琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

地価上昇率6年連続日本一の秘密は何か。
新世界「ニセコ金融資本帝国」に観光消滅の苦境から脱するヒントがある。

富裕層を熟知する著者の知見「ヒトより、カネの動きを見よ!」

ローコスト団体旅行によるインバウンドの隆盛はただの幻想だった。かわりにお金を生むのは、国内に世界屈指のリゾートを作ることだ。平等主義に身も心もとらわれた日本人は、世界のおカネのがどこに向かっているのか、その現実にそろそろ目覚めるべきではないだろうか。
ニセコ歴20年、金融コンサルタントとして富裕層ビジネスを熟知した著者による、新しい地方創生・観光論。バブル崩壊以降、本当にリスクを取ったのは誰だったのか?


 北海道のニセコって、いま、こんなふうになっているのか……と、九州在住、ウインタースポーツには興味も縁もない(子どもと近所のスポーツセンターでアイススケートをすることはあるけれど)僕にとっては、驚かされる話ばかりでした。

 ニセコは、今や世界的なスキーリゾートだ。地元の倶知安町(くっちゃんちょう)がスイスのサンモリッツ姉妹都市提携を結んで2021年で57年、ニセコは「東洋のサンモリッツ」から「世界のニセコ」として、名実ともにその名を世界のスキーヤーや富裕層に知られる存在となっている。
 その源泉は、パウダースノーだ。サラサラしたパウダースノーを体験してしまうと、なかなか他のスキー場には戻れない。サンモリッツやクーシュベル(フランス)、ウィスラー(カナダ)といった欧州や北米の世界的に著名な超高級スキーリゾートも雪質ではニセコには敵わないことがほとんどだ。そのパウダースノーをオーストラリアのスキーヤーが世界に紹介したことで、ニセコはアジア全体や欧州や米国からもスキーヤーが訪れるようになった。
 彼らのためにニセコには「外国人による外国人の楽園」ができている。5つ星ホテルのパークハイアットは、日本には東京、京都、ニセコにしかない。他の5つ星ホテルではリッツ・カールトンが開業し、アマンの建設も進行中だ。アマンホテルに併設される戸建て別荘の販売予定価格は20億円になる。この先も、こうした高級ホテルやコンドミニアムの開発が続く。
 ニセコ周辺のインフラ整備も着々と進んでいる。2027年には高速道路が開通してニセコインターチェンジができる予定であり、2030年には北海道新幹線の新駅がニセコに設置されることも決まっている。札幌や東京からのアクセスが大幅に改善される見込みだ。もし2030年冬季オリンピックの開催が2度目となる札幌で決まれば、ニセコアルペン競技の会場となる予定もある。


 北海道のパウダースノーがオーストラリアのスキー好きの話題になって、オーストラリアからのスキー客が増えている、という話は、けっこう前に聞いたことがあるんですけど、スキーをやるために、わざわざオーストラリアから北海道に来る人もいるんだなあ、という感じだったんですよね。

 いまや、ニセコは、アジア・オセアニアから大勢の富裕層が集まる一大スキーリゾートになっているのです。
 20億円の別荘、とか、スキーシーズン中は1泊20万円の高級ホテル、なんていうのは、僕にはまったく縁がないものであり(そもそも、そこまでしてスキーをやろうと思わないし)、そんなに需要があるの?と思うのですが、著者は、現在の「カネ余り」の世界情勢(コロナ禍であってさえも!)を紹介し、これまで日本の観光の振興策で一般的だった、「ふつうの経済力の家庭から、超富裕層まで、広範な層をターゲットにする」という考えかたの限界を指摘しています。
 超富裕層は、混雑やありきたりの画一的なサービスを嫌う傾向があり、超富裕層を呼ぶことによって、効率よくお金を落としてもらうほうが、地域の発展にもつながるのではないか、と述べているのです。

 新千歳空港に降り立ち、新緑で覆われた北海道の大地を貫く一本道を運転すること2時間。一面白い花をつけたじゃがいも畑を抜けて、尻別川をまたくサンモリッツ大橋に差し掛かると、右手に突如巨大な建造物群が現れる、「パノラマニセコ」の別荘群だ。ヴィラなど12戸、レストラン、カフェが備わるクラブハウス1戸からなり、このうちすでに8棟は販売済みで、更にタウンハウスが2棟建設中だ。
 たとえば、432㎡のヴィラ(タイプ2)は、2つのマスターベッドルームを含む全5部屋のバスルーム付き寝室があり、天然温泉が引かれ、露天風呂もある。24時間対応のコンシェルジュサービスや送迎サービスなども付き、部屋からは「蝦夷富士」と呼ばれる北海道の名峰・羊蹄山、反対側からはニセコアンヌプリのスキー場が見える絶好の場所にある。5億3800万円で販売中だ。これらは、オーナーの意向によっては、貸別荘として宿泊可能なものもあり、グリーンシーズン(夏場)では1泊15万円台から利用が可能だ。コロナ禍ながら、新しいスキーシーズン(1泊23万円から)の予約も徐々に埋まりつつある。


 ここで紹介されているニセコの状況を読むと、「お金って、あるところにはあるのだなあ……」という溜息しか出ないのです。
 新型コロナウイルスの影響で、仕事を失ったり、ボーナスが出なくなったりで生活に困窮している人が大勢いる一方で、こうして、1泊23万円のニセコのスキーリゾートを満喫する人たちもいるのです。
 日本という国では、「富裕層だけをターゲットにする」というと「普通の人たちを排除するなんて感じ悪い」と思う人が多いし、「冬場だけではなく、夏でも、人を呼べるようにしたほうがいい」という意見が出てきがちなのですが、著者は、「広い層をカバーしようとすると、かえって優良顧客を満足させられなくなるし、富裕層向けの冬のスキーリゾートに集中したほうがいい、海外の高級リゾート地も、そうしているのだから」と具体例を挙げて説明しています。

 ここまでお読みになって、国内の投資と外資の投資の違いに気づかれただろうか。日本全国の観光地がインバウンドに平伏し、一般向けの「ゆるキャラ」やB級グルメを売り出すことから富裕層の嗜好に合わせた対応まで幕の内弁当的な全方位政策をとるなか、ニセコにおける外資の投資は、パウダースノーという絶対的なキラーコンテンツを最大限に生かし、「海外」「富裕層」「スキー」に絞った「選択と集中」を実践してきた。外資系のほうが長期的かつ集中投資であり、日系企業のほうが短中期的かつ逐次投資ともいえる。そう、太平洋戦争におけるガダルカナル島での敗戦が象徴するように、あの時以来、日本の企業や組織における行動様式は、いまだに大きく変わっていないのかもしれない。


 日本という国は、もはや、海外からみれば、「物価やサービスが安い、格差社会の国」になってしまっているにもかかわらず、企業や自治体は、一昔前の「1億総中流時代」のイメージを持ち続けているのが、なかなか変われない原因なのかもしれませんね。
 もはや「万人向けのコンテンツ」を成り立たせるのは難しい時代なのです。

 超富裕層でも、超富裕層相手にビジネスをやっているわけでもない僕としては、もう勝手にやってください、って感じでもありますが。

 もう皆さんは気付いているはずだ。日本全国、すべての都道府県市町村が一律に自立し成長していくのは無理だと。それなのに地方創生だ! 地域の発展だ! 地方の時代! と正論に基づくむなしい畝策やキャンペーンが横行している。
 東京一極集中は簡単には止まらない。コロナ禍下にもかかわらず、2020年5月、東京の人口は1400万人を初めて突破している。それが事実であり、かつ民意だといえないだろうか。地方や田舎の良さが強調されるが、職業選択や居住や移動の自由がある日本では、各人が自発的に選択した結果が今の東京への人口集中であることを忘れてはならない。誰も強制的に東京に集められたわけではない。好きだから、魅力があるから、チャンスがあるから、つまり、おカネが稼げるから、ヒトも企業も大学も、そしてカネも集まるのだ。
 コロナ禍により、むしろ全国一律の地方創生をやめる時が早まったのかもしれない。「選択と集中」は企業経営者だけでなく、政治家と我々国民にも突きつけられている。これから老朽化に伴う社会インフラの更新も増えてくる。自然災害も多い。全国津々浦々、治水工事と災害対策を施し、電気や水道を張り巡らし、ガードレールを整備して舗装していては、いつまでたっても富の実感が湧くことはない。どこでも空港に新幹線に高速道路、スタジアムにコンサートホールといい加減にすべきだ。インバウンドも観光もつねに当てになるわけではない。


 著者は、悪者になることを承知のうえで、あえて、「八方美人であろうとして、結果的に、世界から取り残されて、低成長にあえいでいる日本の現状」を嘆いているのです。
 でも、僕個人としては、これを読みながら、「そうだそうだ」とは思えなくて、「自分は取り残される側なんだよな……」と考えずにはいられませんでした。
 一部の有能な人、超富裕層がさらに稼ぐことによって、下々の者もそのおこぼれにあずかることができる、という「トリクルダウン」という考え方があるのですが、これまでの日本の状況をみていると、超富裕層はどんどん豊かになっていくけれど、それが貧困層に還元されることはなく(あるいは、されるとしてもごく一部で)、さらに格差が広がっていっているだけにみえるのです。

 著者が述べていることは、ニセコにとって、超富裕層と、彼らを相手にビジネスをする人にとっては「正解」なんですよ。
 そして、「誰に強制されたわけでもないのに、多くの人が東京に集まってくる」のも事実です。
 
 それでも、日本は「成長」すべきなのか?
 そもそも、その成長は、自分の幸せにつながっているのか?

 だからといって、このまま何も変えないのが正解とも思えないしなあ……


fujipon.hatenablog.com

地域が稼ぐ観光 (Business Books)

地域が稼ぐ観光 (Business Books)

 

アクセスカウンター