- 作者: 齊藤成人
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2017/06/09
- メディア: 単行本
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内容(「BOOK」データベースより)
いま空港がアミューズメントパーク化している。グルメやショッピングに限らず、映画館、美術館、温泉、そして工場見学ができる空港も出てきた。その背景には、海外からの旅行者の増加、LCCの登場、空港コンセッション(民営化)がある。これまで想像もしなかった空港の楽しみ方から空港ビジネスの未来まで、知られざる空港の世界を案内します。
僕はそんなに飛行機を利用する機会はないのですが、昨年、いろんなところを巡る長旅をしてみて、世界には、さまざまな空港がある、ということと、空港も変わってきたなあ、と痛感したのです。
日本では、「ターミナル駅」とその周辺が、以前とは大きく変わってきましたよね。
北部九州在住の僕にとって、福岡市の交通の要衝は「JR博多駅」で、買い物をしたり、食事をしたりするのは、そこから地下鉄で数駅離れた「天神」というのが当たり前だったのですが、博多駅に「JR博多シティ」という大型商業施設がオープンして以来、「わざわざ天神まで行かなくても良いかな」と思うようになりました。最近は、天神地区の巻き返しもみられているようですけど。
なんのかんの言っても、ターミナル駅の近くで用事が済ませられるのなら、それに越したことはないのです。
この本を読むと、空港でも駅と同じことが起こってきているのだ、ということがわかるのです。
一時は頭打ちと言われていた飛行機の需要もLCC(ローコストキャリア・格安航空会社)の普及や新興国の経済的な発展で、あらためて増加してきています。
ターミナル駅と同じように、空港も「人が集まる場所」としての価値が再認識されているのです。
これまでは「出発までの時間を潰す場所」だったのが、より積極的に「買い物をしてもらう施設」になってきているのです。
でも、わざわざ空港で買い物なんてする?と思ってしまうのだけれど、著者はスーパーマーケットがあるドイツの空港を例にあげて、「空港から日用品の買い物のためにスーパーに寄って帰宅するよりも、空港で買い物を済ませてまっすぐ帰宅するほうがラク」だという利用者の声を紹介しています。
空港が「普段使いの施設」になれば、確かにそういう需要は増してきますよね。
僕は、羽田空港のセキュリティゲート内に伊勢丹があるのをみて、ずっと思っていたんですよね。
こんなあわただしい場所で、けっして安くもない伊勢丹で買い物をする人が、そんなにいるのだろうか、これはアンテナショップというか、ショールームみたいなものなのかな、って。
ただし、セキュリティゲートの中なので基本的には飛行機に乗る人しか利用できません。出張などで飛行機に乗る人が、そこに百貨店があるからといって、わざわざ買い物をするのでしょうか。
店の様子を見ていると、一見それほど人が入っているようには見えません。ところが、よくよく観察すると、商品を買う率は実に高いのです。フライトの時間を控えたビジネスマンが、店に入って目についた賞品を、迷いもせず、パッパッと買っていく姿が目につきます。見て回るだけの人は少なくても、実際に購入する客は多いということです。
イセタン羽田でよく買い物をする知人に聞いてみると、「伊勢丹は好きだけど、仕事が忙しくて新宿本店まで行く暇がなく、出張のついでに羽田空港で買っている」「事前に何を買うのかはネットで目星をつけているので買い物に迷わない」ということでした。
空港をよく使うビジネスマンはたいてい、空港に着くとすぐにセキュリティゲートを通り、搭乗口へ向かいます。彼らは常に忙しいので、普段お金を使う暇もありません。買い物はおそらくネットですることが多いのでしょう。そうした人たちにとっては、飛行機の搭乗口の近くにリアルな店舗を見つけると、わずかな時間でも実際に商品を眺める時間が確保でき、衝動買いをしやすくなるのかもしれません。忙しいから、次にいつ買い物に行けるかわからない。ならば今買ってしまおう、という感じでしょうね。
ビジネスマンのニーズをとらえて店舗を展開し、品揃えをセレクトしたマーケティングの勝利と言えるでしょう。
こういう客層が、セキュリティゲート内の店舗が成り立つくらいいるのだなあ、と驚きました。
ネットで買い物をするのが一般化していても、高いものはやはり「一度は実物を見ておきたい」ですしね。
しかし、このような「商業施設化」が、旅行者にとって良いことばかり、でもなさそうなんですよ。
ポルトガルのリスボン空港を経営する「ヴァンシ・エアポート」というフランスの空港オペレーターがあります。最近、関西空港と伊丹空港の経営権を日本のオリックスと組んで購入した会社なので、お聞きになったことがあるかもしれません。
そのヴァンシがリスボン空港を買った時、最初にしたことは、ターミナルの導線を変える改装工事でした。改装の内容は単純で、以前はエレベーターを上がるとまっすぐ搭乗ゲートへ向かうようになっていた直線の動線を、わざと迂回させ、店舗エリアを通らなければ搭乗ゲートへ行けないようにしたのです。たったそれだけのことですが、店舗の売上は目に見えて伸びたのです。
第1章で紹介した新石垣空港の動線——両側にショップが並ぶ狭い通路を通らせて購買意欲をかき立てる——は、これと同じ発想ですね。到着口にカフェを配置し、待つ人にコーヒー1杯でも飲んでもらうというのも、海外空港では当たり前の光景になっています。
こういうのは、経営する側からみれば「商売上手」なのかもしれませんが、僕のようなショッピングにあまり興味のない空港利用者にとっては、「まっすぐ搭乗ゲートに行かせてくれよ……」という気持ちではあるのです。
土産物屋がルートに必ず入っていた、一昔前の団体旅行みたいなことが、空港ぐるみで行われているのだよなあ。
2013年から5年連続で、イギリスのスカイトラックスのランキングで「世界一の空港」に輝いている、シンガポールのチャンギ空港の話も出てきます。
僕も一度この空港を利用したことがあるのですが、空港というより、アミューズメントパークみたいで驚きました。
日本の有名レストランも数多く出店しており、錦鯉が泳いでいる池まであるのです。
もう一つ、チャンギ空港の特徴を挙げておきましょう。
それは「サイレント空港」という考えに基づいて運営されていることです.アナウンスを最小限に抑え、できるだけ静かな空港にしようという考えです。
空港のざわざわした音は、空港ファンにとっては心地よく、旅の高揚感をもたらすものですが、なぜ止めてしまうのでしょうか。そこには、空港ターミナルの売上の重要な影響を与える戦略があるのです。なぜアナウンスと売上が関係あるのかを説明しましょう。
チャンギ空港では、航空会社の搭乗アナウンスは1フライトにつき1回と限定しています。そうすると、アナウンスに気づかず、乗り遅れる人がどうしても出てきます。しかし、空港を経営する側から見れば、それでいいのです。乗り遅れた人はさらに長く空港に滞在することになり、お金を余計に落としてくれるからです。先ほど述べたとおり、チャンギ空港は何時間でも滞在できるようになっていますから問題ないでしょう、というわけです。
なんだか、親切なのか意地悪なのか、よくわかりませんが、世界トップレベルの空港オペレーターというのは、そういう発想をしているということです。
このように、細かいところで少しでも儲けようという考えはチャンギ空港に限らず、海外の空港ではよくあることです。
こうなってくると、「空港」としての機能よりも金儲けかよ、と言いたくもなるのですが、空港の経営が民営化されていっていることもあり、こういう傾向は今後も改まるとは考えにくいのです。
旅行者としては「そういうもの」だということを知って、自分で確認し、乗り遅れないようにするしかなさそうです。
しかし、こうなると、何かの罠のような気もしてきますね……
「関空いくらで買いますか?」
2013年頃、こんな言葉が空港業界をはじめ、不動産やゼネコン、商社や金融機関の関係者の間でささやかれ始めました。関西空港が伊丹空港とセットで売りに出ることになり、その入札が翌年に迫っていたからです。正確に言えば、「2016年4月から2060年3月までの44年間、関西空港と伊丹空港を自由に運営する権利を入札で売却します」ということが14年に発表されたのでした。
(中略)
さて、関空・伊丹の運営権は結局いくらで売れたのでしょうか?
答は2.2兆円です。落札したのは、日本のオリックスとフランスの空港オペレーター会社「ヴァンシ・エアポート」のコンソーシアム(企業連合)。支払いは毎年約490億円の44年分割払い。高いのか安いのか、みなさんはどう思われますか?
ちなみに、近い数字を挙げれば、東京オリンピックの開催費用が2兆円超、東芝が売却を決めた半導体事業の入札価格が2〜3兆円と言われています。国内の空港と比較するなら、羽田空港の国内線ターミナルを運営する「日本空港ビルデング株式会社」の時価総額は3500億円ぐらいです。
44年という期間も、2.2兆円という金額もすごい。
これだけのお金を出して買ったのですから、空港に人が集まるように施設が充実していくことは間違いないでしょう。
その一方で、この金額を回収しなくてはならない、ということですから、「空港にお金を落としてもらうための仕組み」は、さらに進化していくはずです。
いろんな店が増えるのは良いとしても、搭乗口までのルートを迂回させられたり、搭乗便の乗り遅れ推奨、みたいなのは、勘弁してほしいのだけれど。
空港というのは、いま、最も民営化の功罪がせめぎあっている施設なのかもしれませんね。
- 作者: 機内食ドットコム Rikiya
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2012/06/02
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