琥珀色の戯言

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【読書感想】孫正義の参謀―ソフトバンク社長室長3000日 ☆☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
ボーダフォン買収に続く「光の道論争」、東日本大震災から始まった「自然エネルギーへの挑戦」、スプリント買収による「アメリカ市場への大躍進」といった大舞台の数々で、稀代の経営者・孫正義は、そのとき何を決断し、行動したのか? 衆議院議員からビジネス界に転じ、ソフトバンクの社長室長となった著者が、孫正義と疾駆した8年間3000日にわたる激動の「正史」。


【主な内容】
第1部 携帯事業への参入と「光の道」構想
ケータイ三分の計/大勝負に賭ける/NTTとの対決/「光の道」構想/光の道、公約へ/光の道、通じず
第2部 自然エネルギーへの挑戦
孫正義、「狂」となる/神の意志あり/ユートピアから現実へ
第3部 アメリカ市場への大躍進
アメリカ市場参入の決断/ワシントン大偵察/ワシントンへ「シェルパ」動く/孫正義、都へ行く/世界へ挑む


 最も近い場所からみた、孫正義さんの記録。
 僕は他の人の日記というのが好きで、ついつい読んでしまうのですが、これほどスケールが大きい「日記」(というより「業務日誌」に近いかもしれません)は、珍しいと思います。

 「政権交代」という大きな夢を追って九年間政治家をやってきた。第一野党・民主党の代表室で三代の代表に仕え、戦略を練ってきた。メディアは私のことを「三代代表の知恵袋」と称した。民主党は私が代表補佐役をした二回の選挙で118議席、177議席と順調に勢力を伸張し、三回目の選挙で政権交代目前というところまで来ていた。
 一つのプロジェクトは「起承転結」で捉えることができる。「起承」まではわりと順調に行くが、「転」から「結」が一番難しい。郵政民営化法案で自民党を分裂気味に追い込んだのが「転」であった、小泉純一郎首相は解散に打って出た。この郵政選挙に大敗し、私自身も議席を失った。
 「政治から民へのトップランナー」になりたい、とソフトバンクに入社。孫社長を補佐する社長室長となった。当時は珍しいことで、多くのメディアが私の転進を取り上げた。


 その後、民主党は政権の座につくものの、政権運営能力の拙さを露わにし、ふたたび野党の座に転落します。
 現状では、「民主党に日本を任せたい」という人は、ごく少数でしょう。
 あの郵政選挙議席を失ったのは、著者にとって、結果的に良かったのか悪かったのか?


 著者は民主党の元衆議院議員で、「切れ者」として鳴らしていた著者が、ソフトバンク孫正義社長に乞われて、「社長室長」としての肩書きで、ソフトバンクで仕事をした8年間のことを記録しています。
 世界中をとびまわり、さまざまな有名人、政財界の大物と会うという日々を読んでいると、なんだか自分の小ささが悲しくなってきます。
 いや、こんな多忙で責任の重い生活、僕にはできないのは百も承知の上なのですけど。


 この本、著者が歴史好きということもあって、中国史上の名将の話などがしばしば出てきて、その「気負い」みたいなのがちょっと重苦しいところはあるのですが、孫正義という人について、これほど身近な人からの「観察日記」が出たことは無いと思われます。
 孫さん自身はTwitterなどでも明確な発言が多いのですが、自分のことを細かく説明するよりも、行動で示すタイプという感じですし。


 ボーダフォン買収時の話。

 2006年4月27日、ボーダフォンの買収が完了した。それから二営業日には愛宕にあったボーダフォンから汐留のソフトバンク本社ビルへの引越しを完了した。
 「手続き完了二日目の引越しは、ギネスブックなみだと思う」
 孫社長はこの後、世界一早いという意味で「ギネスブックなみ」という言葉をたびたび使うようになる。ボーダフォン社員は「スピードのソフトバンクとはこのことか!」と驚いていた。
 世間はゴールデンウィークに入ったが、そんなものはソフトバンクにはない。「ゴールデンウィークでは日本は休みだが、世界は動いている。日本で誰も相手してくれないから、ゴールデンウィークは出張を入れて、海外で仕事をするのにちょうどいい」というのが孫社長の考え方である。
 ボーダフォンはイギリスの会社である。仕事とプライベートはきちんと分ける習慣だったようだ。ロンドンに出張すると、かなり高級なホテルでも、日曜日の夜はレストランが開いていない。ルームサービスでフィッシュ・アンド・チップスを寂しく夕食とすることも何度かあった。日曜でも仕事の私は困るのだが、皆「日曜の夜は家でゆっくり」と思っているらしい。
 ところがソフトバンク、特に孫社長周辺には日曜日も祝日もない。社長室メンバーにとって日曜日の朝八時に秘書課長から「九時までに集合」との電話があるのは珍しいことではない。私は会社近くに住んでいるからいいが、遠い社員は大変である。何とか一時間で集合すると、会議がそのまま深夜まで続くというのにも慣れている。
 しかし、ボーダフォン幹部にとっては驚くべきことだったのだろう、文化摩擦が少しずつ生じていた。


 この部分に限らず、孫社長の「やりましょう」を実現するために、周囲の人たちは、本当に「休みなく」動き続けているのです。
 孫社長自身は、ある種の「仕事中毒」的なところがあるのだと思われますし、だからこそ、これだけの成果を挙げているのですが、これは社員たちは大変だなあ、と。

 
 その孫さんが、著者に対しては、民主党の有力な議員であったというキャリアと能力に敬意を表し、「部下」というよりは「軍師」あるいは「食客」として、丁重に扱っているというのも伝わってきます。
 著者も意気に感じて、政治家時代の人脈を活かし、ソフトバンクの事業と政治・行政の仲介役として、身を粉にして働いているのです。


 著者は、孫社長について、こう述べています。

 ピーター・ドラッカーは、「トップの座にあるものだけの仕事として渉外の役割がある。顧客、取引先、金融機関、労働組合、政府機関との関係である。それらの関係から、環境問題、社会的責任、雇用、立法に対する姿勢についての決定や行動が影響を受ける」としている。
 孫社長ドラッカーが言う「トップマネジメント」の他の項目、たとえば「事業の目的を考える」とか「ビジョンと価値基準を決める」といったことは天才的である。
 しかし、「渉外」に関しては苦手である。


 孫社長は、パーティ会場でにこやかに立ち回ることとか、政治的な根回しなどは、得意ではないようです。Twitterの発言なども、「率直」すぎて大丈夫だろうか、と感じることもあります。
 とはいえ、「ボス」にこういうことが言えるのも「食客」ならではだと思うのですが、孫社長は自分のそういう弱点を自覚していて、それを補ってくれる最良の人材として、著者を選んだのです。
 誰にだって、弱点はある。
 それを素直に認めて、すぐれた人材を三顧の礼をもって迎えるところが、孫社長のビジネスマンとしての凄さなのだと思います。
 

 僕自身としては、ソフトバンクのやり方には、賛成できるところばかりではないのですが、それでも、この本から伝わってくる「熱量」には、圧倒されました。
 ビジネスの世界の最前線って、すごい。

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