琥珀色の戯言

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【読書感想】オンナの奥義 無敵のオバサンになるための33の扉 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
『聞く力』シリーズが190万部のベストセラーとなる一方、2017年に〝還暦婚〟を果たした阿川佐和子さん64歳と、『ふたりっ子』『セカンドバージン』などのヒット作を誇る売れっ子脚本家で、実生活でも背徳の愛を重ねてきた大石静さん66歳。フツーではないオバサン二人が、究極のオンナの生き方を語り合う。
主なラインナップは下記の通り。


・アガワはなぜ、還暦すぎて入籍したのか
・新婚生活は「聞かない力」が大事
・夫婦長続きの秘訣は食べ物と笑いのツボ
・夫と彼氏の三者面談
・フラれて良かったと思うとき
・理不尽な父親とのつき合い方
・後悔しない親の送り方
・いつ〝誘われて〟も大丈夫な下着選び
Tバックってあり?
・ホットフラッシュ、情緒不安定……更年期になったら周囲に宣言すべし!
パワハラ&セクハラ禁止が男とテレビをダメにした
・「これしかない」という仕事を見つよう


 大石静さんって、こんなに強烈な人だったのか……
 この対談を読んでいると、大石さんの自由奔放な人生と発言に圧倒されてしまいます。
 世の中の「女性の本音」って、こんな感じなのだろうか……

大石静あるとき、私が婚外恋愛で夢中になった相手が独身で、「結婚してくれ」って言うから「お父さん、結婚してくれって言われちゃった。どっちが好きかっていえば今はあっちが好きかも。またちょっと離婚したいかも」って相談したの。そしたら「君がそっちへ行きたいんならしょうがない。いいよ」ってすぐ回答がきた。


阿川佐和子それって、結婚してどれくらい経ったころ?


大石:10年ぐらいかな。「好きなことをやりなさい」と言われてから7年後。それで、そのとき初めて三者面談をしたの。夫と、その「結婚してくれ」男と、私とで。


阿川:えええっ? つまり、離婚調停という段階ですか?


大石:いや、まずは夫が先に「この人を大事にしてやってくださいよ」と……。


阿川:ちょっと待って。それ、大石さんは納得してたんですか?


大石:それでおさまればいいか、くらいに思ってた。別れても夫は
きっといい友人でいてくれるだろうし、イヤになったら戻ってきても許してくれそうだなと(笑)。


阿川:なんと図々しい! 戻るつもりだったんかい!


大石:でも、そのときの私と夫のやりとりを見て、つき合っていた彼が「すみません、今のままでいいです」って言ったのよ。こっちとしては「ハア~?」みたいになっちゃって。


阿川:怖気づいたんですかね?


大石:「どういうこと? うちの夫は一緒になりなさいって言ってるのよ!」って詰めよったら「自信がなくなった」って。


阿川:夫婦の間にスキが見えなかったんじゃないの? どうせなら元旦那とは思いきり憎しみ合って別れて思ってたんですよ、その若者は。


大石:その後も私は彼が好きで別れられなかったんだけど、だんだんと暴力を振るうようになって別れちゃった。夫が「暴力振るうのだけはやめてもらいたい」って彼に言いに行ってくれたんだけどね。


阿川:保護者か!


 ちなみに、「旦那以外の男の、どこがそんなによかったんですか?」という阿川さんの質問への大石さんの答えは、「……エッチが……」というものでした。
 こんな奔放な人だったのか……と思いながら読んでいたのですが、あらためて考えると、こういう価値観で生きている男性って、芸能人とか芸術家には少なからずいますよね。あくまでも、僕がこれまで吉田豪さんのインタビュー本を読んできた範囲では、という話なのだけれど。もちろん、「恋多き女」というのも少なからずいるわけで。
 不倫が大バッシングされることが多い世の中だけれど、瀬戸内寂聴さんや大石さんの不倫話は、その年齢もあるのか、「持ちネタ」みたいな感じになっています。
 そういうことに対して、おおらかなのが「正しいこと」だとは、僕にはやっぱり思えないのだけれど、この大石さんの話も、本人も夫も付き合っている相手も納得しているからなあ。
 とはいえ、こういうことを「あの人なら仕方がない」と思わせるためには、ある種の才能も必要な気はします。
 いちばん大事なのは「本人の自信というか、開き直り」みたいなものかもしれませんね。
 そして、クリエイターというのは、「世の中の常識に喧嘩を売ってなんぼ」という世界でもあります。
 既成の価値観をなぞるだけの作品では、よほどその見せ方が優れていないかぎり、誰も足を止めてくれません。
 その一方で、世の中には「定番のお涙頂戴もの」みたいなのも存在するのですが。


 作家・阿川弘之さんの娘である阿川さんは、自分の体験も踏まえて、こんな話をされています。

阿川:とにかく、物書きはみんな、頭がおかしいんじゃないかって思ってたもん、私。それぞれに狂い方はちがえども。


大石:小さいころ、文士の宿でいろんな先生たちのことを見てたけど、先生たちはみんな苦悩してたし、ワーッ! と意味なく炸裂して襖を蹴飛ばしたりしてたわよ(笑)。作品はその人そのものって言うけれど、あれ、どうかしらね。何だか気難しくて意地が悪いと思われる先生がものすごくヒューマンな作品を書かれたりするし、必ずしもその人格と作品は一致しないって、子供心に思ってたわ。


阿川:一概には言えないけれど、組織に勤める人たちは、個性や育ちや能力にかかわらず、組織の中で何かを我慢してる、つまり”個”じゃないもので勝負せざるを得ない場面が多いでしょ。でも、文士って、”個”を発揮すればするほど作品に反映されるわけだから、抑える訓練をしないまま大人になっちゃうんですよね。それが芸術と言ってしまえば芸術なんだけれど、そばにいる家族はたまったもんじゃない。夏目漱石にしてもモーツァルトにしても、奥様は悪妻だったと言われてるじゃない? 私ね、子供の頃から思ってたけど、あれ、嘘なんじゃないかな。


大石:なぜ?


阿川:世間は夏目漱石の文章に惚れて、素晴らしい、立派だと思ってるけれど、それはあくまで作品の世界ですからね。読者や評論家はどうしても漱石側に加担する。だから奥さんにちょっとでもダメなところがあると、「悪妻だ」って決めつけるけれど、実際に家庭でどれだけ家族や子供が苦労していたか、そちらの言い分は、聞いてないんだもの、わからないじゃない。きっと漱石の妻はつらかったと思いますよ。


 実際、阿川佐和子さんが書いている、子供の頃の父・阿川弘之さんの思い出を読むと、「これって、今の時代なら、『毒親』って言われてもおかしくないよな……」と感じます。


fujipon.hatenadiary.com


 阿川佐和子さんは、自らも「発信者」となったためにこうして記録が残ったのですが、漱石の家族は、断片的な「思い出話」が紹介される程度なんですよね。
 世間は、佐和子さんのように子供が成功すると、なんとなく「表面は厳しかったけれど、愛情にあふれた人だった」なんて善意に解釈してしまうのですが、それはむしろ、佐和子さんが頑張った、あるいは、そんなお父さんとの相性が良かっただけだと僕は思っています。
 でもさ、「普通の人が書いた、普通の話」なんて、消費する側としては、別に読まなくてもいいや、と思いますよね。


 対談のなかで、いま60代のふたりは、こんな話もしています。

大石:大胆な表現は、昨今のテレビではまったくできなくなったわね。


阿川:セクハラ、パワハラ禁止の時代ですから。男とテレビが面白くなくなったのはセクハラ、パワハラがあると思うんですよね。


大石:男もね(笑)。


阿川:世のおじさんはみんな、セクハラとパワハラにおびえています。日本の、いや世界中の男をダメにしている気がするんですけど。もちろん、とんでもないセクハラおやじは制裁を与えないといけないと思いますけど、ちょっと制裁モードが行き過ぎているような……。


大石:男の人が職場でエッチな冗談も言えないようじゃ、つまんないもんね。脚本家になりたてのころ、テレビ局のおじさんはみんなエロくて人間臭くて、そういう話を聞くのが大好きだった。落ち込んでいたらエッチなジョークで励ましてくれたりして。一方で、人妻の私に「温泉行こう」「上に部屋とってあるよ」と言ってくるおじさんもいたな。


阿川:そういうとんでもないおじさんも世の中には存在するってことを、とりあえず知っておいたほうがいいと思うんです。じゃないと、いざというとき逃げる知恵がつかないから。コイツは危ないぞって察したら、いいネタとして取っておこうくらいの気持ちでしばらく様子を見てどうやったらこの危機から逃れられるか、必死に手立てを考える。そこに生きる知恵がいっぱい詰まっている気がするんですね。


大石:そうそう。いくらでもネタが転がってた。


阿川:最近は男も女も、そういう危険と紙一重な経験をしなさすぎて、だから羞恥心がなくなってるんじゃないかと思う、逆にね。


 ああ、これぞ「生存者バイアス」!


女の敵は女」なんて言われることもありますが、権力を持った男にうまく取り入って、あるいは上手にあしらって成功してきた女性たちには、こういう考えの人が少なからずいるのだと思います。
こういう価値観のなかで生きてきて、もう還暦もこえている人たちをいまさら断罪すべきではないのかもしれませんが、「空き巣に入られたおかげで、泥棒の怖さがわかるようになってよかったね」みたいな話じゃないですかこれ。


ただ、セクハラ・パワハラが完全に無い社会というのは、そう簡単には実現しそうにありません。
それならば、「あってはいけないことだけれど、起こりうるものだと想定し、準備をしておく」ことは大事です。
実際に体験してみないと「どこからがセクハラなのか」って、なかなかわからないですよね。あからさまなものはさておき。
経験を積めばわかる、とは限らないだろうし。


 「どんな小さなセクハラも許さない!」と「最近の若い男は『草食系』で、向こうからガツガツ来てくれない」という両側からのプレッシャーを考えると「他人には極力関わらないのが無難だよな」と思う人が増えるのは、自然なことだと僕は感じています。それはもう、そういう時代なのだと受け入れるしかない。


 阿川さんの結婚相手や結婚生活についても、大石さんがけっこう積極的に話を聞いているのも読みどころだと思います。

大石:ケンカはしないの?


阿川:しますよ。でも基本的には私がキンキン言ってカッカしているのを、オジサンは嵐が過ぎ去るのを静かに待っている感じ。言い争いにはならないですね。「もう、何度も言ったのにどうして聞いてないの?」と騒いだときは、「聞かない力……」ってボソッと呟いたのがおかしくて、怒っているのがバカバカしくなったこともあります。


大石:素敵ねぇ。阿川さんの扱いに慣れてらっしゃる。


 ああ、阿川さんの結婚相手は、面白い人だなあ。
 これで「許せてしまう」というのも、たぶん、ふたりの「現時点での相性のよさ」なんでしょうけどね。
 うまくいっていないときは、「何ごまかしてるのよ!」って、火に油を注ぐような悲惨な結果にもなりかねないから。


わたしってブスだったの? (文春文庫)

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