琥珀色の戯言

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家日和 ☆☆☆☆


家日和 (集英社文庫)

家日和 (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
会社が突然倒産し、いきなり主夫になってしまったサラリーマン。内職先の若い担当を意識し始めた途端、変な夢を見るようになった主婦。急にロハスに凝り始めた妻と隣人たちに困惑する作家などなど。日々の暮らしの中、ちょっとした瞬間に、少しだけ心を揺るがす「明るい隙間」を感じた人たちは…。今そこに、あなたのそばにある、現代の家族の肖像をやさしくあったかい筆致で描く傑作短編集。

おもしろい小説、ここにあります!

『サウスバウンド』のオビに書かれていたコピーなのですが、いま、日本でもっともコンスタントに「おもしろい小説」を生み出している作家のひとりが奥田さんだと僕も思います。
この『家日和』では、ネットオークションにハマる主婦や、会社が倒産して、いきなり「主夫」になってしまった男、妻の「ロハス病」に振り回される男などが描かれている短編が、計6篇。いずれも40〜50ページですごく読みやすく、現代の微妙にズレてしまっている「家族」や「夫婦」について、少しの皮肉とたくさんの愛情がこめられています。
『伊良部シリーズ』などを読んでいて、いつも思うのですが、奥田さんという作家は、本当に「やりすぎない人」なんですよね。
この『家日和』にしても、扱われている問題は「大人の倦怠期」というシビアなものなのだけど、登場人物のほとんどは、「とりかえしがつかなくなる限界点」を知っているのです。読みながら、正直、「寸止め感」があるというか、「ヌルいんじゃない?」などと感じるところもあるのですが、逆に「登場人物に過激な行動をとらせること」でセンセーショナルな作品に見せかけるというのは、そんなに難しいことではないはず。そこをあえて、「読者をホッとさせてあげる」のが奥田さんの優しさであり、プロとしての矜持なのかな、と僕は思っています。
でもまあ、僕のなかでは、「上手すぎて、刺激が少し足りない」というのも、否定はできないのですけど。

僕は『家においでよ』がいちばん好きでした。

 酒井が、焼酎のお湯割りを飲みながらしみじみと言った。
「おれ、思うんだけど、男が自分の部屋を持てる時期って、金のない独身生活時代までじゃないか。でもな、本当に欲しいのは三十を過ぎてからなんだよな。CDやDVDならいくらでも買える。オーディオセットも高いけどなんとかなる。けれどそのときは自分の部屋がない……」

ああ、身につまされる話だなあ……
僕のDVDコレクションを息子が取り出して床にグリグリして遊んでいるのを見るのは、やっぱり哀しい……

ところで、『ここが青山』のなかで、こんなことわざが出てきます。

「人間到る処青山在り」

これ、とても有名なことわざなんですが、僕はずっと読み間違えていたことに気づかされました。
これってまさに「盲点」というか、「青山」のほうばかり意識していると……ということなんでしょうね。

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