- 作者:じゅん, みうら
- 発売日: 2020/03/10
- メディア: 文庫
Kindle版もあります。
内容紹介
「オカンが日記を盗み読みしてる!」とピンときて、わざと妄想上の彼女とのデートを綴った中3の思い出から、VRを初体験しエロ仮想現実に大興奮した昨今の出来事まで。
"人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた”の書き出しでおなじみ、「週刊文春」の連載「人生エロエロ」をまとめて100話大放出、文庫オリジナルで一気読み!
「『人生エロエロ』の単行本を読むことがマイブーム」という有働由美子キャスターとの対談も収録。
カバー絵は人気イラストレーター、たなかみさきさんの描き下ろし。
「人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた。」
この書き出しで毎回始まる、みうらじゅんさんの「エロ&妄想エッセイ」、『人生エロエロ』を100話集めて文庫化したものです。
内容は本当に「男の妄想、あるいはエロスの暴走」という感じで、「ああ、学生時代の『男子トーク』を思い出すなあ……」と、なんだか懐かしくなってしまいます。
いまの感覚だと、「女性を何だと思っているんだ!」と怒られそうではありますが、なんというか、みうらじゅんさんは、ひたすらエロにまっすぐなんですよ。権力を使ってとか、恋愛工学を学んで、とかいうんじゃなくて、「その気」がありそうな相手との駆け引きにすべてを賭けている。
まあでも、こういう話が、許されてしまうというのは、みうらじゅんさんとか、リリー・フランキーさんの人徳というか、長年の積み重ねっていうのもありますよね。
彼女と別府に旅行に出かけたときの話。
宿は現地で適当に捜そうと思っていたのが甘かった。平日なのにどこも満室。駅周辺を長時間ブラついたので彼女の機嫌はどんどん悪くなった。
ようやく見つかったのは「ここ、絶対、出るよ」と、外観を見るなり彼女が言った陰気な旅館。ま、その分、宿泊費も安くこちらとしては助かったし、大浴場とは別に家族風呂があったこともカップルとしては嬉しかった。
「私、霊感が強いんだから」
夕飯を食べてる間もしきりに言うので、「大丈夫だって。出たら俺が退治してやるから」と、ここは信頼感を得ようと心掛けた。しばらくすると仲居さんが「家族風呂、空きました」と呼びに来たので僕は消沈する彼女の肩を押し部屋を出た。
「いい感じの風呂じゃん」
やたら照明が暗いのはカップルへの配慮とみた。そして、二人で湯舟に浸かりいちゃいちゃしようと思った矢先、「コ、コレ……何っ!?」と彼女が強張った声で指さしたプカプカ浮んだ物体、僕はてっきり湯の華だとばかり思っていたが色が全く違う。さらに顔を近づけて見ると鼻がひん曲がりそうな臭いが……
「コ、コレ、ウンチだ!!」
部屋に戻り、僕はウンチの出元を考察した。
「たぶん前に入った家族のガキが漏したものに違いない。そもそも親の教育がなってねぇし、旅館側も不注意だよ!」と熱く語ったが、そんなことより我れ先に湯舟から飛び出した僕に彼女はすっかり信頼感を無くした様子だった。
食事中の方、すみません(……って、さすがに食べながらこれを読んでいる人はいないと思うけど)。
単にモテた、エロいことをした、という話じゃなくて、こんなふうにオチまでついているエッセイが100話ですよ。
オチっていっても、苦し紛れに妄想で押し切ってしまうような話もあれば、これのように、ウンチネタかよ!と言いたくなってしまうものもあり。
読んでいくうちに、みうらさんの変幻自在のエッセイの技の数々に、なんだかトランス状態になってくるのです。
「人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた。」という書き出しで、こんなにいろんな話を書ける人は、稀有ではなかろうか。
巻末には、有働由美子さんとの対談が収録されています。
有働さんは、この対談のなかで、深夜に帰宅してビールを一杯飲みながら『人生エロエロ』の単行本を読むことがマイブームだ、と仰っているのです。
有働由美子:「人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた」で毎回始まるあのコラムでは、毎回みうらさんが経験されたエロに関するエピソードをいろんな視点から紹介しています。すべて実体験なんですか。
みうらじゅん:いや、もちろん個人的な話ですが、ずいぶん盛ってます。ただ、プラスに盛ると「自慢している」とか怒られちゃうので、”マイナス盛蔵”で書いています(笑)。友達がしでかしたいやらしい出来事も僕が引き受けたり、「あえてエロの汚名を着て」というのがテーマです。
有働:(笑)。確かに手柄を自分のものにすると怒られますけど、マイナス盛りはむしろ喜ばれる。
みうら:週刊文春の中でエロを扱っているのは僕のコラムも含めてたった二ページしかないんです。エロの火を絶やし、真面目な方向だけにいっちゃうのもよくないと思ってます。
まるで男子高校生の会話のような、エロとバカの絶妙のハーモニー。エロにとっては肩身が狭い世の中ではありますが、こういうのが全くなくなってしまうのも、それはそれで寂しいような気がします。
ちなみに、この本のなかには、「嫌がっているのを無理やり」みたいなのはひとつもありません。みうらさんが好きなのは、「エロそのもの」というより、男と女の駆け引き、なのかな、とも思うのです。