琥珀色の戯言

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【読書感想】ルポ 老人受刑者 ☆☆☆

ルポ 老人受刑者 (単行本)

ルポ 老人受刑者 (単行本)


Kindle版もあります。

ルポ 老人受刑者

ルポ 老人受刑者

内容(「BOOK」データベースより)
増え続ける高齢の受刑者、福祉施設化する刑務所…受刑者・出所者の生の声、刑務所・更生保護施設への現場取材を通し、塀の内と外のリアルに迫る。


 日本全体の高齢化にともなって、刑務所に収容されている受刑者も高齢化している、というのは以前にも聞いたことがありました。
 身寄りがなかったり、家族からも縁を切られたりした高齢者は、刑期を終えて「社会復帰」しようとしても、まとまったお金も仕事も居場所もなく、再犯でまた刑務所に戻ってくることが少なくないのです。
 そういう高齢の受刑者が増えたため、刑務所は「更生のための施設」というよりは、介護施設という役割を果たさなければならなくなっています。

 刑務所に収容されている「老人受刑者(65歳以上)も、年々増加し十年のスパンで見てみると2007年(平成19年)の全受刑者「7万989人」に対して高齢受刑者は「1884人」で全体の2.65%。2017年(平成29年)は同「4万7331人」に対して同「2278人」で全体の4.81%を占めている。また、顕著な特徴は70歳以上の受刑者が急増したことだ。その比率は十年前に比べて4.8倍に増加した。さらに、再入所率(再犯者)は7割を超えている。そのなかには「クレプトマニア」(病的窃盗)の受刑者が相当数含まれている。
 同年の出所者は2万3086人(満期9159人、仮釈放1万2760人、その他)で、そのうち65歳以上の高齢者が2900人(満期1761人、仮釈放1139人)。帰住先は「家族や親族、知人」の許に六割。残りは「保護会や福祉施設、病院」などであった(平成30年版「犯罪白書」)。
 この数字を見ても分かるように刑務所人口は全体的に減少傾向にあるが、特徴として「老人受刑者」だけが増加している。では何故、老人受刑者が増えているのか。それは、社会からスポイルされた環境のなかで生活を維持する手段を見失ってしまったからではないのか。そして「衣食住」を保証してくれる刑務所生活を選択してしまう。彼らにとって刑務所が唯一の「安全圏」なのだ。その安全圏を求めて再犯を繰り返す。そこに刑務所が「老人施設化」していると、社会の批判を浴びるのだ。


 著者は、全国の刑務所、とくに高齢の受刑者が多い刑務所を実際に訪ね、そこで、刑務官や受刑者の社会復帰をサポートしている人々、そして、受刑者自身にも取材をして、この本を書いています。
 
 読んでいると、この問題に良い解決法があるのだろうか……と考え込まずにはいられないのです。
 まだ若い受刑者の場合、肉体労働などの仕事を紹介してくれる団体もあるのですが、それでも、すぐにやめてしまう人が少なくないそうです。
 もともとそういう我慢がきかない人だったり、人間関係のトラブルを起こしやすい人だから、仕事が続かないのではないか、という理由とともに、著者は「刑務所から出てきたからという理由で、まともな労働契約を結ばれていない可能性もある」と指摘しています。
 給料が相場より安く設定されていたり、休みがもらえず、きつい仕事ばかりさせられたり……
 雇用する側は「元犯罪者を雇ってやっている」と思っているのかもしれませんが、働いている側からすれば、「同じ仕事をしているはずなのに、なんでこんなに条件が悪いのか」と不満になってくるのもわかります。
 最初は「雇ってくれるだけでありがたい」と感じていたとしても、時間が経てば「他の人との格差」は気になってくるでしょうし。


 著者は、栃木県にある「黒羽刑務所」を訪れ、他の工場での刑務作業が困難な”要介護者”を主として集めて作業をさせている「10工場」の高齢受刑者について取材しています。

 星真一看守部長へのインタビューより。

──処遇上、いちばんの問題点はどんなことですか。


星:「物忘れ」のひどい受刑者の扱いです。この工場では”処遇指標m”の受刑者が働いていますが、なかに二人が「認知症」と診断され、あとでインタビューすると思いますが、阪田茂樹(仮名)の症状が進行していることが心配なんです。年齢も79になるので気がかりです。


──「物忘れ」の具体的な症状とは、どんなところで把握できるのですか。


星:刑務所は集団生活ですから、マニュアルといいますか、所内生活の遵守事項がこまごまと定められています。例えば”洗濯日”も毎週、曜日によって”パンツ、シャツ、房内着”と分けて各人が袋に入れて工場に持ってくるんですが、阪田の場合は毎回、指定されたものと違う洗濯物が袋に入れてあるんです。注意すると、その時は「次回からは約束を守ります」と返事がありますが、次の洗濯日では指定された洗濯物とまた、違うものが袋に入れてある。その繰り返しなんです。注意は怒鳴ったりはしません。本人は「認知症」の自覚がないんです。


(中略)


──刑務所は、いまや、「介護施設」「老人ホーム」になってしまったなどと、非難されることがありますが、現実はどうなんでしょうか。


星:その捉え方は当てはまらないと思います。確かに高齢受刑者は増加していますが、反面、刑務官の定数は増えずに、仕事量は増えるばかりで高齢者の介助に時間を取られてしまいます。刑の執行が刑務所の役割ですが、要介護者の処遇は執行と同時に「健康や安全」といった面からも一般受刑者よりも気を使うんです。一般社会の施設に比べて、ここが「介護施設」と呼ぶだけの設備と人材を揃えているとは思えません。第一”理学療法士”の資格をもった職員は勤務していませんから。それでも、経験を通して学んだ要介護者の介助をなんとか、こなしているのが実情なんです。


──最後の質問です。受刑者に対してもっとも神経をつかう仕事はなんですか。それと、作業報奨金のことを教えてください。


星:受刑者にとっていちばんの楽しみは食事なんです。配食のときが神経を使います。”汁物”が献立に出ると食器に均等に入れても多い少ないの差が出てしまいます。そこで、調整するために”レンゲ”を使ってさらに均等に盛り付けします。受刑者全員の目が光っていますから……。配食の担当は用務者なんですが、役得がないように盛り付けはわたしがやります。どこの工場でも担当さんがいちばん神経を使うのは、食事の配食のときだと思います。
 作業報奨金は月に一回、本人に告知します。平均して月額三千円、この金額に対してなかには「シール貼りの仕事で多すぎないか」なんて言うものもいますが、その時は「仕事の成果なんだから間違いないよ」と、教えるんです。本人は嬉しそうな表情になります。「仕事の成果」を理解してくれるんですね。


 刑務官って、もっと偉そうというか、受刑者を「支配」しているようなイメージを持っていたのですが、このインタビューを読んだかぎり、現在の刑務所では、かなり受刑者に配慮した運営が行われているようです。食べ物の恨みは恐ろしい、とは言うけえど、刑務所で、わざわざレンゲまで使って、刑務官が同じくらいの量になるまで取り分けているとは思いませんでした。

 著者は、このあと、阪田茂樹氏(79歳)という認知症の診断を受けている受刑者にもインタビューをしています。

 阪田氏が刑務所に入ったのは2016年6月で、満期出所は2019年10月予定だそうですが……

 阪田は「黒羽に来たのは秋口のころで長袖を着ていた」と記憶を遡っていたが、どうやら、認知症が進行してきたのではないのか。それに、「出所日」も正確に覚えていない状態では、出所後の生活にも当然、介護処置が必要になってくる高齢受刑者なのだ。
 記憶は時代を遡るほど蘇ってくるようだが、逆に時間が経過するに従い新しい記憶は薄れてしまう「認知症」の典型的な症状を発症していた。だが、家族の消息については記憶が相当ずれていた。私は質問を続けた。


──お父さんのお生まれはいつですか。


阪田:大正ニ年(1923年)です(はっきりと答える)。


──ということは、今年百五歳か百六歳になりますね。最近、お会いになっているのですか。


阪田:そんな歳ですか。東京に出てからはほとんど会っていませんが、風の便りで健康な生活を送っていると聞いています。


 客観的にみれば記憶障害がかなり進んできているのですが、本人にはその自覚がきわめて乏しい、というのが「認知症」の典型的な症状でもあるのです。
 こういう現状を知ると、高齢者の犯罪のなかには、認知症が原因のものが少なくないように思われます。
 もちろん、あからさまに認知症、という高齢者は量刑で配慮されるでしょうけど。
 ふだんは「年齢のわりにしっかりされてますね」なんて言われているけれど、記憶障害が進行している場合、本人が動けるだけに徘徊による事故などのリスクも高くなります。
 そもそも、こういう状態になった人を「更生」させるために刑務所で働かせる、ということに意味があるのだろうか……
 とはいえ、相手にどんな理由があろうとも、被害を受けた側としては「ものを盗む能力があって、それを実行したのなら、犯罪だろう」と思いますよね……

 高齢化がさらに進み、家族制度が崩壊していくこれからの世界では、刑務所が行き場のない高齢者のセーフティネットになっていくのは避けられそうもありません。
 それが、刑務所の本来の目的とは異なる利用法であるとしても。


刑務所の中

刑務所の中

 

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