- 作者: 野村克也
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2013/09/18
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。僕はこちらで読みました。
- 作者: 野村克也
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2013/10/25
- メディア: Kindle版
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内容紹介
監督生活24年、辛口ノムさんが弟子たちから選んだ珠玉のナインを初公開!!
「僕もノミネートされて光栄の極みです」宮本慎也
辛口ノムさんのお眼鏡にかなったのは誰か? 読み始めたら止まらない! かつて監督を務めた南海、ヤクルト、阪神、楽天のチームメイトの中から、 まずは候補者50人をノミネート。そこから「ベストナイン」を決定! 9 つのポジションに加えて、投手は「先発」「救援」に分け、その他「再生」 というカテゴリーも設定し、それぞれから選出した結果、計13人に。い ったい誰が選ばれるのか? おなじみのノムさん語録満載、弟子たちの生き様とともに人生哲学も学べる 濃厚な一冊!
野村克也監督(厳密には、いまは監督じゃないんですけど)、本を書きすぎなのでは?などと思いつつ、徒然にKindle版を読んでみました。
「野球界の歴代ベストナイン」とかじゃなくて、野村さんがそれなりに長い時間接した選手のなかから選んでいるため、最初は「なんか地味な選手がけっこういるな」と感じたんですよね。
こういう「ベストナインもの」なら、「ああ、ファーストは王貞治、サードは長嶋茂雄、カープファン補正を抜きにしても、センターは山本浩二(いや松井秀喜?)……」とか、ある程度予測ができるじゃないですか。
ところが、この本を読んでみると、野村さんが紹介している選手たちは、「たしかにいい選手ばかりだけど、この人が『ベスト』なの?」と感じる人が多かったのです。
でも、「野村さんが身近に接してきた」という条件を厳格に運用するのなら、確かに理解できるチョイスではあるんですよね。
そして、こういう地味な選手たちを率いて、あれだけの実績を積み重ねてきた野村克也恐るべし、とも思いました。
率いてきたチームが、南海・ヤクルト・阪神・楽天だからなあ。
いずれも、就任の時点では「普通にやれば勝てる」という強さのチームではありません。
野村さんが選んだセカンド、誰だと思います?
二塁守備はお世辞にも華麗とは言えなかったが、打球を体に当てて前に落とす。泥臭いプレーが身上だった。
進塁打を打つのも徐々に上手くなっていった。バットを二握りくらい短く持って打席に臨む。まず一塁走者の飯田が走るまで、自分のバッティングカウントがわるくなっても待っている。
盗塁を助けるために、捕手が二塁に投げにくいような動作もする。自らがアウトになっても走者を進める、打率が下がっても自己犠牲の進塁打を厭わなかった。
試合で殊勲打を放ちヒーローになっても「オレはいいよ」とお立ち台に上らず、記者泣かせだったと聞いた。サイン色紙に書く座右の銘は「謙虚」の二文字。もう完全に脇役に徹していた。
(中略)
「タイトルや勲章がないことが、僕の勲章です」
主役を彩る土橋こそ「脇役の主役」だ。まさに陰のMVP、ベストナイン二塁手だ。
野村さんが「ベストナイン二塁手」として選んだのは、土橋勝征選手だったのです。
渋いチョイスだよなあ……
こういう「脇役」への評価に野村さんの「愛情」を感じるのと同時に、「スターじゃない、そういう選手たちを率いて、これだけの成績を残してきたのだ」という野村さんの矜持が伝わってきます。
ちなみに、この「二塁手」では、野村さんの「ID野球」のきっかけとなった、ドン・ブレイザーの項も非常に興味深いものでした。
豪快な投手と打者の勝負だというイメージがあるメジャーリーグですが、日本よりずっと前から「考える野球」が行われていたのだなあ、と。
この本、選手の紹介だけではなく、野村さんが実際に接してきた相手ばかりなので、さまざまなエピソードも書かれていますし、「野村さんが、そのポジションの野球選手に求めているものは何なのか?」「大スターではない、いぶし銀の選手たちを、どう活用してきたのか?」がわかります。
「本物のプロ」の凄さや「プロ野球選手たちの本音」の一端も。
昨年(2013年)引退した、ヤクルトスワローズの宮本慎也内野手の言葉を、野村さんは紹介しています。
「投手が打ち取った打球を確実にアウトにする。難しいゴロでもファインプレーに見せず、簡単にさりげなくアウトにする。そうすれば投手は自分の球はまだ大丈夫だと自信を持つ。それが思いやりのプレーだと思う」
宮本の守備におけるポリシーだ。
ちょっと守備がうまい選手であれば、ファインプレーで、自分をアピールしたいはずです。
しかしながら、宮本選手は「そのさらに上」を求めていました。
難しいゴロを難しくさばくより、簡単にさばいているように見せるほうが、はるかに大変なことです。
しかもそのすごさは、素人には伝わりにくい。
でも、「ピッチャーを勇気づけるため」、そして「チームのため」に、宮本選手は、あえてその難しくて地味なプレーに徹していた。
たしかに、こういう選手がいるチームは、強くなるよね。
ヤクルトスワローズの岡林洋一投手について、野村監督は、こう述懐しています。
続く西武との日本シリーズでも岡林は第1戦、4戦、7戦と完投してくれた。ドロンとしたカーブは、西武打線に非常に効果的だった。
まさに闘志あふれる孤軍奮闘の投球。ペナントレースからの鉄腕ぶり。だから熱烈なヤクルトファンに言わせれば、「岡林は特別な存在」らしい(3試合3先発3完投、投球回30、投球数430。1勝2敗0S、防御率1.50、日本シリーズの投球回30は1959年南海・杉浦忠以来33年ぶり。3完投は64年南海ジョー・スタンカ以来)。
日本シリーズは短期決戦だから、エースの宿命として連投というのは当然あるのだが、当時は「登板過多が原因で肩を壊した」と新聞に書かれて、そんなに投げさせてしまっただろうかと私も気を病んでいた。
肩を痛めてから、優勝祝賀会やオフの球団納会では「壁の花」であることが多く気の毒だった。それでも何かの番組で「同じような状況でもう1度投げろと言われれば、喜んで投げます」と岡林が言ってくれたことを人づてに聞いて、私は安堵した。
2013年の日本シリーズでも、2、6、7戦に登板した、楽天・田中将大投手が「登板過多」なのではないかいう人がいました。
20年前よりも身体に負担がかかる変化球の割合は多くなっていますし、とくに第6戦で160球を投げ、3点リードで迎えた7戦目の9回の登板は「勝つためとしても、本当に必要だったのか?」という気もします。
ただ、この岡林投手の言葉からは「それでも、大事な場面で意気に感じてしまうのがプロ野球選手であり、ピッチャーなのかな……」と感じます。
だからこそ、監督やコーチが止めなければならないのかもしれませんが……
野村監督は、伊藤智仁投手に関しても「酷使」を後悔しておられます。
しかし、「選手の身体のために大事に使いすぎて、勝負に敗れてしまう」というのは「いいひと」ではあっても、「いい監督」とは言い難いのですよね。
「ビジネスの話」「人生訓」みたいなものに昇華しようとせず、ひたすら「野村さんが、野球の話に徹している」というのは、かえってこの本の魅力を高めているのではないかと思います。
興味を持たれた野球ファンは、一度読んでみてください。