- 作者: 筒井康隆
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1978/12
- メディア: 文庫
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出版社 / 著者からの内容紹介
生れながらに人の心を読むことができる超能力者、美しきテレパス火田七瀬は、人に超能力者だと悟られるのを恐れて、お手伝いの仕事をやめ、旅に出る。その夜汽車の中で、生れてはじめて、同じテレパシーの能力を持った子供ノリオと出会う。その後、次々と異なる超能力の持主とめぐり会った七瀬は、彼らと共に、超能力者を抹殺しようとたくらむ暗黒組織と、血みどろの死闘を展開する。
NHKで放映されているテレビドラマに挫折してしまったため、文庫を20年ぶりくらいに再読。
読み終えて、ものすごい脱力感。
ああ、そういえば、20年前も読み終えたとき、こんな気分になったなあ。
読んでいる最中は、七瀬の「貞操の危機」の連続に、「七瀬、いつヤラれちゃうんだ……」という高校生男子的な読み方をしていたのですが(というか、この原作をよくNHKは1970年代にドラマ化したものですね)、ラストの衝撃といったら!
いや、そういう結末にしても、もうちょっと見せ場というか登場人物や読者への「救い」があっても……
まあ、『エディプスの恋人』に「続く」んですけどね(もう内容はすっかり忘れてるけど)。
この『七瀬ふたたび』は、『家族八景』が、「家庭・家族のあいだの表に出ることのない心の動き」を描く心理劇だとすると、「七瀬と暗黒組織との戦い」を描いたアクション・アドベンチャー風の作品です。これを読みながら考えていたのですが、「人の心がわかる」というのは、ある場面では圧倒的な「武器」になるけれども、明らかな悪意を向けられた場合には、あまり「役に立たないようにみえる能力」でもあるのです。
この文庫の解説で、平岡正明さんは、こんなふうに書かれています。
七瀬の超能力について一つ注意しておくと、彼女は念動力や時航力を持っていなくて、相手の心を読みとる感応力をもっているにすぎないということだ。それが他のエスパーたちと組みあわされると最強の武器になる。その組みあわせかたは読まれたとおりだが、情報力が力の根源になる、という筒井康隆の認識が興味深い。超絶の術者同士が殺しあって、パズル的に作品がとじられていく山田風太郎忍法帖を破るのがこの方法である。
筒井フリークの僕は『48億の妄想』や『おれに関する噂』のような「(筒井さんが生きてきた)社会における情報の力」を描いた作品を読んできたのですが、この平岡さんの解説を読んで、この『七瀬ふたたび』も、「情報力の時代」の小説なのだということをあらためて感じました。そして、この作品には、「情報力の限界」も描かれています。
正直、「古さ」はあるんですよね、『家族八景』と比べると。「携帯電話があったらねえ……」というようなことを、つい考えてしまいますし。
少なくとも、「携帯電話」というツールは、「離れた場所の人間同士での即時コミュニケーション」という意味では、人類が手にいれた「部分的なテレバス」なのかもしれません。
考えようによっては、携帯電話のおかげで、僕たちは「届かないはずの声が聞こえてしまう、火田七瀬の苦悩」を少しだけ味わっているとも言えますけど。