琥珀色の戯言

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【読書感想】世界の刑務所を訪ねて ☆☆☆


Kindle版もあります。

世界の刑務所を訪ねて(小学館新書)

世界の刑務所を訪ねて(小学館新書)

内容(「BOOK」データベースより)
世界の刑務所は、日本の刑務所と大きく違っていた!アメリカ、ジャマイカフィンランドバルト三国、イタリア、オーストラリアなど世界各地の刑務所の実態と、再犯防止策をレポート。さらに、日本の再犯防止のための取り組みとして、官と民の協力で運営され、職業訓練などに力を入れている“新しい刑務所(PFI刑務所)”や、犯罪をした者の自立更生を支える保護司の活動と更生保護施設の実情を紹介。こうした状況を踏まえ、日本を犯罪のない安全・安心な社会にするために何が必要なのかを提言する。


 刑務所、ねえ……
 犯罪者の処遇を改善することにお金を使うくらいなら、まっとうに生きている人たちのための使い道を探したほうが良いんじゃないの?とか、つい言いたくなってしまうのです。
 でも、社会の安定とか再犯の防止、犯罪者を国家で養うためにかかるコストなどを考えると、刑務所というのは「とにかく犯罪者を閉じ込めて懲らしめ、反省させればいい」というわけではなさそうなのです。
 今の刑務所で何年、何十年もの刑を受けていても、出所後の再犯者の割合は、かなり多くなっています。

 再犯者による犯罪が多いのは、いまに始まったことではありません。1948年から2006年までに裁判で有罪が確定した犯罪者100万人を調査したところ、全犯罪者の3割を占める再犯者が、なんと全犯罪のおよそ6割を実行していることがわかりました。犯罪の大半は、一度は刑務所に入ったことのある人たちが起こしているのです。したがって、もし刑務所を出た人たちが二度と罪を犯さなくなれば、犯罪件数は劇的に減るでしょう。

 現在、日本の刑務所の収容コストは受刑者一人あたり一日1500円程度(そのうち食費は約500円)です。ただし、そこには刑務官の人件費や施設維持費などが含まれていません。それらを含めた総額を受刑者数で割ると、年間費用は受刑者一人あたり約300万円です。ただし、これは刑務所に入ってから出所するまでのコスト。犯罪者に関しては、それ以前からさまざまなコストがかかっています。警察や検察などの捜査や拘置所での留置、そして裁判などにかかる費用を加えると、犯罪が認知されてから刑務所を出るまでのコストは一人あたり1000万円を軽く超えてしまうでしょう。


(中略)


 たとえば5年ぐらい実社会から隔離されていた人が、いきなり塀の外に出されたらどうなるのかを、ちょっと想像してみてください。刑務所では朝から晩まで命じられたとおりに規則正しい生活をすることになりますし、食事もきちんと与えられます。ところが自由の身になった途端、誰も面倒をみてくれない。お金も大して持ち合わせていないので、すぐに無銭飲食をして捕まってしまう人もいます。
 ただし、すべての受刑者がいきなり実社会に出ていくわけではありません。所定の刑期が終わる前に仮釈放となって出所した人は、あとで詳しく説明する「保護観察」を受けながら徐々に社会に馴染んでいけるようになっています。いわば自動車運転の仮免許を手にした人が、助手席に指導者に乗ってもらって公道を走る練習をするようなものだと思えばいいでしょう。本格的に社会復帰するまでに適切な指導を受け、そのあいだに住居や仕事を見つけるなどして、「ソフトランディング」するわけです。
 しかし満期で出所した人には、保護観察という段階がありません。しかも、仮釈放を認められずに満期まで刑務所で過ごすのは、素行が悪い、反省した様子が見られない、あるいは、住居がないなど、本人または環境に何かしら問題のある受刑者が多いのです。それがいきなり実社会に放り出されるのですから、再び犯罪に走ってしまう可能性は仮釈放の人よりも高くなるでしょう。やはり「ハードランディング」は危険です。


 いまの日本の制度では、「再犯しそうな人」ほど、いきなり塀の外に出されて、社会復帰がさらに難しくなっているのです。
 悪いことをした人が苦労するのは当然、とは思うけれど、お金もないし、前科があると仕事も見つけにくく、家も借りにくい、ということになると、結局のところ、「食べていくために再犯をし、刑務所に入ることを望む」ような人も増えてしまうのです。
 それで、年間一人あたり300万円もお金がかかっているわけですから、うまく「更生」してくれて、自活してくれれば、かなりのコスト削減にもつながります。
 人をひとり監視しながら食べさせる、というのは、こんなにお金と人手が要るものなのか、と考えずにはいられません。

 この本では、アメリカや北欧、オーストラリアなど、西欧諸国の刑務所を著者たちが実際に訪問してレポートしているのですが、西欧諸国の刑務所は、日本に比べて開放的で、最近は、受刑者の待遇も改善されているそうです。アメリカの刑務所には、電話やシャワーを受刑者が自由に使える、という施設もありました。もちろんその犯罪の内容と刑期にもよるのですが。殺人などの罪や性犯罪については、どの国も厳しく対応しているようです。

 
 最近は、受刑者数の増加によるコストを削減し、社会復帰を促すために「電子監視」というシステムを導入している国も増えているそうです。

 ちなみに、フィンランドエストニアで行われている電子監視は、GPSを使うものではありません。受刑者の足首などに「タグ」と呼ばれる装置をつけ、そこから電波が発信されます。受刑者は、その電波を受信する機器の近くにいなければなりません。たとえば決められた時間帯に自宅での待機を命じられた場合、自宅に設置された受信機から離れると電波が受信されず、管理当局に「不在」というシグナルが送られるわけです。
 ほかの国でもGPSを使う電子監視はそれほど多くありません。GPSを使用するのは、おもに性犯罪者やストーカーです。


 たしかに、みんなにGPSをつけたとしても、それをずっと誰かがチェックするというのは、なかなか大変ではありますよね。
 人権問題もあるでしょうし、「電子監視」といっても、現時点では、そこまで厳格なものではないようです。今後は、AIの導入などによって、もっと積極的に「刑務所の外で監視する」ようになっていくのかもしれません。

 日本でも、刑務所の運営にPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ:公共サービスの提供を民間主導で効率的に行うやりかた)が採り入れられてきているそうです。
 もちろん、刑務所の場合には、取り調べや懲罰、保護室への収容というような業務もあるため、すべて民間任せ、とはいかないところがあり、それらの公権力の行使については、政府の職員が行っています。
 2007年4月に運営がはじまった「美弥社会復帰促進センター」は、比較的刑が軽い受刑者を対象とした施設で、さまざまなテクノロジーが駆使されています。

 吹き抜けの中二階には、監視室を配置。ひとつの監視ポストで多くの受刑者の監視ができるので、少ない職員で効率的に業務を遂行できるようになりました。
 受刑者は、平日の夜と休日の午後の余暇時間に、多目的ホールでe-ラーニングなどの自主学習、読書、受刑者どうしの談話などをすることが許されています。前に紹介した海外の解法刑務所ほど自由度は高くありませんが、これは国内の従来の刑務所にはないことで、「半開放処遇」と呼ばれる新しい試みです。
 明るく開放的な雰囲気とはいえ、ここは刑務所ですから、受刑者の逃走などの自己を防止する警備システムがきわめて重要であることはいうまでもないでしょう。PFI刑務所では、そこにも民間のノウハウを生かした体制を築いています。
 たとえば「セーフビュー」という電話ボックスのような装置は、人体に害のないミリ波を利用して短時間で所持品検査を行えるもの。凶器や道具などを隠し持っていても、衣類の上から金属やプラスチックを検知して、3D画像でモニターに映し出します。最先端の薬物検知器も設置。施設への来訪者のセキュリティチェックに使います。
 また、受刑者は胸ポケットに位置情報を受信するICタグをつけており、監視室では全員の居場所を常に把握。効率的な監視ができるようになったと同時に、職員の付き添いなしで施設内を移動できるため受刑者の自由度が高まりました。
 敷地を囲む二重フェンスには、ITを駆使した「コンビネーションセンサー」という警備システムを導入。そのセキュリティレベルは、コンクリート塀の刑務所と変わりません。それに加えてドローンも用意し、固定カメラでの監視では行き届かない部分も補っています。


 島根あさひセンターでは、所内に日用品などの買い物や家族への郵送、図書貸し出しの予約などができるキオスク端末も設置されているそうです。
 こんなに自由で明るくて便利な刑務所なら入ってみたい……とまでは思いませんが、再犯を防ぐためには「厳罰主義」よりも、「社会復帰しやすい環境づくり」や「教育」が重視されてきているのは、世界的な傾向のようです。


東大から刑務所へ (幻冬舎新書)

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