琥珀色の戯言

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【読書感想】高校生ワーキングプア ――「見えない貧困」の真実 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
「弟や妹には、普通の暮らしをさせたいんです」「もう嫌や。金、降ってこーい」スマホを持つ一見普通の高校生が、親に代わって毎日家事をこなす。家計を支えるためにダブルワークをする。進学費用として奨学金という借金を背負う。彼らのSOSはなぜ見過ごされてしまうのか?働かなければ学べない高校生の声を集め、この国の隠れた貧困層の実態を浮かび上がらせた切実なルポルタージュ


 お金って、あるところにはあるものだなあ、と、新型コロナ禍のなかでも上がり続ける日経平均株価をみていて痛感するのです。
 その一方で、こういう本で、「日本の若者の現実」を突き付けられると、「こんなに格差が広がってしまって、世の中、大丈夫なんだろうか……持たざる者たちは、戦争とか革命を志向するのではないか」なんて、考えてしまうんですよね。
 少なくとも、NHKが取材した「高校生ワーキングプア」たちは、そんな過激な方法ではなく、なんとか自分の力で、ささやかな将来の夢を実現しようとしているみたいなのですが。

 著者たちは、2014年12月に放送されたNHKスペシャルの取材について、こう述べています。

 この時、生活に困窮する人たちにお話を伺いながら、彼らは本当に貧困なのかどうか、一見して分かりにくいと思ったことがあった。
 例えば、インターネットカフェに住み続けていた姉妹は、住居がネットカフェと聞かなければ、外見からはとても貧困とは思えなかった。来ているものは今どきの若者と何ら変わらず、メイクも、つけまつげもしていた。彼女たち曰く「百均(100円ショップ)に行けば、つけまセットも100円、リップも100円。服も古着をネットオークションで買えばいい」と話していた。
 新宿の街でキャリーバッグをコロコロ転がしながら歩く漂流少女たちも同様だった。家を出てしまったために、風俗店で日銭を稼ぎ、その日に泊まる部屋を提供してくれる男を探す日常は、生活苦であるのは当然のことだ。しかし、彼女たちは、家はない代わりに、皆、唯一のライフラインとして、スマートフォンは持っていた。それをカフェで充電しながらお茶を飲んでいる姿は、時間潰しをしているOLさんか学生さんのようにしか見えない。
 いずれのケースも、彼女たちの生活の実態を、それこそ根掘り葉掘り聞いてみてようやく、困窮しているんだと分かる。そのせいか、周囲からあらぬ誤解を受けて苦しんでいる人たちも数多くいた。
「何が貧困だ。スマホを持っているじゃないか」
「服だってきれいにしているじゃないか」
「もっと苦しい人たちもいるのに甘えている」


 番組に対しても、「貧困っていうけれど、こんな贅沢品を持っているじゃないか」と取材されている高校生やNHKへの批判が少なからずあったそうです。

 いまの世の中、たしかに、100円ショップにけっこういろんなものが売られているし、ディスカウントショップには安い服もある。「貧困」がひと目で伝わってくるような若者というのは、そんなにいないのかもしれません。
 スマートフォンは、遊びに使われるだけではなく、アルバイトのシフトがLINEで送られてくる時代なので、生活必需品でもあるのです。

 2017年2月、私たちが本書の基になったNHKスペシャル『見えない”貧困”~未来を奪われる子どもたち』(以下、『見えない”貧困”』)を放送した段階では、2014年に発表された子どもの貧困率16.3%が最新のデータだった。つまり、6人に1人が相対的貧困状態にあるということになる。その後、2017年に新たに発表された子どもの貧困率は13.9%となり、12年ぶりに改善したものの、依然として7人に1人が相対的貧困状態にある。


 ちなみに「相対的貧困」というのは、「世の中の標準的な所得の半分未満で成果るしている状態」であり、子どもの生活に例えると、友達と遊んだり、学校に行ったり、家族と休日に出かけたりといった、ごく当たりまえ(のように思える)ことができていない状態のことだそうです。

相対的貧困」家庭の年収がどのぐらいかといえば、単身世帯では年収122万円以下、2人世帯では173万円以下、3人世帯だと211万円以下、4人世帯だと244万円以下。月収に換算すると、4人世帯の場合は、手取りの収入が月に約20万円を下回ると、相対的貧困だといえる。


 食料品や日用品に関しては、いまの日本では「とにかく安くて、それなりのもの」を探せば、飢え死にしたり、ツギハギだらけの服を着たりすることは避けられます。

 しかしながら、進学して勉強しようとしても、家庭の収入がどんどん下がっていく一方で、大学の授業料はどんどん上がっているし、入学金などのまとまったお金を出すのが難しくなっているのです。
 
 高校生の子どもがアルバイトで稼いでいる収入があって、ようやく暮らしていける家も少なくありません。
 大学の昼の学部に通っている学生のなかで、奨学金をもらっている割合は、1990年代半ばまでは、およそ2割だったのが、2014年度は51.3%で、半数を超えているのです。
 奨学金といっても、ほとんどは返さないといけない借金で、大学を卒業しても、正社員になるのは大変です。奨学金の返済に行き詰まる人も増えてきています。
 「学資ローン地獄」は、アメリカだけの話ではないのです。
 

 高校生たちは、たとえ生活が苦しくても、なるべく自分を普通に見せようと、上手に装う。外見から、生活状況が分かりにくいのは、こうしたことも大きく影響しているのではないだろうか。
 では実際、アルバイトをして、家計を支えている高校生たちの暮らしはどういうものなのか。絵里香さんに密着取材させてもらうことになった。


(中略)


 この日は日曜日。普段は、学校から帰宅途中に立ち寄るアルバイト先へ、家から直接、電車で30分ほどかけて向かうことになっていた。平日はもちろん、土日もアルバイト三昧で疲れがたまっているのだろうか。電車に乗ると、すぐに眠りについてしまった。
 駅に着くと、途端に目が覚めたのか、今度は一目散にアルバイト先に向かって走り出す。そのギアの切り替えの早さに私たちは、置いてきぼりになるところだった。
 絵里香さんがアルバイトを始めたのは、高校1年生のときだ。母親に迷惑をかけないために、中学生の頃から「高校生になったらアルバイトをしよう」と決めていたという。そのため、高校へ進学すると、アルバイトに専念するため、中学で3年間続けていた部活も諦めてしまった。
 絵里香さんがアルバイトしているのは、駅近くにある飲食店だ。朝早くから、モーニングを食べに来る常連客でにぎわっている。絵里香さんも顔なじみの常連客とは笑顔で会話を交わしながら慣れた様子で接客していた。そして、きびきびと注文をとり、すぐに厨房に伝える。教室で見せる姿より、少し大人びて見え、頼もしくも感じる。
 アルバイト代を何に使っているのか、内訳を聞くと、友達との交際費のほかに、交通費、食事代、洋服代といった生活費は、すべて自分でまかなっている。もちろん、親からのお小遣いはもらわずにやりくりしているため、いつも節約のことを考えているという。
 この日の昼食は、アルバイト先で休憩時間に割引で食べることができるランチ。選んだメニューは、パスタとメロンソーダだった。
「炭酸だとお腹が膨れるからいいんですよ」
 そう笑いながら話す絵里香さん。いつか、大人になって働くようになったら、好きなモノを好きなだけ食べて欲しい、と心からエールを送った。
 バイト先の飲食店で、昼の忙しいランチタイムを乗り切り、午後2時、シフトはようやく終わった。しかし、絵里香さんは飲食店の扉を出た瞬間、またもや一目散に走り出した。アルバイトはひとつではなかったのだ。
 向かった先は、走って2分の場所にあるコンビニ。実は、飲食店とコンビニのアルバイトをふたつ掛け持ちしていた。休日は一時地8時間、平日も一日4時間働く生活で、月のアルバイト代はおよそ8万円になる。

 絵里香さんが必死に働く理由は、自分の生活費のためだけではなく、もうひとつ大きな理由があると、ある日、打ち明けてくれた。
「お母さんに言っていないんですけど……私、専門学校に行きたいんです」
 母親に打ち明けられない理由は、お金のことで心配をかけたくないからだった。


 この本を読んで愕然とするのは、取材を受けている「高校生ワーキングプア」の親たちは、働けるのに仕事をしていなかったり、子どもを虐待していたり、という問題のある人たちではない、ということなのです。
 ひとり親で収入が少なかったり、大企業勤めを定年で退職していたりで、それぞれできるかぎりの仕事をしてお金を稼いでいるのだけれど、それでも子どもはこんなに働かなくてはならない。
 
 こういう「高校生ワーキングプア」のエピソードって、読んでいると感動してしまうというか、「いまどき、こんなに家族思いの、頑張っている学生がいるんだなあ。うちの子どもにも見習ってほしい」とか、つい考えてしまうんですよ。
 そういう、美談として消費されやすいところが、この問題をなかなか解決に向かわせないのかもしれません。
 高校生が、生活のために、部活にも入れず、アルバイト漬けで勉強する時間もないなんて、間違っているはずなのに。


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