- 作者: 小林快次
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2019/06/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Kindle版もあります。
- 作者: 小林快次
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2019/07/05
- メディア: Kindle版
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内容紹介
迫り来る「敵」はハイイログマ、毒ヘビ、はたまた盗掘者――! !未知の恐竜化石を求めて、1年の3分の1は発掘調査へ。ゴビ砂漠の灼熱、想像を絶する
大濁流、「墜落しないよう祈れ」というアラスカのヘリを生き延びながら、歩きに歩く。
最終日の大発見に身震いし、恐竜界50年の謎にしぶとく挑み、ついに日本初の「全身骨格」を掘り出した!
恐竜に取り憑かれた学者がその日常を明かす、超スリリングな発掘記。
本書は「恐竜好きのための恐竜本」ではない。
冒険小説であり、研究指南書であり、推理小説であり、人生を映すロードムービーでもある。
(川上和人鳥類学者・森林総合研究所)
著者学術協力「恐竜博2019」展示の「デイノケイルス」「むかわ竜」発掘秘話満載!
カラー口絵4ページに2体の全身骨格写真、「発掘七つ道具」、アラスカの調査風景所収
2019年7月13日から、同年10月14日(月・祝)まで国立科学博物館で開催されている『恐竜博2019』。
その目玉展示ともいえる、「デイノサウルス」「むかわ竜」を発掘した小林快次さんの著書です。
僕はさまざまなジャンルの研究者や学者が書いた本を読むのが好きなのですが(とはいっても、研究内容を書いた専門書ではなくて、研究生活を描いた日記的なものがほとんどです)、この本も、すごく面白かった。
恐竜は1億7000万年にわたって繁栄した。この間に地球上で生まれた恐竜の数に比べれば、いま見つかっている恐竜はたった1%に過ぎないかもしれない。偶然が積み重なって化石となった個体は非常に希少で、そのうち発掘されたものはさらに少ないからだ。だからこそ恐竜学者は、どんどんフィールドに出て化石を取りにいかなければならない。
現在までに1000種類を少し超える恐竜に名前(学名)がついている。そのうち75%はたった6つの国から発見されていることはあまり知られていないだろう。アメリカ、カナダ、アルゼンチン、イギリス、中国、そしてモンゴル。つまり化石が出る国は極端に限られている。
この6つの「恐竜王国」に、残念ながら日本は入っていない。だが日本には異常ともいえるほど恐竜ファンが多く、人気が根強いのはなぜだろうか。勝手な想像だが、もう60年も前から「怪獣もの」が作られてきたことと関係しているかもしれない。ゴジラやウルトラマンを愛する文化がベースになって、恐竜という存在が受け入れられやすかった。実際、今でも怪獣と恐竜を一緒くたに考えている人もいる。
そして近年、フクイラプトル(1988年)やフクイサウルス(89年)、タンバティタニス(2006年)、本書でもお話ししていく「むかわ竜」など、日本で恐竜が発掘されるようになってからは、驚くほどの変化が出てきた。講演会や担当するNHKのラジオ番組「子ども科学電話相談」で出会う子どもたちからは、恐竜を生物として理解しようとする新たな熱意を感じる。そんな彼らにも、自分で発見することの喜びを伝えられたらと願う。
恐竜学者って、ずっと化石を探して掘っているようなイメージがあるのですが、恐竜の化石が遺っているような場所というのは、そう簡単には足を踏み入れられないようなところが多く、せっかく化石をみつけても、ひとりで掘り出せるようなものでもないのです。
さらに、盗掘で貴重な化石が壊されたり、失われてしまうことも多く、その対策も求められます。
学者なんだか、冒険家なんだかわからないような生活に、これは「好き」だけじゃできない仕事だな、と思い知らされました。
もちろん、好きじゃないとできない仕事でもありますが。
自分で言うのも変だが、確かによく化石を見つける方だと思う。これまで発見した数は数えたことはないが、見つけた骨は数千、全身骨格も数十体はあると思う。その理由のひとつに、身長の低さがあると考えている。今回のような国際調査になると欧米の研究者も顔を揃えるのだが、みんな揃って背が高い。化石を発見するにはもちろん経験が必要だが、背の低い方が地面と目の距離が近くなる。そんな数10センチの差で変わるのか? と思うかもしれない。だが、この差がものを言うこともあるのだ。この持論はまだ他の人には話してはいないものの、私が身をもって証明していると言っておこう。
目線の低さに加えて、私が心がけているのは「人と同じところを探さない、同じ場所を通らない」ということだ。砂漠や山の中で何かを探すのは簡単ではない。足元には道すらない。それが何時間にもわたるというとき、人の身体は自然と楽をしようとしてしまう。
恐竜の研究者でも、キャンプを出て化石を探しに行き、一日過ごした後、もと来た道をそのままたどって帰る人が多い。そんなところには、宝(新しい化石)は落ちていない。それでは、せっかくのチャンスを無駄にすることになる。
化石を見つけるには、人の歩いた形跡のないところ、つまり、歩きづらいところを敢えて歩くのだ。どんなに疲れていても、敢えて違う道を歩くように心がけ、常に化石が落ちていないか目を配る。
3つめのニックネーム、「ウォークマン」は、懐かしいポータブルオーディオプレイヤーのことではない。私がよく歩くことからつけられた。どれだけの面積をカバーできたかで発見する化石の数が決まると思っているので、とにかく歩いて、広い表面積に目を通す。
しばらく探して化石が見つからないと、たいていの人はあきらめモードに入ってしまう。しかし私は違う。むしろワクワクしてくる。新しいフィールド、化石産地に行ったときには、「必ずここに恐竜化石はある」と考えるようにしているからだ。
以前、次から次へとこれまでの定説を覆すような石器を発掘して、「神の手」と称された考古学者がいました。
この人は、功名心のあまり、石器を捏造していたことが明らかになり、日本の考古学は大きなダメージを受けたのです。
僕は著者が「貴重な恐竜の化石を次々に発掘している」というのを読んで、まさか……と思ったのですが、この本を読むと、著者の成功の理由がわかるのです。
巨大な恐竜の化石は「捏造」できるようなものではありませんし。
他の研究者よりも広い範囲を探すための試行の積み重ねを続けていること、常に「化石はある」という前提で丁寧に観察していることが、その秘訣なんですね。
とはいえ、目印もない砂漠や大自然のなかの発掘現場も多いことから、危険な目にもけっこう遭っているようです。
実際のところ、私がかつて恐竜学者というものに抱いていたイメージと、現在私が行っているものとは、かなりかけ離れているようにも思う。何か華やかなイメージがあったが、今現在は、非常に地味な作業であると実感している。
ここまでお話してきたように、フィールドに到着すると、ひたすら歩く。今日も歩いて、明日も歩く。とにかく気力と体力の勝負。恐竜骨格を見つけると、削岩機やショベル、ハンマーを片手に土砂と格闘である。よく発掘映像に骨を掘り出している作業が映るが、それは調査機関のほんのひと時の「山場」であって、ほとんどは土砂をショベルで掻いている。
現場では、化石とそれを包み込んでいる母岩を分けず、そのまま保護して発掘すると先に述べた。だから恐竜骨格の全貌がわからないまま、発掘が進むことも多い。もちろん、私たち専門家の目には、一部の露出でもその骨格の重要性がわかるため問題ないが、経験のない人が発掘を見学に来ると、「どこが骨なの?」と何度も尋ねたくなるはずだ。
恐竜化石調査のフィールド作業は、危険が伴うくせに、とにかく地味なのである。それでも無性に行きたくなる。不思議な魅力だ。この魅力がわかる人は、恐竜研究者向きなのだろう。
恐竜の研究者には、少なくともふたつのタイプがある。ある程度データが集まったら、自分の仮設がぽんと湧いてくるので、それをたたき台にしながらデータを増やし、方向を調整しながら書いていく研究者。もうひとつはデータをすべて集めてしまってから結論を出す研究者だ。
どちらも正しいやり方だが、お気づきのように私は前者に当たる。どんどん進みながら、結論にたどりつく。堅実さで言えば後者の勝ちだろうが、驚きのある研究を発表し続けているのは前者と言えるのではないだろうか。あるいは、私はそうありたいと願う。
僕の恐竜学者のイメージって、遺跡の前で静かに思索する考古学者、みたいなものだったんですよ。
映画『インディ・ジョーンズ』をみて、「まあ、こんな考古学者、実際はいないけどね!」って思っていました。
ところが、この本を読んで、そのフィールドワークの様子を知ると、「これは体力と好奇心、そして忍耐力がないと、続けていける仕事じゃないし、あの映画はやりすぎだとしても、あのくらいのバイタリティがないとやっていけないのかもしれないな」と感じたのです。
自分が知らない世界で一流の仕事をしている人の話は、面白い。
ましてや、恐竜の話となれば。
『恐竜博』も、ぜひ見に行きたいと思います。「むかわ竜」を自分の目で見てみたくなったので。
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