琥珀色の戯言

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【読書感想】フーガはユーガ ☆☆☆

フーガはユーガ

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Kindle版もあります。

フーガはユーガ

フーガはユーガ

内容紹介
2019年 本屋大賞ノミネート作品!

あらすじは秘密、ヒントを少し。 双子/誕生日/瞬間移動 1年ぶりの新作は、ちょっと不思議で、なんだか切ない。


内容(「BOOK」データベースより)
常盤優我は仙台市のファミレスで一人の男に語り出す。双子の弟・風我のこと、決して幸せでなかった子供時代のこと、そして、彼ら兄弟だけの特別な「アレ」のこと。僕たちは双子で、僕たちは不運で、だけど僕たちは、手強い。

 「2019年ひとり本屋大賞」1作目。
 「本屋大賞」に愛されし作家、伊坂幸太郎さんの1年ぶりの新作、ということもあって、順当にノミネートされた感じです。
 あらすじをあれこれ書くと面白くなくなってしまいそうなので、書かないようにしようと思うのですが、僕個人の感想としては、「伊坂さんらしい作品ではあるけれど、『とにかく読んで!』と言いたくなるほどの吸引力はなく(それでも、一気読みしてしまうくらいの読みやすさではあるのですが)、あらすじを書かないとすると、何を書けばいいのか困ってしまう」感じでした。
 ここであえて、伊坂さんがすでに『ゴールデンスランバー』で受賞している「本屋大賞」に、この作品をノミネートする意味があるのだろうか、とも思ったんですよ。もちろん、それは伊坂さんの責任ではなくて、選ぶ側の書店員さんたちの判断に対する違和感なのですが。


 この作品を読んでいると、伊坂さんはちょっと迷っているのではないか、という気がしてくるのです。
 あまりにも「わかりやすい悪」が描かれている、ということと、自分がつくりあげた「設定」を活かすために、かなり強引なストーリーになってしまっていること(だって、いくらなんでも、公権力の実力を甘く見過ぎている、としか思えない)、登場人物が「駒」のように使われてしまっていること。
 僕のものすごく勝手な想像なのですが、伊坂さんは、東日本大震災を経験しても、大きく変わることのないこの世界の「暗部」あるいは、「良心というものが最初からインストールされていないような人々」に対して、絶望しきっているのではなかろうか。
 それで、作品のなかだけでも、悪いやつらを懲らしめる世界をつくっているのでは……
 なんというか、「悪いやつを、悪く描く」ことに関しては、伊坂さんはどんどん巧くなっている。
 でも、そこにあるのは、「ものすごく憎らしい悪」ではあるけれど、非現実的な、ステレオタイプなヒーローものの悪みたいな感じなんですよ。

 伊坂幸太郎さんは、デビュー当時、その会話文や世界観から、村上春樹さんとよく比較されていたのです。
 村上春樹さんが、どんどん「得体のしれない、人々の悪意の集合体のような漠然とした戦うべき存在」を描くようになっていったのに対して、伊坂さんの設定した敵は、どんどんわかりやすく、具体的な存在になってきました。

 伊坂さんは、『死神の精度』のシリーズでは、「人が善く生きるということ」について、かなりの熱量で語ってきています。
 読んでいて、「説教くさいなあ、これ」とボヤキたくなるくらいに。
 それに対して、この『フーガとユーガ』からは、「怒りと破滅衝動」みたいなものばかりが強く感じられて、読み終えたあとに、なんだか気が滅入ってしょうがなかった。

 もちろん、後味が悪いからダメだ、なんていうのはおかしな話なのですけど、この作品の場合は、結末の問題というよりは、「ちょっといい話、的な着地点にするために、登場人物が無理やり行動させられている」ように最後まで見えてしまって。
 これは、僕自身の伊坂作品への「飽き」なのだろうか。
 『ホワイトラビット』もそうだったのだけれど、ストーリーのミステリ的な「仕掛け」を重んじ一方で、登場人物の魅力が薄れてしまったのです。
 というか、その「仕掛け」の部分も、この『フーガはユーガ』は、うまく活かせているとは言い難くて、なんとか辻褄を合わせようとしたのではなかろうか。


 それなりに面白いし、たしかに、初期の伊坂幸太郎っぽい作品ではあると思います。
 でも、昔の伊坂作品の根本には「希望」や「善性」があったけれど、この『フーガはユーガ』には、「絶望」が透けてみえるのです。
 もしかしたら、それは読み手である僕の心持ちの変化のせいなのだろうか。


ホワイトラビット

ホワイトラビット

ゴールデンスランバー

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死神の精度 (文春文庫)

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