琥珀色の戯言

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【読書感想】GANTZなSF映画論 ☆☆☆


GANTZなSF映画論 (集英社新書)

GANTZなSF映画論 (集英社新書)

内容紹介
漫画家・奥浩哉にとって、SF映画は自身の創作に大きな影響を与えるものである。本書では、クリエーターとしてインパクトを受けた名作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などの超メジャー映画からマイナーB級SF映画までを約100作品紹介。
漫画GANTZに影響を与えた映画について、脚本力や演出力とは何か、キャラクター論、コミックス原作映画への思い、漫画家から見たカメラワークや構図、CG製作・美術デザインにいたるまでを独自の視点でおおいに語る!
掲載映画は、バック・トゥ・ザ・フューチャーインデペンデンス・デイ猿の惑星宇宙戦争、ゾンビ、ブレードランナーミクロの決死圏ガタカデモリションマン、遊星からの物体X、ゼイリブ、第9地区、ロボコップ、エイリアン、キング・コング、インビジブル、スターシップ・トゥルーパーズ、アビス など。


<目次>
序 章 漫画家が映画を語る理由
第一章 脚本力と設定力を楽しむ!
第二章 超私的「キャラクター」論
第三章 名シーンのつくられ方
第四章 アニメと漫画と映画の関係
第五章 美術デザインを愛でる映画
第六章 CGとSF映画の今昔物語
あとがき

GANTZ』の奥先生のSF映画論。
荒木飛呂彦先生のホラー映画の新書がヒットしたので、集英社が二匹目のドジョウを狙ってみたのが伝わってくるのですけど、『GANTZ』にさほど思い入れがない僕にとっては、「率直だし、読みやすくはあるけれど、『あくまでも個人の感想です』という内容だなあ」という印象でした。
いやもう、タイトルからして「個人の感想」ではあるので、文句を言うような筋合いのものではなく、『GANTZ』のファンが、「こういう映画に影響を受けて、あの作品は生まれてきたんだなあ」と楽しむ、それで良いのだと思います。
紹介されている作品も、あまりマニアックなものではなく、「誰が観てもわかりやすくて面白い」ものが大部分で、奥先生も「映画マニアを唸らせる」よりも、『GANTZ』のファンが、この新書から、映画に興味を持ってくれればいいなあ、と考えておられるのではないかと。

バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、マイケル・J・フォックス演じるマーティや風変わりな科学者のドクを筆頭にしたキャラクターの人物造形が秀逸で、脚本もいろいろなところに伏線がちりばめられています。どこをとっても手を抜いていないというのか、すべてにおいて穴がない。30年前にタイムスリップしたマーティが若き日の父と母の恋を成就させるために奮闘するストーリーはそれだけでもワクワクしますし、一度終わったように見せて、もう一度盛り上がりをつくる展開の妙も含め、人を楽しませることが徹底的に考えられている作品だと思います。
 最初にマーティが巨大スピーカーの音圧で吹っ飛ばされるシーンがあって、「センスがいい映画だな」と思っていたところに、今度はやたらとカッコいい名のこのクルマが登場する。しかも、デロリアンという名のこのクルマはなんとタイムマシンなのです。かつてこれほどクールなタイムマシンを見たことがなかったので、俄然テンションが上がりました。

 読んでいて、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をもう一度観たくなりました。
 そうそう、本当に「センスがよくて、面白い映画」だったんですよね、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。
 あの頃の映画は、なんだかすごく楽しかったような気がします。


 映画マニアにはあまり評判がよろしくない『インディペンデンス・デイ』を、「エンターテインメントとして」高く評価しているのも、読んでいて嬉しくなりました。
 奥先生は、僕とほぼ同世代なので、観てきた映画も、それを観たときの年齢も近いんですよね。

 また、『バイオハザード』(2002年、米・独・英)にも忘れられないシーンがあります。映画は、人気ゲームが原作のバイオレンスアクションで、ミラ・ジョヴォヴィッチが主役のアリスを演じています。新型ウイルスによって社員全員がゾンビとなってしまった研究所。暴走するメインコンピューターを停止させるために、アリスと特殊部隊の隊員が研究所内に向かいます。襲いかかってくるゾンビ相手に戦うミラ・ジョヴォヴィッチのアクションはなかなかの迫力ですが、それ以上に僕が好きなのがレーザートラップのシーンです。
 通路の向こうからレーザー光線が飛んできて、いかにも精悍そうな黒人の隊長は二度にわたってかわすことに成功するのですが、三度目に目の前でいきなりレーザー光線が格子状に広がって、あっけなくサイコロのように身体が切り刻まれてしまいます。格子状に変化した瞬間に見せた隊長の諦めたような、なんとも言えない表情がすごくいいのです。悪趣味だけれど、サイコロ状になった身体がバラバラと落ちていく描写もナイスアイディアと感心しました。

 ああ、僕も映画『バイオハザード』がどんな話だったかほとんど覚えていないのですが、この場面は忘れられません。
 あの「レーザー光線に人間がもてあそばれている感じ」は、なんだかすごくインパクトがあったんだよなあ。
 「絶望的な状況」すぎて、もう笑うしかない、というか……
 映画のクライマックスシーンというわけでもないこの場面を、奥先生が挙げていたのは、読んでいて嬉しくなりました。


 あと、この新書のなかでは、自作『GANTZ』の実写映画への感想も書かれています。

 本章の冒頭でも語ったとおり、漫画の映画化に関しては、僕は単純に賛成派です。『GANTZ』のときもそうだったように、映画化されることでまた新しいものが出来上がる楽しみがそこにはあると思います。とくに一作目の『GANTZ』(2011年、日)が出来たときは、僕が漫画で描いたことをさらにクオリティを上げて実写化してくれていたので、すごくうれしかったです。おこりんぼう星人の動きは重量感もちゃんとあったし、作者の僕が観たいものがより高いクオリティで映像化されていました。二作目の『GANTZ PERFECT ANSWER』(2011年、日)のほうは、僕の作品というより『GANTZ』の作品世界を借りたオリジナルという感じでしょうか。これはこれでよく頑張っていて、メジャー感のある作品に仕上げてくれていたと思います。

どうも、これを読むと、『PERFECT ANSWER』は、原作者にとっては、「パーフェクト」ではなかったみたいです。
もっとも、あれだけの長さの作品を、4時間くらいにまとめるというのはかなりの難事でしょうし、原作者としても、それはわかっているから、しょうがないんだけれど、ということなのでしょう。


GANTZ』のルーツについての、こんな話もありました。

 ちなみに、『GANTZ』でも身体が転送されるので、その意味ではテレポーテーションと言えるでしょう。転送のアイデアは、高校時代に読んだロバート・シェイクリの『不死販売会社』(ハヤカワ文庫)というSF小説が基になっています。これはドライブ中に事故を起こして死んだはずの主人公が、目を覚ますと未来に転送されていたという話です。当時はテレビドラマの『必殺』シリーズが大好きだったので、そのふたつを合体する形で「一回死んだ人たちがある場所に集められて、何かを殺しに行く」話がつくれないかなと思ったのが、そもそもの『GANTZ』の始まりなのです。

GANTZ』の半分は、『必殺』だったんですね……
言われてみれば、報酬のために殺しに行くっていうのは、たしかに『必殺』だよなあ。


GANTZ』の世界観に影響を与えた映画や、作画へのこだわりなども語られており、ファンにとってはたまらない本だと思います。
あまり映画を観たことがない人のための、SF映画入門としても、けっこう役に立ちそうです。
「やっぱりハリウッド映画は面白い!」なんて、「映画評論家」は、なかなか言ってくれませんし。



参考リンク:『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』感想(琥珀色の戯言)

荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論 (集英社新書)

荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論 (集英社新書)

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