
- 作者: 林修
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2013/10/04
- メディア: 単行本
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内容紹介
テレビやCMなどで大活躍中の東進ハイスクール・林修先生は、自他共に認める文学好き。「勉強をしないのは別にいいけど、本を読まないのはダメ」という持論を持ち、テレビや講演などでも若者に読書を勧めています。そんな国語(現代文)のカリスマ講師が、短編小説を中心に名作を厳選。これ一冊で15の作品を読むことができます。もちろん林先生の解説付きで、文学好きにも、これから読書に挑戦してみようという人にもオススメです。
東進ハイスクールの林修先生が、オススメの日本文学の作家とその短編作品を紹介した一冊。
収録されている作家は、宮沢賢治、夏目漱石、芥川龍之介、中島敦、梶井基次郎、志賀直哉、横光利一、太宰治。
320ページあって、税込み1050円という価格も魅力的です。
三島由紀夫や川端康成、谷崎潤一郎などは……とも思ったのですが、これはたぶん、「著作権切れの作家の作品をまとめて、安価で読んでもらおう」という意図での編集なのでしょう。
実際のところ、「これ、作品名だけ確認して、『青空文庫』で読んでも良いのでは……」とか、考えてしまうのですが。
それぞれの作品には、林先生による「言葉の注釈」がついていて、青空文庫で読むよりは読みやすいのですが、林先生がこの本に関してやっていることは、作品の選択および注釈をつけることと、それぞれの作品のあとに短い解説を加えているだけです。
林先生の解釈も詳細でも斬新でもなく、それを期待して読むと、ガッカリさせられる人が多そう。
ただし、林修先生が「僕を読書好きにさせた、不朽の名作を揃えました」と仰っているように、かなり魅力的な作品が収録されてはいます。
いずれも比較的短めの作品で、抄録や部分抜粋ではなく、収録分で最初から最後まで読めるんですよね。
『注文の多い料理店』『夢十夜』『山月記』『走れメロス』など、「教科書で多くの人が一度は読んだことがある作品」が多いのですが、学校で読んでから30年くらい経ち、あらためて読んでみると、やはり「名作」だよなあ、と感心してしまいます。
なかでも、久々に読んだ中島敦の作品(この本には『山月記』『名人伝』『悟浄歎異』の三作収録)が、僕にはとても面白かった。
ほとんどの国語の教科書に載っている『山月記』はもちろん、僕も大好きな『名人伝』(あの、伝説と大法螺のあわい、みたいなのがたまらなく好きなんです)だけではなく、今回通して読んだのははじめての『悟浄歎異』が、すごく面白くて驚きました。
この作品、『西遊記』の世界のなかで、沙悟浄が「観察者」としての微妙なポジションに苦悩する、という内容なのです。
この旅行における俺の役割にしたって、そうだ。平穏無事のときに悟空の行きすぎを引き留め、毎日の八戒の怠惰を戒めること。それだけではないか。何も積極的な役割がないのだ。俺みたいな者は、いつどこの世に生まれても、結局は、調節者、忠告者、観測者にとどまるのだろうか。けっして行動者にはなれないのだろうか?
ああ、沙悟浄さん、あなたは僕ですか……?
あと、横光利一さんの『機械』の読みにくさも印象的だったんですよね。
ちょっと前のある種のテキストサイトのように文字がページにぎっしり詰まっていて、読点が非常に少なく、思考がダラダラと流れ込んでくるような描写の連続。
あの時代にこれを読んだひとは、けっこう面食らっただろうなあ、と思います。
芥川龍之介の『猿蟹合戦』も、なんだか久しぶりに読んだのですが、けっこうインパクトがありました。
猿を「成敗」した、蟹とその仲間たちの「その後」が描かれるのですが、読んでいて気が滅入ってきます。
その上新聞雑誌の輿論(よろん)も、蟹に同情を寄せたものはほとんど一つもなかったようである。蟹の猿を殺したのは私憤の結果にほかならない。しかもその私憤たるや、己の無知と軽率とから猿に利益を占められたのを忌々しがっただけではないか? 優勝劣敗の世の中にこう云う私憤を洩らすとすれば、愚者にあらずんば狂者である。
「弱者叩き」は、ネット世論の専売特許ではなく、芥川の時代からあった「伝統」だといえるのかもしれません。
「『青空文庫』で、読もうと思えば読める作品」ばかりではありますが、こうしてまとめて読んでみると、あらためて「教科書に載るような作品、侮れず」とワクワクしてきます。
まだまだ「読みたい作品」は尽きないですね。