琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】アイネクライネナハトムジーク ☆☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
ここにヒーローはいない。さあ、君の出番だ。
奥さんに愛想を尽かされたサラリーマン、
他力本願で恋をしようとする青年、
元いじめっこへの復讐を企てるOL……。
情けないけど、愛おしい。
そんな登場人物たちが紡ぎ出す、数々のサプライズ! !
伊坂作品ならではの、伏線と驚きに満ちたエンタテイメント小説!


参考リンク:2015年本屋大賞


今年もやれるところまではやります、『ひとり本屋大賞』3冊目。
それにしても、今回の『本屋大賞』の候補10作品のうち、上下巻が3作もあると、ちょっと気押される感じではありますね。


 この『アイネクライネナハトムジーク』は、「本屋大賞の神7』のなかでも、これまで8回ノミネート、そして、『ゴールデンスランバー』で大賞受賞歴もある伊坂幸太郎さんの作品です。


 今回、伊坂さんは、阿部和重さんとのコラボレーション作品『キャプテン・サンダーボルト』もノミネートされており、人気の高さを見せつけています。


 この『アイネクライネナハトムジーク』を読みながら、僕は伊坂さんの『終末のフール』を思いだしていました。
 伊坂さん自身も、この作品について、「僕の書く話にしては珍しく、泥棒や強盗、殺し屋や超能力、恐ろしい犯人、特徴的な人物や奇妙な設定、そういったものがほとんど出てこない本になりました」と仰っているのですが、『死神の浮力』での「死生観」、『重力ピエロ』の「血縁と赦し」、『モダンタイムス』の「ネットと監視社会」、みたいなズッシリとくるテーマではなくて、「人と人とのつながり、とか恋愛について書かれた短編が見事にリンクしていくのは、なかなか心地よい体験でした。
 伏線もキッチリ回収されていくし、出てくるフレーズや小道具の「カッコ良すぎず、おしつけがましくもない微妙なバランス」もすばらしい。
 ただ、あまりに上手すぎて、「ストーリーに心を奪われるというよりは、伊坂さんの技術に感動してしまう」というところもあるんですよね。
 今回は、叙述トリック的な時制の変化が用いられているのですが、おかげで、ちょっと流れがつかみにくくなっているところもあります。
 その一方で、この作品の面白さは、読んでいくうちに「あっ、これはあの人のことなのか!」と「気づく」ところにあるので、メモをとったり、人物関係図を書いたりして、キッチリと読んでいくと、かえってつまらなくなるかもしれません。


 「伊坂幸太郎らしい作品」であり、また、「予定調和内」なのですが、伊坂さんの読者にも、「そろそろ、気軽に楽しめるようなやつを読みたいな」と感じていた人はいたのではないかな。
 「原点回帰」って意味もある作品のような気はします。
 

 不思議なものだな、とまた思う。
 大学で最初に彼女を目撃した時、この女性はきっと、眩いばかりの人生を送っていくんだろうな、と僕は思った。美しく性格が良い女性はきっとそうなんだろうと憧憬すら感じながら、想像したのだ。こちらの勝手な思い込み、偏見に近かったが、とにかく、やっかみや皮肉はなく、そう思った。
 その彼女が二十一歳で結婚し、今や六歳の娘と一歳三ヶ月の息子を抱え、旦那のエロDVDを片付けつつ、夜になれば子供のトイレに付き添って、「わたしも、久しぶりに飲みに行きたいものだ」と小さな望みを口にしているとは、信じがたかった。それが悪い、というわけではない。ただ、かなり意外だった。

 僕は最初に収録されている『アイネクライネ』がいちばん好きでした。
 というか、僕も妻とのなれそめというか、第一印象みたいなものを、思いだしながら読んでいたのです。
 伊坂さんの作品には、そういう「読み手の記憶を刺激する力」みたいなものがあるんですよね。


 これから伊坂幸太郎を読んでみようと思う人、あるいは「人が死ぬような小説は好みじゃないという人」向けの作品だと思います。
 長年の読者にとっては、良くも悪くも、「ああ、いつもの伊坂さんだな」という感じなんですけどね。

 

終末のフール (集英社文庫)

終末のフール (集英社文庫)

終末のフール (集英社文庫)

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※「ひとり本屋大賞」ノミネートのなかで、既読の2作品。


満願

満願

満願

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1冊目の『満願』はこちら。



2冊目の『キャプテンサンダーボルト』はこちら。

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