琥珀色の戯言

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【読書感想】なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか ☆☆☆

なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか (宝島社新書)

なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか (宝島社新書)

内容(「BOOK」データベースより)
昔から“人気のセ、実力のパ”といわれているプロ野球オールスターゲームの通算成績は、パ85勝、セ79勝。セパ交流戦は過去15回で、パが12回優勝。日本シリーズはここ10年、パが7年連続9回日本一。メジャーで活躍する選手はほとんどパ出身者…。なぜ、こんなにもセパの格差ができてしまったのだろうか?こうした日本のプロ野球に厳然と存在するセパの格差について、ダルビッシュ有投手に魔球「お股ツーシーム」を教えたことで大評判を呼び、著書『セイバーメトリクスの落とし穴 マネー・ボールを超える野球論』(光文社新書)がベストセラーとなった著者が、データと独自の視点で分析・評論する。


 ここ3年間の日本シリーズでは、パ・リーグ(というかソフトバンクホークス)が圧倒的な強さをみせています。
 交流戦でも、パ・リーグの勝ち越しが続いていて、ドラフトの仕組みとしては、ほぼ公平なはずなのに(最近のドラフトの結果をみると、くじ引きでパ・リーグの球団に有力選手が行くことが多い気はしますが)、なんでこんなに差がついているのだろう、と僕も疑問だったのです。

 この新書では、前著『セイバーメトリクスの落とし穴』が話題になった、「ダルビッシュが認めた男」お股ニキさんが、その疑問に挑んでいます。


fujipon.hatenadiary.com


 『セイバーメトリクスの落とし穴』は、長年野球ファンをやっている僕も、「こんな見方があるのか」と驚きました。
 プロの世界というのは、数キロの急速の違いで大きく結果が異なってくること、日本で長年常識とされてきた「ゴロを打てば何かが起こる」「内角を厳しく攻めろ」という考え方が、実際には有効ではなくなっていることなど、「知らなかった……」とつぶやかずにはいられませんでした。

 前作が、「次のことを考えない全力投球」であったがゆえに、今回の二作目は、正直、ちょっと物足りない感じもするのです。
 題名の「なぜメジャーリーガーにはパ出身者が多いのか?」という疑問に対しても、ある程度統計的な推測はなされているのですが、なんだか歯切れが悪い印象もあります。
 もっとも、「これだ!」と、ひとことで言えるようなわかりやすい原因があれば、すでに是正される、あるいは是正しようという動きが出ているはずですよね。


 著者は、両リーグで活躍している投手の身長と体重をプロットした図を示して、こう述べています。

 こうして見てみると、野手と同様に一目瞭然で、高身長で体重の重い大柄な体格の投手の多くがパ・リーグ出身か、在籍していることが分かる。
 また、野手と同様見逃せないのが、左下にプロットされダルビッシュ有がその高校時代に絶賛していた山岡泰輔(オリックス)や、松井祐樹(楽天)、美馬学(ロッテ)のグループで、長身が有利になりがちな投手では異彩を放っている。
 身長が高いほど球速が出やすいのは確かではあるが、彼らは身体の使い方や力の伝え方が抜群にうまいのだろう。
 ある意味、投球のセンスや身体の使い方においては最高峰で、体の力を100%近くボールに伝える技を会得しているとも考えられる。
 オリックスの山本由伸もそれほど大柄ではないが、驚異的な投球をすでに披露している。
 パ・リーグでは、打撃と同様に圧倒的なフィジカルを誇る長身で大柄な投手を獲得して、力を発揮させているとともに、小柄でも優れた技術やセンスを持つ才能もしっかりと見極めて獲得し、戦力化できているといえそうだ。


 選手の身長・体重の平均値で比較すると、セ・リーグパ・リーグにはほとんど差がないそうです。
 パ・リーグは、大柄で馬力がある選手を積極的に獲得して育てるのと同時に、小柄でも、技術がある選手を体格だけで回避しない、というスカウティングの特徴があるのです。
 そういう大型の選手、あるいは、技術が極めて高い選手だからこそ、メジャーリーグに適応しやすい(あるいは、メジャー移籍を志向しやすい)のではないか、ということなんですね。
 個人的には、巨人やソフトバンクのように「待遇は良いけれど、ポスティングしてくれ、という要望が通りにくい球団」と、日本ハムや西武のように「活躍して年俸が上がった選手は無理に引き止めず、新しいチームをつくるという方針の球団」が存在していて、パ・リーグのほうが「世代交代推進型」のチームが多いからではないか、とも思うのですが。
 どんな選手でも、若いうちにメジャーリーグに挑戦したほうが、結果を出しやすいのは事実でしょうし。


 この本には、興味深いデータがたくさん詰まっていて、監督の「采配力」を数値化したものもありました。
 カープファンとしては、緒方監督の「采配力」は、リーグ三連覇したにもかかわらず、こんなものだったのか……と物申したいところではありますが、多くのカープファンが優勝しながらも緒方采配に不満を抱いていたのは、それなりの理由があった、ということなのでしょう。
 ただ、著者も言及しているのですが、今回のデータは、中継ぎ投手の質の影響が大きかったそうで、それは現代の野球でシーズンを戦っていくうえで当たり前のことだと考えるべきなのか、さすがに重視しすぎなのか、なんとも言えない感じではありました。
 それぞれの監督の年度別の評価が「WAR」(リプレイスメント:代替可能選手、と比較して、どれだけの勝利数を個人で上澄みできたか)という指標であらわされているのですが、最近の12球団で最もこの数値が高かったのは、この監督だったそうです。

 監督WARでダントツの数字を叩き出した”名将”がいる。現・中日ヘッドコーチの伊東勤である。
 ロッテの監督を勤めた5年間のうち、監督WARが算出できる2014年以降の4年間全ての年で、監督WARが1位、平均で9.642と算出された。
 1年だけの数字ではなく4年間を通じて12球団トップで、ダントツの数字を残した伊東采配には、さすがに何かあるのではないだろうか。単純に考えて、伊東監督の存在によって毎年戦力より10勝近く多い勝利がもたらされたことになる。
 ロッテ特有の何らかの要因があったのかもしれないが、後任の井口資仁監督の数値はマイナスとなっている。
 仮に伊東監督が2019年のセ・リーグのチームを率いていたとしたら、勢力図に大きな影響があったとも考えられる。
 戦力の割に勝たせてしまうがゆえに、フロントが戦力補強を怠り、また有能ゆえにその姿勢に腹が立ちフロントと対立してしまったのかもしれない。


 チームの成績がさほど目立つものではなかったので、ロッテ時代の伊東監督は印象が乏しいのですが、データでみると、伊東監督だったからこそ、あのくらい勝てていた、ということになるのです。
 監督によってチームは変わるとは言うけれど、どのタイミングで、そのチームの監督になるか、というのは、かなり大きい。
 有能な監督も、長年やっているうちに浮き沈みがあり、多くは長期政権になるとWARが低下していくようです。
 日本ハム栗山英樹監督のWARも2016年に日本一になって以降は低下傾向で、今年、成績不振の責任をとっての退任が取りざたされたのは(栗山監督本人は辞任の意向だったようですが、フロントに説得されて留任)、勝負勘や勝負運といったものの低下を自覚していたからなのかもしれません。もちろん、主力がどんどん流出していく、というチーム方針の影響もあったのでしょうけど。


 最初に「前作に比べると、驚きや感動は少ない気がする」と書いたのですが、この新書はかなり短期間でまとめられ、そのおかげで、2019年シーズンの最終成績まで反映されているのです。カープファンとしては、菊池涼介選手のポスティングやメジャーリーグでの可能性についても言及されていたのも読みどころでした。
 「第一作の目新しさはない」のだけれど、お股ニキさんの本は、「選手名鑑」や「年間データブック」みたいな感じで、毎年、そのシーズンのデータや活躍した選手についての解説を更新していく、という形にするのも有りなのかな、と思いました。
 どんなに「第一作は……」と言ってみたところで、データが新しいほうを手に取るのは、eスポーツだけではないはずから。


マネー・ボール〔完全版〕

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マネーボール (吹替版)

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video

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