あらすじ: 1858年、アメリカ南部。奴隷ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)は、賞金稼ぎのキング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)の手によって自由の身となる。やがて2人は協力し、次々とお尋ね者たちを取り押さえることに成功する。その後、奴隷市場で離れ離れとなってしまった妻を捜す目的のあったジャンゴは、農園の領主カルヴィン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)のところに妻がいることを突き止め……。
2013年8本目。
日曜日の朝イチという、僕としては珍しい時間に鑑賞。
もう朝1回のみの上映になっていたんですよね。
観客は7〜8人。
この『ジャンゴ 繋がれざる者』、あのクエンティン・タランティーノ監督の最新作です。
興行的にはこれまでのタランティーノ映画のなかで最大のヒットとなり、アカデミー賞で助演男優賞(クリストフ・ヴァルツさん)と脚本賞の2冠を達成しています。
ただ、僕は「西部劇」というものにあまり興味がなく、ちょっと食指が動きづらい映画であったのも事実です。
黒人奴隷だった「ジャンゴ」が、あるきっかけで、ドイツ人のキング・シュルツとコンビを組んで「賞金稼ぎ」になる、というのは「うーん、キワモノっぽいな……」としか思えなくて。
もっとも、タランティーノ監督には「キワモノ」って、賞賛の言葉なのかもしれませんが。
この映画、165分とかなり長いのですが、上映中はほとんど時計に目をやることなく、「次に何が起こるのだろう……」と半分ドキドキ、半分ニヤニヤしながら観ることができました。
長さを感じさせない映画なんですよね、本当に「何が起こるかわからない」から。
これがアメリカで大ヒットしたというのは、正直、意外な気がしました。
アメリカ人は、よっぽど寛容なのか、それとも忘れっぽいのか?
「黒人が馬に乗ってる!」と南部の白人たちが大騒ぎするシーンがあったり、レオナルド・ディカプリオ扮する大牧場主が黒人奴隷をエレガントに虐待するシーンがあったりするのですが、これって、少なくとも南部のアメリカ人にとっては、「自分のそんなに遠くない祖先が、実際にやっていたこと」ですよね。
虐待まではしていなくても、「一緒に食事をするなんてありえない!」というくらいの差別は「あたりまえ」の時代もあったわけです。
「西部劇」というのは、アメリカの白人たちの「聖域」だったわけで、黒人奴隷を主人公にした映画なんていうのは、日本人である僕が想像する以上に「衝撃的」だったはず。
ジェロの演歌をみて「演歌は日本人のものだ!」と憤慨する日本のオッサンたち、どころの騒ぎじゃありません。
どんな気持ちで、彼らはこの「復讐劇」を観ていたのだろうか……
そんなふうにも考えてしまうのですが、この映画でいちばん印象的だったのは、キング・シュルツでした。
タランティーノ監督の前作『イングロリアス・バスターズ』では冷酷なナチスの一員を演じていたクリストフ・ヴァルツさんが、今回は「不思議なほど公正な賞金稼ぎ」を演じているんですよね。もしかしたら、タランティーノ監督は「このあいだは、悪役でみんなに嫌われちゃって悪かったね」とか考えてキャスティングしたのだろうか。
実際は、ヴァルツさんが素晴らしい役者だから、だと思われますが。
このキング・シュルツって、「公正な人」ではあるのですが、「公正すぎる人」って、状況によっては、「すごく残酷な人」にも見えるのだなあ、という場面が、この映画のなかにもあります。
そして、「悪人」とはいっても、「24時間、すべて悪人の顔をしているわけではない」ことも。
キング・シュルツは、ジャンゴにある「賞金稼ぎとしての踏み絵」を行うのですが、僕は正直、観ていていたたまれませんでした。
ヴァルツさんは、この作品で、アカデミー賞助演男優賞を受賞しています。
このキング・シュルツという人は、まさにこの作品のキーマン。
観ていて、「こんなヤツいるわけないだろ!」とか「そのくらい妥協するのが、普通の人間じゃないか?」などという思いがかすめてしまう場面もあるのですが、「でも、この人なら、そういう行動もありえるかもしれないな」と、なんだか素直に受け容れてしまう存在感があるんですよね、ヴァルツさんのキング・シュルツには。
「こんなヤツいねーよ……でも、もしかしたらいるかも……」
そのギリギリのところで、フェア・ゾーンに落とすことができるのが、「良い映画」なんじゃないかな。
とりあえず、あれこれテーマ的なものを考えようと思えばいくらでも材料はあるのですが、そんなに重く考えなくても、ドラマとして、キング・シュルツ&ジャンゴ・フリーマン対カルヴィン・キャンディ&スティーブンの豪華タッグマッチの緊張感を純粋に味わうだけでも楽しめる作品だと思います。
それにしても、この映画の「ラスボス」が、あの人だというのは、タランティーノ監督らしいよなあ……