琥珀色の戯言

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カンブリア宮殿<特別版> 村上龍×孫正義 ☆☆☆☆


内容紹介
「本気で仕事を好きになれ」「幸運の確率を高めよ」「志高く」――「カンブリア宮殿」特別版を緊急出版! 起業家としての人間像から情報革命の行方まで、ソフトバンク社長・孫正義に作家・村上龍が迫る。


内容(「BOOK」データベースより)
「勝算7割で勝負せよ」「幸運の確率を高めよ」「志高く」―。時代の変化を巧みに読み取り、ソフトバンクを一代で巨大グループに育て上げた孫正義。創業30年の成功と危機を徹底取材する中で、浮かび上がった起業家としての資質、経営哲学、情報革命の行方とは―。作家・村上龍が「孫正義の現在と未来」に迫る。

ソフトバンクマイコン雑誌『Oh!MZ』や『Oh!X』で「孫正義」という人の名前を知った頃の僕は、その孫社長が「情報産業界の風雲児」として、携帯電話の世界に参入し、ここまで大きな存在になるとは想像もしていませんでした。
孫社長には、とにかく「過剰な人」というイメージがあって、あんまり好意を持ってはいなかったのです。
携帯電話はdocomoで、「あの人が余計なことしなければ、docomoiPhone使えたのに」とも思っていましたし。

しかしながら、この孫社長が『カンブリア宮殿』に出演された回をまとめたものを読んで、僕の孫社長へのイメージは、かなり変わりました。
もちろん、「過剰な人」であることは間違いないのですが、この人の「過剰さ」は「演出」じゃなくて、本当に「そういう生き方しかできない人」なんだなあ、と。

アメリカ留学時代のことを、孫社長は、こんなふうに語っておられます。

 当時、僕は「勉強の虫」という言葉は嫌いだと思っていました。そんなちっぽけなもんじゃない、と。俺は「勉強の鬼」になろうと思って、鬼のように勉強しました。

20代前半で会社を興した孫社長、会社のほうは順風満帆なのですが、若くして、慢性肝炎での闘病生活を送ることになってしまいました。
そんな中、孫社長は、「人は何のために仕事をするのか?」について考えます。

 会社を始めてすぐのころというのは、大きい会社にしたい、家も立派なものが欲しい、車も格好いいのが欲しいと、やはり若いなりの欲望がいっぱいありましたよ。だけど、あと五年くらいで俺は本当に死ぬのかと思った時には、もう本当にどうしようか、と。その時も病院を抜け出して、ほとんど一日おきぐらいに会社に行っていたんです。そうやって身を削り、命を削りながら、なんで俺はこういうことをやっているのかと考えるわけです。
 そうすると、やはり最後は自己満足のためにやっているんだなと本音で思いました。人のためとか、会社のためというより、結局、自分は自己満足のために命を削って働いている。すると自己満足というのはなんだろう、と思うようになるんです。究極の自己満足というものを考えると、もはや家とか車とか、会社の利益というようなことは、ちょっと程度が低いなあ、と思うようになりました。
 究極の自己満足とは、結局、人に喜んでもらうことじゃないか。人が心から喜んでくれて、笑顔で「ありがとう」と言って感謝してくれたら、それが一番の自己満足だなということを、その時に心の底から思ったんです。それはもう随分泣きはらしたあとのことですが。

孫社長は、ものすごく頭が良い人なんだろうけど、その考え方、行動規範の多くは「実体験」に裏打ちされているのです。
「お客様第一」と言う経営者は多いけれども、この人ほど押しつけがましいくらいに、「人(お客)を喜ばせよう」としている社長は、他にはいないかもしれません。

それにしても、孫社長のコンピューター、そしてインターネットへの「期待と信頼」への揺るぎなさには驚かされます。
孫社長が「商売人」であるのは事実なのですが、この人は、本気で、「自分が商売に勝って、インターネットをもっと高速化していくことによって、世界を変えていける」と信じているように思われるんですよね。
そして、この人の壮絶なところは、それを恥じらいなく公言できる強烈な自負心です。
こういう人の下で働くのは大変だろうなあ、と僕などはつい考えてしまいます。

ちなみに、この本のなかでは、「iPhoneSIMロックを外さない理由」にも率直に答えておられて(要するに「iPhoneがあの値段で売れるのは、SIMロックによって購入者の固定客化を期待できるから」ということのようです)、僕も「まあ、ソフトバンクの立場としてはそうだろうなあ」と納得しました。
僕が住んでいるような地方都市では、まだまだ回線の安定性はdocomoに劣るので、魅力的な端末で優位を得るというのは、ソフトバンクにとっては、当然の戦略でしょうし。

いやほんと、「熱い人」なんですよ孫社長は。
僕には、その「熱意」が鬱陶しく感じられる面もあるのですが(だって、ここまで堂々と「有言実行」を続けようとしている人って、日本にはあんまりいませんから)、国籍の話とか、コンプレックスの話などは、読んでいて、ちょっと感動してしまいました。
僕にはとうてい真似できないけれど……

正直、「自分に酔いすぎなんじゃないか?」とも思いますし、この人についていける部下が、どのくらいいるんだろう?と心配になるのですが、それでも、こういう「過剰さを隠さない人」って、ものすごく貴重なのではないかなあ。

この本の最後には、孫社長からの「いまの若者たちへのメッセージ」が紹介されています。

 僕はちょうど皆さんの年のことに、決意して渡米したのですが、若いということは無限大の夢を持つことができるということです。そしてその自分の持った夢に、自分の人生はおおむね比例する結果を生むと思っています。小さな夢でも大きな夢でも、その夢の範囲の中で、夢の80%が達成できるのか、50%が達成できるのか、という話です。そういう意味では夢はできるだけでかい方がいいんじゃないか、というのが一つのアドバイスです。
 もう一つは、その夢を達成できる人とできない人の唯一の違いは、自分はその夢をどのくらい心の底から達成したいと思っているか、にあるということです。すごく強い決意をして、その夢の達成に向けて恐ろしいまでの情熱で努力したかどうか、ということです。
 ちなみに、夢の大きさというのは、何も金額的な大きさとかでなくていいと思います。世界一おいしいパンケーキを作れる人間になりたいということだって、でっかい夢だと思います。世界一上手にピアノが弾けるようになりたい。これもでっかい夢だす。自分しか弾けない曲を作りたい、というのだって夢ですよね。
 僕は小学生の時、実は画家もなりたかったんです。それで、僕がなりたかったのは貧乏画家なんですよ。

 僕はもうすぐ40歳になるのですが、20歳の頃は「才能が無いのに努力してもムダだろ」とか「そんな無謀な夢、叶う確率は0.000001%くらいなんじゃないの?」とか斜に構えて、夢を達成するための努力をする前に投げ出してしまっていました。そういうのが「賢い人間のふるまい」だと自分に言い聞かせていたのです。
 でも、僕が「どうせムリなのに」とバカにしていた「恐ろしいまでの情熱と努力ができる人」じゃないと、やっぱり、「夢」って叶えられないんだよね。
 それはあくまでも「必要条件」であって、「十分条件」ではないのだけれど、それでも、いろんな人たちをみていると、「ギリギリのところで勝負を決めるのは『情熱と努力の差』なのかもしれないな」と、いまの僕は思うのです。
 孫社長の真似ができる人はそうそういないだろうけど、この人の「過剰さ」は、これからの時代を生きる人間にとっては、けっこう参考になるはず。

 孫社長は、本当に「面白い人」なので、これを読んで興味をもたれた方は、書店などでちょっとだけでも、この本のページをめくってみてください。

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