琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】稼ぐ! プロ野球 新時代のファンビジネス ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

なぜ、福岡ソフトバンクホークスが「ラスベガス」、北海道日本ハムファイターズ「街」を創るのか
「野球」だけがビジネスではない! データ活用、SNS戦略、グッズ展開、コミュニティ・・・利益と熱狂を生み出す“勝利の方程式"

プロ野球を見れば、いまのビジネスがわかる――。少子高齢化に伴う「野球離」が進み、これまでのようなビジネスモデルでは経営が立ち行かなくなったプロ野球。今後、コロナ禍により、深刻な経営難に陥る球団が出てくる可能性もささやかれている。だが、指をくわえて待つわけではない。かつてのチケット販売を主体とした収益構造から脱却し、独自のカラーを活かして経営を行なう「稼ぐ球団」が存在感を示している。
エンタメ施設の運営に乗り出した福岡ソフトバンクホークス、“異色の"新スタジアム建設を進める北海道日本ハムファイターズの狙いとは。さらに、映像権の販売やグッズ展開に汗を流す元プロ野球選手たち……。本書では、パ・リーグ球団を中心に、ファンを魅了し、収益を確保するビジネス戦略を解説するだけでなく、そこに携わる球団スタッフの働き方・生き方にもスポットを当てる。現場を訪れ、当事者の生の声から浮かび上がったプロ野球の課題と新たな可能性とは。野球ファンはもちろん、日々バッターボックスで勝負に挑んでいるビジネスパーソンにとって「希望の書」となるビジネスノンフィクション。


 「スポーツビジネス」って言うけどさ、結局は球団やチームの金儲けで、入場料は上がるし、そのスポーツとは関係のないエンタメ施設が周囲にできていくだけで、ファンにとっては、むしろ悪い面のほうが大きいのではないだろうか……みんな「アメリカは、スポーツでこんなに稼いでいる!」って言うけど、そのお金を払っているのはこちら(ファン)なんだし……
 というのが、僕の偽らざる本音でもあるのです。


fujipon.hatenadiary.com


 以前、この本を読んで、僕は考え込んでしまったんですよ。

 ポルトガルリスボン空港を経営する「ヴァンシ・エアポート」というフランスの空港オペレーターがあります。最近、関西空港伊丹空港の経営権を日本のオリックスと組んで購入した会社なので、お聞きになったことがあるかもしれません。


 そのヴァンシリスボン空港を買った時、最初にしたことは、ターミナルの導線を変える改装工事でした。改装の内容は単純で、以前はエレベーターを上がるとまっすぐ搭乗ゲートへ向かうようになっていた直線の動線を、わざと迂回させ、店舗エリアを通らなければ搭乗ゲートへ行けないようにしたのです。たったそれだけのことですが、店舗の売上は目に見えて伸びたのです。
 第1章で紹介した新石垣空港動線——両側にショップが並ぶ狭い通路を通らせて購買意欲をかき立てる——は、これと同じ発想ですね。到着口にカフェを配置し、待つ人にコーヒー1杯でも飲んでもらうというのも、海外空港では当たり前の光景になっています。


 「ビジネスを行う側」からすれば、これは良案なのでしょう。
 でも、飛行機で移動したい人にとっては、買い物をしてもらうためということで、わざわざ遠回りさせられるのは、不快だし、非効率的じゃないかと思うんですよ。
 僕がそういうことに過敏なだけで、大部分の人は、お土産とかブランドショップを眺めながら歩くのは苦にならないのかもしれませんが……

 そういう僕の「なんで野球を観ることに集中させてくれないんだ?」という疑問に対して、この本は野球界が抱えている現状を踏まえて、答えてくれているのです。

 長年、プロ野球の球団経営は、巨人や阪神などの一部の人気球団、あるいは、経費を削減して「まず黒字であること」を前提としていた広島を除いては「赤字を親会社が埋め合わせる代わりに、球団を持っていることでの宣伝効果を得る」という構造になっていました。

 2004年度にオリックス近鉄の球団合併に端を発した球界再編騒動時の経営状態について、著者はこんなデータを示しています。

 2003年度(平成15年)の赤字額は、近鉄が約38億8000万円、オリックスは約37憶円。年間経費は、近鉄が約84億円、オリックスは約71億6100万円。
 ただ、その内訳に関しては「球団は上場企業でないから」と公表されなかった。
 経営実態は、事実上”ブラックボックス化”されていたのだ。

 僕も球団再編騒動の頃は、「プロ野球チームを減らすなんて!」と憤っていましたが、今、こういう数字をみると、経費の半分しか稼げず、年間40億円近くの赤字を垂れ流している状況をなんとかしたい、と考えるのは当然だと思うのです。
 
 あの「チームが減るかもしれない不安」、そして、「近鉄の消滅」という経験があったからこそ、プロ野球チーム、とくにパリーグのチームは「親会社依存、前例をただ踏襲する、というのではなく、自分たちのチームで稼いでいく、さらに、プロ野球という人気コンテンツを生かして、さらに大勢の人を集め、お金を稼げるシステムを作り上げていく」ようになりました。

 僕は長年、広島カープのファンなのですが、「カープ女子」が話題になり、黒田、新井の復帰、セリーグ3連覇を成し遂げられたのは、「スカウティングをしっかりやって、良い選手を獲得し、強くて魅力的なチームになったから」だと以前は思っていたのです。

 でも、あらためて考えてみると、カープが強くなったのは、それまでの老朽化した広島市民球場から、マツダスタジアムという「ボールパーク」に本拠地が移り、観客数が増えたことが大きかったのです。
 オールドファンとしては、市民球場に懐かしさを感じずにはいられないのですが、観戦の快適さという点では、(混雑していてチケットが取りづらいことを除けば)マツダスタジアムに軍配が上がります。

 長年低迷してきたチームをみてきたファンからすれば、「チームが強くなればお客さんが増える」と考えがちなのです。
 しかしながら、僕がカープファンとしてあらためて考えてみると、「観戦が快適になり、情報発信がうまくいったことによって、球場を訪れるファンが増え、チームの財政も改善され、そのことによって良い選手を獲得できるようになったし、選手のモチベーションも上がって強くなった」というのが本当の順番なのではないかと思います。

 この本のなかでは、ずっとAクラス(リーグで3位以内)の強いチームだったのに、観客動員数が低迷していた西武ライオンズの経営やファンサービスの改革の話も紹介されているのです。

 ここで、西武のファンクラブ会員数のデータを精査してみる。
 ここにも「中・高年齢化」という問題がじわじわと、着実に迫っていることを示している。 
 まずは、年度別会員数を比較してみよう。

【2008年】8万2122人
【2020年】11万3555人

 12年間で38%増、年平均でも約2400人の増加は、球団側のたゆまぬ努力の成果であるだろう。ところが、男女別に見てみると、意外な分析結果が明らかになる。

2008年
【男性】77%(6万3000人) 【女性】23%(1万9000人)

2020年
【男性】71%(8万人)   【女性】29%(3万3000人)


 女性会員の伸びが顕著ではあるが、2020年の時点でもやはり男性会員の比率が7割以上を占めている。
 もう1つ、象徴的なデータをピックアップしてみよう。
 会員数の比率が最も高い、その「ボリュームゾーン」の推移だ。


【2010年】30代+40代  42%(3万6000人)
【2020年】40代+50代  41%(4万7000人)


 ファンの中心層は、年月の経過とともに、そのまま”移行”しているのだ。
 今後も、この少子高齢化の社会状況が続いていくことは間違いない。
 そうした背景を踏まえ、現状のファンクラブ会員数の伸び方や年齢層から推測すると、近い将来、会員数自体が”じり貧”になっていく恐れは大だ。
 手をこまねいてはいられない、まさに喫緊の課題なのだ。


 僕の子どもたちも、ソフトバンクホークスの主力選手の名前くらいは知っていますが(九州在住なので)、子どもたちがテレビで野球を観戦しているところさえ、見たことがないんですよね。ずっとプロ野球を見続けてきた大人たちは、これからもファンでいるとしても、これからの世代にどんどん野球ファンが増えていくとは、現実的には考えづらいと思います。野球部の部員数は減ってきているし、子どもたちが野球をして遊ぶ光景も見なくなりました。地上波で親と一緒に野球を観なくても、ネット配信で好きな番組や動画を観ることもできますし、3時間以上もかかるプロ野球の試合は、どうも「かったるい」みたいです。

 いま、パリーグや、IT企業の強みを活かして躍進しているDeNAベイスターズがやっていることは、「あまりにもビジネス重視」のように見えます。
 しかしながら、現場の人たちにとっては、「プロ野球の試合を観るためだけ」のために人がスタジアムに足を運んでくれないであろう近い将来を見据えて、「プロ野球の生観戦もできる総合エンターテインメント」をつくろうとしているのです。
 そうしないと、プロ野球も生き残っていけなくなるから。

 もちろん、各球団の担当者にも温度差があって、「プロ野球チームも街づくりのひとつのパーツに過ぎない」と考えている人もいれば、「良い環境で、プロの素晴らしい試合を観てもらうことを最優先にする」という人もいるのです。
 それでも、「これからの世の中では、ただ、試合を開催したり、お金で良い選手を集めてくるだけでは、プロ野球というコンテンツは先細りになっていく一方だ」というのが、経営やファンへのアピールを担当している人たちの共通認識になっています。

 お父さんが子どもを野球観戦に連れていきたくても、「プロ野球の試合を観に行く」というだけでは、家族はついてきてくれない時代なんですよね。

 「福岡ソフトバンクホークス株式会社」の代表取締役専務COO兼事業統括本部長・太田宏昭さんは、こんな話をされています。

「12球団で、毎年同じことをやっていて、ホークスが毎年勝つ。そんな野球が楽しいのかと、どこかでなるかもしれないじゃないですか? ホークスファンは楽しいですよ、たぶん。今はね。でもそれをずっと続けていたら、日本プロ野球という全体からすると下がる可能性はあるんですよね。これだけでホントに、20年、30年って残っていけるのか。生きていけるのか。はたまたお客さんから、ファンから支持していただけるのか。
 もちろん、野球というものを発展させなければならないし、変化しなければならないし、興行としての発展形は、もっとあると思っています。エンターテインメント事業をやる中の、今は唯一に近い主要なパーツです。いや、パーツといえば、野球に失礼ですね。重要な事業体なんですけど、それは別の形で伸ばしていかないといけないし、それが下火になっちゃってからでは、何かしようと言ったって、間に合わないわけですよ。その手前で、いろんな布石を打っていくということをしているのが、今の状況なんです。
 野球事業が、そのまま伸びるのかなという疑問というか、危機感というか。それがまず1つですよね。それ以外に、何か伸びるものはないのか。あと、自分たちが持っている資産の有効活用がいろいろできないかなと。経営ですからね。野球事業をどうやって伸ばすかなんです。お客さんもドラスティックに伸びないし、そうすると収益も伸びてこないと思ったんです。このままでは、ですよね。
 だから、新しいことを考えて、打ち出していかないとダメなんです」


 オールドファンの僕は、「あちこちに手を広げて稼ごうとせずに、プロ野球そのものを、もっと大事にすればいいのに」と思っていました。
 でも、これからのことを考えると、「プロ野球を未来に遺していく」ためには、他のエンターテインメントとの相乗効果や、ネットを使った新しいファンの開拓などで「変わっていかざるをえない」のです。


2021プロ野球選手写真名鑑

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