- 作者: 円城塔
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/01/27
- メディア: 単行本
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内容説明
第146回芥川賞受賞作!
無活用ラテン語で記された小説『猫の下で読むに限る』。
希代の多言語作家「友幸友幸」と、資産家A・A・エイブラムスの、
言語をめぐって連環してゆく物語。
SF、前衛、ユーモア、諧謔…すべての要素を持ちつつ、常に新しい文章の可能性を追いかけ続ける著者の新たな地平。
第146回芥川賞受賞作。
この『道化師の蝶』は「難しい」と聞いていたこともあり、かなり身構えて読みました。
静かなところで、集中しながら読まないと、「自分なりの解釈」すら難しく、ただ文字を追っているだけになっていることに気づき、また読み返し……を何度か。
結局、ひと通り読んではみたのですが、自分がこの作品をちゃんと読みこなせたのか、全く自信がありません。
すべて「言語」のことが書いてあるような気がするし、「文学」のことのような気もするし、そういうふうに解釈しながら読もうとすること自体が、間違っているような気もするし……
芥川賞の選評を読んでいると、選考委員をやるような大家たちでも、「わからない」人が何人もいるみたいです。
「わからない」作品に芥川賞を授賞させるということに、ためらいがあるのは当然のことなのかもしれません。
島田雅彦さんは、選評にこう書いておられます。
文学には『フィネガンズウエイク』のように個人言語を発明し、それを使って書く自由もある。『タイムマシン』の作者H・G・ウエルズさえ、ジョイスの試みを「わからん」といったが、『道化師の蝶』はそこまで「わからん」作品ではない。こういう「やり過ぎ」を歓迎する度量がなければ、日本文学には身辺雑記とエンタメしか残らない。いや、この作品だって、コストパフォーマンスの高いエンタメに仕上がっている。
一方で、石原慎太郎さんの「選評」。
どんなつもりでか、再度の投票でも過半に至らなかった『道化師の蝶』なる作品は、最後は半ば強引に当選作とされた観が否めないが、こうした言葉の綾とりみたいなできの悪いゲームに付き合わされる読者は気の毒というよりない。こんな一人よがりの作品がどれだけの読者に小説なる読み物としてまかり通るかはなはだ疑わしい。
うーん、これだけで島田雅彦さんが優れていて、石原慎太郎さんが劣っている、というふうに考るべきでもないとは思うんですよ。
石原さんの場合は、言い方に問題はありそうですけど。
お互いの「文学性」とか「世代」の違いみたいなものは当然あって、『道化師の蝶』は、島田雅彦さんや川上弘美さんにとっては「いまの文学」であっても、石原さんや宮本輝さんには「わけがわからない」のも仕方がない。
だからこそ、いろんな文学性、いろんな世代の選考委員がいるわけですから。
それでも、「こういう『わからない』作品を評価してみよう」という結果になったのは、芥川賞の影響力を考えると、良かったのではないかな、と。
僕自身は、「読みこなそうという過程は、けっこう面白かった」のですが、円城さんの他の作品まで積極的に読んでみたいとは思いませんでした。
しばらくしたら、買ったまま放置しっぱなしの『これはペンです』には、挑戦するつもりではありますけど。
そう、「挑戦」なんですよね円城さんの作品を読むことは。
そこが面白さであるのと同時に、敷居の高さでもあります。
そして、この作品を読むと「自分はこんなのも『読める』んだ!」と、少し良い気分にはなれる。
あるいは、ネットなどで、「解釈を出しあって、他人と比べて楽しむ」こともできる。
二匹目の泥鰌を狙った『豪華客船で読むに限る』は流石にあまりにも安直と映ったために長らく無視され続けたが、性懲りもなくあとに続いた『通勤電車で読むに限る』、『高校への坂道で読むに限る』の失敗を経て、ほとんどやけっぱちのようなタイトルを持つ『バイクの上で読むに限る』独逸語版が、太平洋を横断する大型旅客機の中で読むのに適していると判明して、見事ベストセラーリストの仲間入りを果たす。ここに到って『〜で読むに限る』シリーズは、その本の何語版のどの判型版を一体どこで読むのが適当なのかを探すゲームとしての人気を得たのだ。
この小説を読んでいて僕がいちばん感じたのは、円城さんは、そういう「解釈ゲームのテキストとしての小説」を意図的に書いているのではないか、ということでした。
「作者が言いたいこと」とか「テーマ」なんていうのは、どうでもいい。
そこにあるのは、誰かに解釈されることを待っている、正解のない、言葉の行列。
しかし、どうやったらこんな小説が書けるんでしょうね。
個人的には『アラビアの夜の種族』(これはゲームマニア必読!)の読後感に近かったです。
僕も、もっと「わからない小説」を読まなきゃダメだよな、世界には、「もっとわからない名作」がたくさんあるんだから。
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