琥珀色の戯言

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{本]鮨水谷の悦楽 ☆☆☆


鮨水谷の悦楽 (文春文庫)

鮨水谷の悦楽 (文春文庫)

■内容紹介■
銀座「水谷」がまだ横浜にあったころ、12ヵ月にわたり鮨の四季を綿密に取材し、人気店の秘密を遺憾なく披露する格好のガイド本

 読んでいると(というより、「写真を見ていると」のほうが正しいかも)、ああ、この鮨を食べたい!と思わずにはいられない本です。
 これまでの鮨ガイド本とのいちばんの違いは、ミシュランで3つ☆を獲得した名店「鮨水谷」に月1回ずつ通って、そのときの旬のメニューについて紹介していることでしょう。
 僕は回らない鮨屋にはほとんど縁がないし、スーパーで自分で魚を買うこともほとんどないので、「旬」というものに本当に疎いのだな、ということを思い知らされました。それにしても、日本屈指の鮨屋というのは、ここまでこだわった仕事をしているのか、と驚かされる本ではあります。

 僕が水谷さんの店に通うことで得た最大の財産は、鮨の旬は春夏秋冬で分かられるほど単純なものではないと知ったことだ。冬を旬とするヒラメなら12月、1月、2月とその月ごとに味も脂ののりも微妙に変化していく。そして春から夏、夏から秋といった季節の変わり目にも、その時期ならではのたねがある。それは3月の佐島のタコであり、6月の浜名湖産の天然クルマエビであり、9月のイクラやソゲだったりする。こうした味は、毎月通ってこそ出会うことができるものだ。それを余すところなく紹介するためには、やはり12ヶ月の握りをすべて撮影する必要があった。

 ただし、この店でより旨い鮨を食べたいと思うのであれば、鮨だねについてある程度の知識はあったほうがいい。
 もちろんややこしい薀蓄を仕入れていく必要はない。それは例えば、白身魚なら冬はヒラメ、夏はカレイが旬、貝なら冬は赤貝やハマグリ、夏はアワビが旬、このくらいのことを憶えておけば十分だ。あとは通い続けるうちに、こちらが黙っていても自然にわかるようになる。『鮨水谷』はそういう店である。

 まあ、お店の場所(銀座)からも価格からも、僕が「毎月通える店」ではありえないのですが、とりあえず美味しそうな鮨の写真を眺めているだけで、ちょっとだけ幸せな気分にはなれる本です。

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