琥珀色の戯言

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【読書感想】裏が、幸せ。 ☆☆☆


裏が、幸せ。

裏が、幸せ。

内容紹介
控え目でも強い光を放つ日本海側の魅力満載


常に時代を先取りする話題作を刊行してきた酒井順子氏が、”控え目だけれども鋭い光を放つ”日本海側の魅力を存分に伝えるエッセイ。
経済発展=幸福と、太平洋側を「表」として走ってきた日本ですが、とくに東日本大震災以降、その構図はくずれつつあります。経済至上主義によって、私たちは、日本人にとって大切なものをたくさん失ってきたのではないかということに、多くの人が気づき始めています。
そして、その開発の手を逃れて、ひっそりとマイペースで生きてきた日本海側=「裏」には、裏だからこその日本の大切なもの=「幸せ」が、たくさん詰まっていることに、日本中を何度も旅してきた著者は魅了されました。
都道府県別幸福度ランキングでは、トップ3は福井、富山、石川の北陸三県。富山にある世界一のスタバ、日本海が必須の演歌、美人が多い秘密、谷崎潤一郎水上勉泉鏡花川端康成が描いた「裏」、顔を隠す盆踊り、金箔のほとんどを生産する金沢…などなど 「裏の宝もの」が満載。北陸新幹線の開業もあって大注目の日本海側。その良さを堪能できて、「幸せ」を求めて旅に出たくなるエッセイです。


 北陸新幹線で東京と富山・金沢が結ばれ、開業前は、北陸関連の話題がかなり盛り上がっていました。
 九州在住の僕としては、「うちはあんまり関係ないんだけどさ……」と思いつつも、やっぱり、東京とどこかが繋がるというのは日本全体にとって大きなことなのかなあ、とも感じていたのです。
 この本、エッセイスト・酒井順子さんが、月刊『本の窓』に2012年11月号から、2014年9・10月合併号まで連載されていたもので、この「北陸ブーム」を先取りしたかのような内容です。
 でも、この本を読んでいると、いわゆる「裏日本」って、「ブーム」という言葉が似合わないよなあ、と思うんですよね。


 この本の冒頭で、酒井さんは、こんな話をされています。

 現在も、メディア上で「裏日本」という言葉を目にすることはほとんどありません。そんな中で、日本海各地で宝石のような風景を目にしていた私は、表日本生れの人間の勝手な幻想かもしれませんが、ますます「裏日本」という言葉に魅力を感じるようになっていったのです。
 そんなある時、私は石川県・和倉温泉の名旅館「加賀屋」に宿泊する機会を得ました。聞けば、加賀屋の三代目・小田禎彦会長ご夫妻は、私の大学の先輩でいらした。のみならず、ご夫妻の出会いの場であった観光講座やホテル研究会は、私が在籍した観光学科(現在は学部)の前身ということもあり、お話をさせていただくことができたのです。
 その時の小田会長の言葉が、私には強く印象に残ったのでした。会長は、これからの石川県の観光産業を考えた時、
「裏日本が、表のようになったってしょうがないんです。かつて、明るく華やかな観光地を人々は目指したけれど、これからはそうじゃないでしょう」
 とおっしゃったのです。
 この言葉を聞いた時、私は意外な感じを覚えたのと同時に、「我が意を得たり」と思ったのでした。日本海側の人々は、裏日本という言葉も、またその特性も好まないのだと思っていたけれど、「裏性」とでも言うべきものを観光資源として捉える方がいて、それが会長のような経済人であったということが、とても意外だった。


 「裏」というと、イメージが悪くなりがちなのですが、小田会長は、後日、こうも仰っていたそうです。

「ハワイやラスベガスといった、明るさ、賑やかさを得られる観光地もありますが、全ての人がその手のものを求めているわけではない。人生には悲しい時も、静かにしていたい時もある。そんな時に裏日本というのは、良い旅先になるのではないかと思うんですよ。人の気持ちの機微を受け入れる、そういうところが裏日本にはある」

 ああ、なるほどなあ。
 僕自身は、ハワイやラスベガスのような「ハレ」の観光地も好きなんですよ。
 でも、そういうところに出かけるのは疲れるし、ゆっくり考えごとをするのが許されるような旅もしたいと思う。
 そういう人は、僕だけではないはずです。
 

 この本を読んで、「裏日本」の人たちの暮らしぶりをみていると、そこには「東京などの『表』から置き去りにされたという寂しさ」とともに、地に足がついた安定感とか、豊かさも感じられるんですよね。

 日本でいちばんいい県 都道府県別幸福度ランキング」というデータを、日本総合研究所東洋経済新報社が出しているのですが、2014年のデータを見ると、福井が1位、富山が2位、石川が3位と、北陸三県のワンツースリーフィニッシュ。ちなみに鳥取、島根、新潟といった日本海側県もベスト10圏内に入っております。また、法政大学大学院の坂本光司教授が発表した県別幸福度ランキングでも、北陸三県は同じ順位で1位〜3位を独占しているのです。


 酒井さんは、このデータについて、「持ち家率とか、出生率とか、都会に不利な指標も入っているので完璧なものではないかもしれないが、日本総研のデータでは、高知が46位、沖縄が41位で、「都会じゃないほうが有利」だというわけでもない、と仰っています。
 北陸の人たちは、みんな「何もないところだから」と仰るそうなのですが、さまざまなデータから分析すると「北陸三県のみならず、日本海側地域の県の人々というのは、結婚しても広い持ち家に親と同居し、親に子供の面倒を見てもらいつつ夫婦共働きをする、というライフスタイルを築いている模様」なのだそうです。
 日本の昔ながらの生活様式というのは、それに慣れてみると、都会人が思っているよりも快適なのかもしれません。
 あるいは、都会で生活するというのは、けっこう、無理をしているところもあるのかな、と。


 このエッセイ集を読むと、僕は「裏日本」についてあまりにも無知だよなあ、と思い知らされます。
 「日本の金箔の99%は金沢でつくられている」なんて、初めて知りました。
 「北陸でお宅訪問をすると、まず立派な仏壇を見せられる」とか。
 仏壇に感動した酒井さんは、北陸で人に会うと、「やはり大きな仏壇がお宅にあるのですか?」と尋ねてみるそうなのですが、
 「まぁ……、800万円くらいだったかな」などと言われるのだとか。
 800万円って、レクサス買えるじゃん!


 すっかり「裏日本」に魅了されてしまった酒井さんは、北陸新幹線について、ちょっと心配もされているようです。

 が、しかし。私の中には、一抹の不安な気持ちもあるのでした。東京民が新幹線の駅でホッとするということは、東京的なエキスが新幹線によって直接、金沢に流れ込むということでもあります。それは金沢と北陸にとって、必ずしも良いことばかりではないのではないか、と思うから。
 今間で金沢は心理的に遠い場所であったと記しましたが、東京から遠い場所であるが故の神秘性を、金沢は持っています。東京からは直接見ることができない「裏」において、秘かに輝き続ける北の都が、東京のただれた風に直接さらされてしまっていいのか、という気がするのです。

 ああ、これはわかるような気がする。
 九州新幹線のときも、鹿児島や熊本まで「博多化」してしまうのではないかと危惧していた人たちはいたし、その不安は、半分くらい当たっているような気がします。
 北陸新幹線によって、金沢も、東京から「日帰りできる場所」になってしまった。
 しかし、これまでも飛行機で、(空港までの移動時間なども含めると)新幹線と同じくらいの時間で東京と金沢は行き来できていたはずなのに、新幹線が通るとなると、なんでこんなに「直通感」が出てくるのでしょうか。
 こんな狭い国に、新幹線がそんなにたくさんいるのだろうか?という意見もよく耳にするのだけれど、出来上がってみれば、やはり、新幹線というのは日本人にとって特別な存在なのかもしれませんね。
 

 読んでいると、なんだか、「裏日本」に行って、山陰本線に一日揺られていたくなる、そんなエッセイ集です。
 まあ、「何もないのがいい」っていうのは、旅行者の言い分ではあるのでしょうけど、それを「セールスポイント」にするのも、「裏の処世術」だと思うしね。

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