琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

モダンタイムス ☆☆☆


モダンタイムス (Morning NOVELS)

モダンタイムス (Morning NOVELS)

検索から、監視が始まる。漫画週刊誌「モーニング」で連載された伊坂作品 最長1200枚。岡本猛はいきなり現われ脅す。「勇気はあるか?」五反田正臣は警告する。「見て見ぬふりも勇気だ」渡辺拓海は言う。「勇気は実家に忘れてきました」大石倉之助は訝る。「ちょっと異常な気がします」井坂好太郎は嘯く。「人生は要約できねえんだよ」渡辺佳代子は怒る。「善悪なんて、見る角度次第」永嶋丈は語る。「本当の英雄になってみたかった」


2009年「ひとり本屋大賞」ついにラスト、10冊目。
明日が大賞発表なので、なんとか今年も間に合いました。
まあ、ここ2年は前日の夜にようやく全作品読み終える、というパターンだったので、今年はかなり余裕があったとも言えるのですけど。

この作品、伊坂さんの小説としては最長ということなのですが、枚数ほどの「長さ」は感じませんでした。
それは「面白かったから」というよりは、この作品がもともと『週刊モーニング』に連載されていて、「各週ごとに、それなりに見せ場をつくらなくてはならない」という制約のもとに「小さなクライマックス」が積み重ねられているからなのでしょう。『モーニング』での連載開始時には、漫画週刊誌に小説の連載が!しかも書くのは伊坂幸太郎!ということでかなり話題になったんですよね。
逆に、1本の長編小説としてみると、「結局のところ、何が言いたいのかよくわからない」というか、なんとなく「迷走」したまま「とりあえずいまは保留」(あるいは、「この作品はまだ全体の『前置き』にしか過ぎない部分である」)という結論をみせられるという、なんだかすごくもどかしい作品になってしまっている気がしました。
『魔王』に近い感触の「置いてけぼり感」が残る作品なので、『魔王』が苦手だった伊坂ファン(僕がそうでした)には、ちょっとつきあいきれない作品ではないかと。

この小説を読みながら、僕がずっと考えていたことは、「伊坂さんはいつから村上春樹になっちゃったんだ?」ということでした。いや、デビュー当初から「村上春樹の影響」が語られてきた作家ではあるのですが、この作品のテーマって、まさに「壁と卵」、「暴走するシステムに潰される個人」ですよね。そしてそれが「暗喩」ではなく、まっすぐに、真剣に語られています。ラストなんか、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』みたいだし。

伊坂さんの作品らしく、ものすごく印象に残る文章もたくさんあるのです。

 私はそれを観ながら、五反田正臣が言い残した芥川龍之介の言葉を思い出していた。「危険思想とは常識を実行に移そうとする思想である」という、あれだ。
 まさにそれそのものにも思えた。環境を守れ、自然を守れ、という主張は正しくてもそれを闇雲に実行するのはどこか恐ろしさを伴う。ただ、一方で、「良識や正義」を揶揄する人間のほうが正しい、というのも奇妙に感じられる。

「いいか、これから俺、いいこと言うからよ」と彼は口を動かす。
「はあ」
「よく聞いておけよ」顎をくいくいと突き出す。
 勝手にしてくれ、と思った。
「あのな。大事なことは、まとめちまったら消える。俺はそう言っただろ。でな、それを突き詰めるとだ」彼は芝居がかり、間を空けた。
「突き詰めると?」
「人生は要約できねえんだよ」
 私は、その場の快楽と思いつきで行動しているような伊坂好太郎から、「人生」という単語がでてきたことに衝撃を受けた。「人生を要約?」
「人ってのは毎日毎日、必死に生きてるわけだ。つまらない仕事をしたり、誰かと言い合いしたり。そういう取るに足らない出来事の積み重ねで、生活が、人生が、出来上がってる。だろ。ただな、もしそいつの一生を要約するとしたら、そういった日々の変わらない日常は省かれる。結婚だとか離婚だとか、出産だとか転職だとか、そういったトピックは残るにしても、日々の生活は削られる。地味で、くだらないからだ。でもって、『だれそれ氏はこれこれこういう人生を送った』なんて要約される。でもな、本当にそいつにとって大事なのは、要約して消えた日々の出来事だよ。それこそが人生ってわけだ。つまり」
「人生は要約できない?」
「ザッツライト」彼はストローを私に向けた。いちいち気取って、英語にする感覚が理解しがたい。

こういうのを読むと、「ああ、伊坂幸太郎だなあ」と嬉しくなるのだけれど、その一方で、漫画週刊誌の連載とはいえ、ここまでストレートに作者が語ってしまうというのは、あんまりスマートじゃないな、とも思います。
執拗に残酷な拷問シーンが描写されていて、ちょっと引いてしまうところもあるし。

「検索をしている者」は、逆に「『こういうものを検索している人』として検索される存在」でもある、というのは、元SEだったという伊坂さんらしい視点ですし、けっして、つまらない作品ではないのですが……
雑誌に短いシークエンスを長期間「連載」しているうちに冗長で、密度が薄い作品(しかも、「説明過多の村上春樹」みたい)になってしまった結果が、この『モダンタイムス』ではないかなあ。

それにしても、今回の「本屋大賞」は、あまりに長い作品が多くて疲れました。
「分厚い本や上下巻のほうが儲かるから、ノミネートしているんじゃないか?」とか勘繰ってしまうくらいに。
この程度の作品で、既に大賞受賞歴がある伊坂さんがまた候補になるのは、ノミネート作品枠の無駄使いだと僕は思います。

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