琥珀色の戯言

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教科書に載った小説 ☆☆☆☆


教科書に載った小説

教科書に載った小説

誰もがかつて手にしたことのある国語教科書。その中から一味違った「名作」を、著者が独自の視点でセレクト。「とんかつ」「ある夜」「少年の夏」「父の列車」「雛」など、短編も含めて全12篇の小説と物語を収録する。

最近、こういう「教科書に載っていた○○」という本を散見するようになりました。
リアルタイムで教科書を使ったいた時期には、教科書に載るような作品って、「大人が読ませたがっている、説教くさいもの」ばかりだと思っていたのですが(そう言いながらも、国語の教科書だけは、もらった日に面白そうな作品は拾い読みしていたんですけどね)、いま、あらためて佐藤雅彦さんが「数々の教科書のなかから厳選した12編」を読んでみると、「教科書」、つまり、大人が子供たちに読ませたいと思う作品というのは、けっして「綺麗なもの」ばかりではなかったんだなあ、と痛感させられます。


収録されているのは、

とんかつ (三浦哲郎) 
出口入口 (永井龍男
絵本 (松下竜一
ある夜 (広津和郎
少年の夏 (吉村 昭)
形 (菊地 寛)
良識派 (安部公房
父の列車 (吉村 康)
竹生島の老僧、水練のこと (古今著門集)
蠅 (横光利一) 
ベンチ (リヒター)
雛 (芥川龍之介

以上の12作品。
全部を「教科書で」読んだかどうかは記憶にないのですが、僕が読んだことがあったのは『とんかつ』『絵本』『形』『父の列車』『蠅』『雛』の6作品。
これらの作品も、いま読み返してみると当時とは違う感想を抱きますし、未読の6作品もとても興味深かったです。
「教科書に載った作品」というのは、必ずしも明るく正しいもの、「さあ、がんばって生きよう!」というような前向きなものだけではなく、「人生の不条理」を描いたものがけっこう多い。
『絵本』は教科書で読んだときには、半ば感動、半ば「貧乏くさい小説」だと思ったのですが、いま、自分が子供を持つ立場になってみると、そうやって「何か」をこの世に遺したかった友人の気持ちが、痛いほど伝わってきます。
『父の列車』も、教科書で読んだときには、「結局これ、バッドエンドだろ……」と感じたのですが、いま読み返してみると、「一瞬の記憶が、誰かの人生を支えることだってあるのだ」というポジティブな読み方ができるようになりました。
『蠅』は、うーん、この作品については、いま読んでも「無常観」だなあやっぱり……

今回読んでもっともインパクトがあったのは、安部公房の『良識派』。
ちなみに、『良識派』の全文はここで読めます(もうやあこブログ:良識派)

とても短い作品なのですが、いかにも安部公房、という文章で、「こういうのが教科書に載るのか!」あるいは「載っていたのか!」と驚きました。
いまから考えると、教科書に載せられている文章には、けっこう「子供に読ませるには過激」なものも含まれていて、そこには、大人たちからの「おおっぴらに口には出せないメッセージ」が含まれていたような気がします。

「いま、これに1400円を出す価値がある」かどうかは正直微妙なところではあるのですが、「あの佐藤雅彦さんは、こういう作品を『面白い』と感じるのか……」という興味も含め、僕にとってもなかなか「面白い」作品集でした。



教科書でおぼえた名詩 (文春文庫PLUS)

教科書でおぼえた名詩 (文春文庫PLUS)

↑ちなみに、こんな本もあります。
こちらは文庫で値段も安め、佐藤さんがまとめられた本のような「ひねり」はありませんが、素直に感動できる良書だと思います。『ゆずりは』は今読んだら泣かずにはいられない……
この本の僕の感想はこちら。

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