事実、ユダヤがローマの属州になった時も、ローマは「おまえたちがおまえたちの神を信じるのは自由だ」として、干渉していません。
では、ローマがユダヤ教から派生したキリスト教に対して、なぜ弾圧を加えたのか。
その理由は、ローマの側ではなくキリスト教のほうにありました。唯一絶対の神を信仰するキリスト教徒は、自分たちの信じる神以外はニセモノと断じ、「信じてはいけない」と主張したからです。
自分たちの神以外をニセモノとしたのは、ユダヤ教も同じですが、ユダヤ教の神やユダヤ人だけを救う神であり、ユダヤ人が他民族の信仰に干渉することはありませんでした。
しかし、キリスト教は「キリストがその死をもって、すべての人々の罪を贖った」としたため、信徒となり得る範囲が全人類に及び、他の神を信仰することは異民族であっても許されざることになったのです。
それでも、ローマ帝国が力を持っていた時代には、キリスト教がローマの人々の心をつかむことはありませんでした。ローマがキリスト教に染まっていったのは、ローマの国力が低下し、不安定な社会のなかで、古来の人間関係が揺らぎ、人と人との結びつきが弱まったために、人々が個々に救いを求めた結果だったのです。
ローマ帝国でのキリスト教弾圧は、いまのキリスト教が世界の三大宗教となった世の中では「悪いこと」だとみられていますが、弾圧したローマ帝国の側にも、「自由にさせておくには危険が高すぎるし、他者に干渉しすぎる宗教」という考えがあったのです。
そして、キリスト教が広まっていったのは、ローマ帝国の政情が安定せず、人々が不安を強く感じるようになっていたという時代背景があるのです。
ローマ帝国の滅亡は、国家が滅亡する前に、中心部だったイタリアが凋落するということから始まり、帝国内のさまざまな場所に、それに代わる都ができ、やがて帝国が分割され、最終的には三〜四つの文化圏に分かれていく、という様相を呈していきます。
ですから、ローマ帝国の滅亡というのは、世界史上非常に大きなテーマだと言われますが、その時代に生きていた人々にとっては、それほどドラマチックなものではなかったのではないかと、私は思っています。
ローマは、かつてのカルタゴの滅亡のように、一挙に破壊されたわけではありません。ローマ帝国はすこしずつ、すこしずつ、国の形を変えながら衰退していったのです。こうしたゆるやかな変化は、そこに住む人々にとっては、大きなものとして捉えられなかったでしょう。
世界史の学界でも、ここ30年ほどは、ローマが衰退し、滅亡を経て、新しい文明が隆起してくる、三世紀から八世紀にかけての時代を、西にキリスト教(カトリックとギリシア正教)が生まれ、東にイスラム教が誕生するという、新しい文化ができてくる時代として、大きく捉えようという考え方が生まれています。
つまり、従来のように、古代や中世という時代区分に、きっちり振り分けるのではなく、「新しい価値観を生み出してきた時代」として捉えようという動きが出てきているのです。これによって、今までの没落論争、具体的に言えば、中世と古代はどこで断絶したのか、という議論をもう終わりにしようとしうことです。
残念ながら、こうした捉え方は、まだ教科書に反映されていませんが、学界では明らかに流れは変わってきています。
この時代を「ローマ帝国の滅亡」「古代の終わり」というネガティブな没落論で捉えるのではなく、「新しい時代の始まり」「新しい価値観の誕生」という人々が新しい文化を作り上げていく、非常にクリエイティブな時代としてポジティブに捉えれば、これまで見えなかったものが見えてくるような気がします。
歴史上、実際に起こったことは変わらないはずなのに、21世紀になっても、さまざまな研究の成果や研究者の見方で、歴史の「解釈」というのは、変わってきているのです。
アレクサンドロス大王の父親、フィリッポス2世の時代のマケドニアは、サリッサという6メートルもある槍を用いて、敵よりも長いリーチを活かして戦っていた、と言われていますが、歴史家たちは、そんな長い槍を実際に使いこなせるのか、と長年疑問視していたそうです。
ところが、最近イギリスで、オックスフォード大学やケンブリッジ大学のラグビー部の学生に長い槍を使ってもらって検証したところ、体力がある若者であれば、かなり自在に動かせることがわかったのだとか。
歴史には、噓っぽい事実もあれば、本当らしいフィクションもある。
こんな実験、よくやってみたなあ、というのと、これまで、議論するばかりで実際にやってみた人はいなかったのか、というのと。
まだまだ、検証・議論の余地は、たくさんあるということなのでしょう。
ローマが滅亡した時代に生きていた人々が実際に感じていたのが「栄光の時代の終焉」なのか、「新しい時代への希望」なのか、あるいはその両方なのかというのはわかりませんが、少なくとも、ネガティブな考えばかりではなかったはずです。
「五賢帝」のひとり、アントニヌス・ピウスについて。
アントニヌス・ピウスについて何も述べなかったのは、実は、彼の治世にはこれという目立って出来事がないからです。あまりにも何もないため、「歴史のない皇帝」と言われるピウスですが、私は彼こそパクス・ロマーナを象徴する最高の皇帝ではないかと思っています。なぜなら、平和で何も事件が起きていないということは、見方を変えれば、すぐれた政治手腕を持っていたと言えるからです。
彼の有能さを象徴しているのが「ピウス」という称号です。これは、彼の死後、元老院から贈られたもので「敬虔なる者」という意味を持っています。
皇帝と元老院は、何かと対立することが多く、実際、アントニヌス・ピウスの養父ハドリアヌス帝は、元老院の評判が良くありませんでした。その元老院がこのような称号を贈ったということは、ピウスがその温和な人柄で元老院とも良好な関係を築き、見事に内政を安定させていたということです。
為政者の功績は、激動期のほうがわかりやすく、安定した状態が長く続くと、それ自体がどれほど難しいことかが見えにくいものです。
後世からみれば「退屈な時代」のほうが、実際にその時代を生きていた人々にとっては、穏やかで幸福だった、ということも多いのでしょうね。
どんな時代を生きていても、その時代なりの不安や不満と希望というのは、あるものなのだろうけれど。
ローマ帝国の歴史に興味があるけれど、いきなり『ローマ人の物語』では敷居が高すぎる、という人には、うってつけの新書だと思います。
![ローマは一日にして成らず──ローマ人の物語[電子版]I ローマは一日にして成らず──ローマ人の物語[電子版]I](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51x2QBTGn7L._SL160_.jpg)
- 作者: 塩野七生
- 出版社/メーカー: 新潮社
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